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2022-02-28

146.IR:日本企業の投資行動 ⑪D/E比率 3)

IRを推進する三つの都道府県等による区域整備計画案がでそろい、ある程度の情報が開示されているので、ここから読み取れる事業者の考え方を推測してみたい。
いずれも施設や提供される機能等はしっかり記載されており、良くできていると評価できる。
一方、資金調達等に関しては残念ながら全ての情報を開示していない都道府県等・選定事業者も存在する。
よって、下記は正確さに欠く嫌いもあるが、第三者が外部から見ているとこう写るという一つの考えでしかない。
あくまでも推測であり、より正確な情報が開示されれば、当然下記見解は変わりうる。

大阪:
D/Eは50/50。
外資と本邦大手企業との50/50のパートナーシップで開発を進め、応札し、事業者として選定された。
巨額の事業費になるが、D/Eを50/50とし、出資比率を高くとることで金融機関に事業者としての意欲を示したともいえる(出資金は5300億円と超巨額になる)。
あるいは、金融機関との交渉をスムースに進めるため、銀行の主張をそのまま受け入れたのかもしれない。
この場合、出資者が出資金を拠出できる資力がある企業であることが前提だ。
しっかりとした手元資金があるか、出資金を調達できる資力があるか否かがポイントになる。
この前提で評価・審査を経て事業者として選定されたのだが、選定後代表企業の二社の出資率を40/40にdiluteし、20%を関西地元企業20社に少数株主として参加せしめることに成功している。
事業会社のガバナンスは代表企業二社がしっかり支える仕組みだろう。
出資側をしっかりと抑えた上で、メガバンク二社と交渉に入ったものと想定される。
手順としては着実、枠組みとしては理想的、盤石に見える。

長崎:
D/Eはやはり50/50と変わらない。
この内出資金1250億円は外資系企業グループが1/3、出資に賛同する日本企業数社が1/3、地元企業を含めた本邦企業複数社が1/3の構成になるという報道があった。
おそらく外資系企業グループが31%をとり代表企業ということなのだろうが、リーダーシップを発揮できるにはこの出資率は若干弱い。
戦略としては異なる株主類型毎に3分割するということなのだろうが、最初から株主を分散化し、多数の少数株主を抱えるということは、問題を抱えやすい。
合意形成に時間がかかり、かつ事業ガバナンスは確実に弱くなるからである。
出資企業名も出資率も一切開示されていない以上、何処まで固まっているのか解らない。
出資株主の詳細が決まらなければ、金融機関との融資交渉も始まらないし、廉潔性のチェックもできない。
勿論欠け目を代表企業が補填することを確約すれば問題ないのであろうが、それができるならば最初から代表企業が大きく出資し、代表企業が自らのB/Sで事業を支え、後刻diluteすればいいだけの話だ。
出資構造の不安定さは、ガバナンスの弱さ、全体の仕組みの脆弱性をも示唆しているように思える。

和歌山:
D/Eは70/30と負債比率を大きくとる、かなり野心的な構図になる。
出資金が少なければ少ない程金融機関のリスクが増え、それだけ融資交渉は難しくなり、ハードルも高くなる。
このD/Eで3250億円に達する融資につき、金融機関を説得できるのか懸念が残る。
他の二件と比較して、特段有利なリスクプロファイルやキャッシュフローを保持しているとは思えないからだ。
主幹事銀行は外銀で融資と社債発行のベストミックスを志向としているが、これも野心的で出資親会社の保証が結果的に要求されれば、出資親会社のエキスポ―ジャーはかなり大きくなる。
出資金は1450億円となり、代表企業となる外資系企業二社が55%を出資し、米国カジノ運営企業が5%、両方で60%を占める。
残り40%を少数株主が負担とあるが、詳細は開示されていない。
当該米国カジノ企業は過去日本市場に関与はしても投資はしないと公言した経緯があり、どうIRに関与しうるのかもよく見えない。
コミットメントのレベルが低ければ、それ相応の関与しかできないからだ。
その他の出資企業も誰がどの程度出資するのかの情報も開示されていない。
かつ新たな出資者の廉潔性の検証・確認はどうするのであろうか。
時間の問題で、しない、できないとなれば手続き上の問題も生じそうである。

出資者や融資主体の顔が見えない状況では、案件の実現性や実効性は理解できない。
但し、事業者にとっても現状は巨額の投融資に対し、明確なコミットメントができにくい環境にあることは確かだ。
中核となる投資主体にしっかりとした戦略、実現へ向けての強い意思と時間を管理して目標を達成する資力が無い限り恐らくうまくいかない。
表面的に問題をとりつくろうことはできるだろうが、弱い仕組みはどこで躓くかわからない。
これが巨大投融資事業の本質的なリスクなのだ。
おそらく上記三事業者は保証金を積み立てている以上、区域整備計画提出時点迄には出資者・融資者の候補者リストを纏めて提出するのだろう。
但し、その内容がしっかりとした確実なものか否か、表面的なリストの主体が資金を実際に拠出できるのか否かは全く別の話だ。
実現迄のハードルは確実に高く設定されることになる。
全ての事業者が前提条件を満たして確実にファイナンスクローズまで到達できるか否かは現段階の情報では定かとは言えない。
整備計画や運営計画がしっかりしていても、実現できるか否かは他の要因にも依存する。
都道府県等はこれを冷静に評価し、実行性の有無を評価できるだろうか。
民間事業者ができると主張すれば、表面的に体裁の整った計画を拒否することはできないと断言できる。
所詮資金を出し、リスクを取るのは民間事業者で都道府県等ではないからだ。
これがそのまま国に提出された場合、国の評価委員会は都道府県等が提出した計画案を実効性が無いとして拒否できるであろうか。
要求水準を満たす限り、単純な形で欠格とすることはできず、曖昧さを残しながら認定してしまうのではないか。
リスクを取るのは都道府県等と民間事業者で国ではないからだ。

(美原 融)

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