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2021-12-13

136.IR:本邦企業の投資行動 ①Majority interest?

IRに積極的に企業として出資し、開発に関し主導的な役割を担いたいと考える本邦企業は実は限られる。
残念ながら、本邦企業の過半は、何らかの形でビジネスメリットを取る参画はありえると考えてはいるが、出資することを前提に積極的な活動をしている企業は極めて少ない。
かつ、この中で、マジョリテイ―の出資率を取り、開発に積極的に関与したいと考えている企業は当然存在するのだが、数としては更に限られる。
この背景には様々な理由が考えられる。
例えば、①巨額な投融資事業となり、個別企業としての資金拠出に伴う財政的負担がかなり重くなること、②IRはエンターテイメント・カジノ等が主要な事業となるが、本邦企業の中にこの分野における知見や経験がある企業は殆どいないこと、③カジノは、制度上は認められているとはいえ、社会的には未だ認知されている産業とはいえない状況にあり、上場企業たる民間事業者が積極的な関与を表明した場合、株主を含め社会的な批判に晒されるリスクはありうること、④本邦初めての事業として果たして成功するか否かの実績はないわけで、事業としての本来リスクはそもそも大きいこと、⑤また失敗は許されないことより参加に伴う企業としてのレピュテーションリスクがあること等が、本邦企業の足かせになっているのかもしれない。
もっとも諸外国では商業的賭博は、初めて実践される場合、失敗した事例はなく、事業性の高い民間事業として知られている。
この意味ではわが国においても通常の産業よりは高い投資リターンが得られる可能性は十分ある。
但し、ハイリスク、ハイリターンのプロファイルとなる事業であることは明確で、これを企業としてどう評価するかという問題は残る。

もっとも総事業費が1兆円~6000億円程度になるIRの場合、この事業の開発に積極的に参加し、主要な出資者となることは左程単純な話ではない。
例えば総事業費が少なめで6000億円としよう。
日本では実績の無い、リスクのある事業である以上、出資率は最低総事業費の30~50%程度を保持しなければ、銀行は信用せず、資金を貸してくれない。
出資額を数%と極小化し、殆どの費用を借り入れで賄うPFI的な事業はリスクが殆ど無い割賦だからできるのであって、IRの場合にはプロジェクトファイナンスでもスポンサーが担うべき負担は根本的に異なってくる。
もし本邦企業が外資と対等に50/50のパートナーシップを組むとし、出資率は総事業費の30%~50%だとすると、日本側の出資金額は900億円~1500億円になる。
現実的には、これだけではすまず、出資親会社として銀行団に対し、様々なSPCのリスクをサポートすることを求められ(例えば完工保証、履行保証等)、かつ都道府県等も様々な親会社保証(例えば出資確約、SPCの履行保証等)を要求する。
よって企業にとってのリスク・エキスポ―ジャーは資本金を遥かに超えるレベルになる。
こうなると、出資行為を決断するにも企業としてはかなりの覚悟が必要になる。
リスクのある新規事業に巨額の企業のリソースをコミットすることに関し、役員会や株主の了解を得ることは単純ではないという事情もある。
このリスクを積極的に取れる主体とは、資金力も資金調達力もあり、新規事業やリスクに果敢にチャレンジできる大企業、もしくは本業が極めて類似的なエンターテイメント業で、業としての親和性が高かったり、企業が担う既存の機能にシナジーをもたらしたりする可能性が高い大企業かもしれない。
外資企業と連携し、開発と実践を担うことに名乗りを上げている企業は結構存在する。
但し、これら企業は事業のリスクと資金調達が抱える諸問題等を何処まで認識した上でフォローしているのだろうか。
企業の株主や様々なステークホルダーは、企業の存続を賭け、巨額の出資行為をすることに果たして納得するのであろうか。

では単一企業ではなく、本邦の複数企業が企業間でコンソーシアムを組成し、個別企業としての負担をできる限り小さくし、これらの企業群が一つの隗となって出資すればマジョリテイ―は取れるとのではないかと考える向きもいるだろう。
果たしてこれは実務的に機能するのだろうか。
経験のない企業群が集まったところで、収益の要となるカジノ業の戦略をどう立案するか、事業の責任は誰がどうとるかにつき、合意形成が単純にできるとも思えない。
財務的な負担を少なくするために、仲間を増やせば増やす程意思決定メカニズムは機能しなくなってしまう。
カジノ部分の収益が事業の要であるとした場合、カジノの運営戦略が、事業体としての行動を決めてしまうことになり、事情を知らない企業群が集まっても良い戦略を描くことはできない。
またIRの経営とカジノの運営を切り離し、日本の企業群がIR事業全体をマネージし、海外カジノ事業者にカジノ部分の運営を委託することは制度上認められていない。
よってSPC自体がカジノ免許を取得し、法律上のカジノ事業者となり、IR全体をマネージせざるを得ないわけだ。
この様な場合、SPCの主導権、マジョリテイ―をカジノ事業者がとって初めて事業としての整合性のある意思決定ができる。
こうなると、本邦企業としてどういう立ち位置で事業への参画や協力を考えるかは微妙な選択肢となってしまう。
できうる限りカジノ事業者と対等なポジションに立ち、株式割合をほぼ同等に取る場合もあれば、カジノ事業者に従位する立場での一部出資参画もありうる。
あるいは本邦企業として、出資行為には関与せず、あくまでも協力企業として、業務委託や請負工事等により、ビジネスメリットだけを取るという戦略もある。
但し、委託や工事だけでの協力ならば通常のビジネスと変わるところはない。

本邦企業の立ち位置によっても、事情は異なるのだろうが、例え一部にしても、出資を検討し、より深く事業に参画し、協力せざるを得ない場合には、担うべきエキスポ―ジャーと経済的メリットが釣り合うかという課題を慎重に考慮する必要があるだろう。
出資を検討する場合には、事業に係る精緻な市場分析とこれを担う知恵と覚悟が必要だ。
マジョリテイ―を取らない場合、どうしても事業に対する評価は甘くなるからである。

(美原 融)

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