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2021-12-20

137.IR:本邦企業の投資行動 ②Minority interest?

IR事業にマイノリテイ―の出資参画をして、これを梃に、本業の機能で事業への参画を期するという考え方も勿論ありうる。
例えば、事業主体となるSPCに一部出資することにより、本業である設計、建設、維持管理、あるいはホテルやMICE施設・カジノ外のエンターテイメント等のセグメント分野の運営等を親会社となる関係性を梃にして請け負うという考えだ。
マジョリテイ―を取る企業から見れば、これは出資必要額やリスクの分散化というメリットをもたらす。
かつもし外資企業がマジョリテイ―を取ろうとしている場合、最低51%の株式比率を自らとり、残りの株式を本邦企業群に分散して持たせるという考えを取ることが多い。
事業全体のコントロールとガバナンスは自ら担い、自分の弱い側面を協力企業が補充・補完することになるからである。
制度や慣行に熟知している本邦企業との連携・協力は我が国においてスムーズな業務遂行のためには必須の要素でもある。

例として建設請負会社の行動を考えてみよう。
IRの動きが活性化するかなり前から大手ジェネコンは外資カジノ大企業に対し、営業的なアプローチを継続してきたことが事実だ。
大都市の場合、IRは巨額な地域開発、設備投資を伴うことは間違いなく、わが国建設請負会社は何らかの形で必ず関与することになる。
この場合、如何なる戦略と方針を取るかは個別企業により異なる。
単純な請負工事のみではなく、事業からの配当を期待し、出資行為を伴う事業参画を志向する企業も当然いるだろうし、誰が選定事業者となるか必ずしも明確ではない競争的環境の下では、勝ち馬に乗るという戦略もあれば、特定外資企業と排他的なな関係を持ち、決め打ちという戦略もありうる。
但し、出資行為を考える場合、出資金自体が巨額になることは確実で、例え投資リターンが期待できるとはいえ、本業とは全く異なる未知の領域に巨額の資金を投資できるほど世の中は甘くはない。
そこでマイノリテイ―の出資を前提に、①出資することで事業会社の一翼に参加し、請負工事を確実に、いい条件で受注する、②運営開始後も一定の配当リターンを期待する、③マジョリテイ―を外資が取る前提ならば、複数の本邦企業と連携・協力し出資することで、事業の枠組みの中で一定の発言力を日本企業群として維持する等という戦略が立案されることもある。
もっとも、5%以上の出資となる場合、カジノ管理委員会による企業組織・役員等に対する廉潔性に係る背面調査の対象になってしまうため、これを忌避する日本企業もいるかもしれない。
5%以下の出資を企図し、複数企業との連携や地場企業の参画によりできる限り仲間を増やすという戦略もありうるが、意思決定のメカニズムが複雑になり、発言力は弱くなってしまう。

マジョリテイ―を取る外資企業にとってみれば、このような形で日本企業と連携協力することにはデメリットもある。
建設請負企業が小額の出資で、巨額となる工事を担う場合、請負金額に出資額を上乗せしてしまえば、出資相当金額を工事の進捗と共に回収できることになり、実質的な出資額はゼロになってしまう。
マジョリテイを取る外資企業にとってみれば、SPCの費用負担が増え、事業リターン(配当)は減ることになる。
事業から見た場合、請負工事金額は小さければ小さい程良いわけで、出資者というだけでなんの交渉も無い儘、請負工事金額を言い値で決めることは、リターンを犠牲にして請負工事会社を利することになる。
この場合には、出資者間で明らかに利害相反関係がある。
この本邦請負建設会社の行動は、フローの仕事(請負工事契約や委託契約)を確保するために、名目的、少額の出資行為をする(ストックを負担する)というビジネスモデルになる。
リスクの無い静態的なビジネスの場合には、この考えは成立する。
例えば箱モノPFI事業に本邦工事会社が代表会社となり、導管体としてのSPCを設けるような場合だ。
事業リスクが限定的であるならば、出資率をできる限り小さくし、融資金を大きくとるというレバレッジの効いた資金調達が可能になる。
この場合、出資参加者が自分の所掌の範囲内でビジネスメリットをとる(フローの収益を各自が取る)形で総事業費を纏めることができれば事業は成立する。
出資金がもたらす配当(ストックの収益になる)等は無視してもよいという考え方なのだ。

但し、この様な考えはリスクのあるIR事業の場合には、うまくいくとは限らない。
IRは単純な建設や箱モノを中心とした開発行為とはいえず、運営に大きなリスクと可能性があり、IR全体施設を管理・運営し、初めて巨額な投融資を回収できるというビジネスモデルになるからだ。
この場合には、フローではなく、ストックを収益の源泉とする仕組みを基本としなければ、全体が機能しなくなる。
重要なのは開発行為により施設を整備することではなく、施設を整備し、これを運営して、収益を上げることにある。
ハコさえ作れば確実にもうかる事業という甘い期待感が当初本邦企業には存在し、これが根拠なきイル―ジョンと熱狂をもたらし、例えマイノリテイでも出資を考えるという安易な行動に結びついた側面がある。
おんぶに抱っこでも儲かりそうだから何でも良いではないかという考えもありそうだが、これでは健全な投資行為とは言えなくなる。
出資行為をする場合には、例えマイノリテイ―でも少額出資者としての立ち位置を認識し、しっかりとした事業経営と配当を期待する主張とその覚悟が必要となる。
関係性を保持したり、自分の事業範囲を囲いこんだりするために行うマイノリテイ―の出資行為をする場合でも、事業性の精査や事業の実効性・確実性をしっかりと行い、投資行為に伴うリスクを認識しなければ、おそらくどこかで躓く可能性もありうる。

(美原 融)

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