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2020-07-27

12.IR:投資行為と将来予測の難しさ

コロナ禍により、観光産業もエンターテイメント産業も未曽有の苦境の中にある。
いずれも顧客が来訪し、支出をしてなんぼ儲かるという現金商売になるため、現場の集客施設が閉鎖されたり、顧客が来れなくなったりすれば、収益の糧が途絶え、大きな問題に直面する。
関連する企業にとり、短期的には負債の返済や固定費等の支出は継続するために、資金の流出に繋がり、財務状況は急速に悪化する。
これに対処するために、費用の縮減、職員のレイオフ等により時間を稼ぎ、事業再開に備えることになる。
かかる営業停止状態が長期間に亘り継続するとは到底考えられないからだ。

国際的規模での観光産業の萎縮、旅行や移動の自粛ないしは委縮は過去にも生じたことがある。
一端需要が落ち込むと、回復に時間がかかることもあれば、短期間で元のレベルに戻ることができることもある。
観光への需要や支出は、本来一定の底堅い需要があるものなのだが、落ち込んだ需要が回復するか否かは、一般的な経済の好況と活性化、一国を取り巻く環境の改善、感染症が収束し、顧客にとり移動・交流に係る安心・安全が確保されること等が必要だろう。
但し、観光産業は基本的にはサービス産業であり、ヒトが移動に不安や心配を抱かなくなる場合、国内需要は相対的に早く回復するのではないかと想定されている。
一方インバウンド観光客の回復は、諸外国における感染症の収束状況、政治的・社会的・制度的状況・環境、航空機を利用する国際間の人々の移動の利便性等の回復次第かもしれない。
これも長期間に亘り停滞することは考えられず、時間をかけ、段階的に回復基調へと戻るはずと考えられる。

問題は、現状の体制を崩さないまま、回復への足掛かりを模索している段階においては、将来の事業計画の在り方が短期的に見えなくなることにある。
将来の投資計画や事業計画は、あくまでも通常の経済状態において、将来における発展や成長への道筋が見えるからこそ可能になる。
リスクを取り、投資を担う行為は、そのための良好な環境があって初めて実現性、実効性が高まる。
投資をしても、投資に見合うリターンが得られる良好な環境に事業が実現した時点でなっているか否かの判断は、現在の様な状態では中々できにくいし、その結論が見えにくくなってしまうことも事実だ。

IRの開業は2020年代後半と想定され、かなり先の話になる。
但し、実際の投融資活動はその前に実行されることになり、(都道府県等による)事業者選定、(国による)区域認定、(民間事業者による)資金調達・設計・建設・運営に至る体制準備、カジノ免許取得等が先行することになる。
事業者選定に至る公募手順・審査選定手続きは、最低半年は必要であろうし、区域認定手順も半年はかかる。
民間事業者としては5~6年先の経済状況を見通し、その段階で開業したとき以降の収支の見通しが必要になってくる。
実現に至るまでのリードタイムがかなり長いこと、民間事業者としてはかなり早い段階において投資行為への確約を求められるという構図になる。
市場が縮小している段階で、中長期の投資計画を果敢に決断できる民間事業者はいない。
本業を立て直すことの方が当面の企業戦略上の優先度が高いからである。
一方、都道府県等からすると、市場環境がかかる状態になった場合、IRのような巨額の民間投資を前提とする提案を募る公募を実施する行為は、かなりリスクが高い。
事業者が提案に躊躇し、明確なコミットをしないかもしれないし、そもそも誰も応札せず、入札自体が成立しないということもありうるからである。
もっともIRは、区域認定を取得することが一種の独占的な利権に繋がりうるため、投資確約を曖昧にし、利権だけを取ることを狙いとする事業者は、実効性の無い構想・計画のみの提案をするかもしれない。
例え1社だけであっても、入札は入札であり、他社との競争が無い状態で優位に交渉の場にたてると考えることはあながちおかしなことではない。

勿論かかる行為を防ぐためには、しっかりとした要件を公募の中で明確にし、実効性の無い提案を排除する事業者選定判断基準を設け、バイアスのかからない形で事業者提案の評価をすることにある。
逆に透明性に欠ける手順がとられ、政治的バイアスや政治の介入等がもしありえたとすれば、確実に案件形成は歪むことになる。
本来、投資を確約できうる財務力の強い、信頼おける民間事業者を基本コンセプトをベースに選定し、この基本コンセプトを下に、環境の変化、市場の変化に応じ、事業計画を柔軟に変更していくというアプローチならば、民間もリスクを取れる。
但し、IR整備法はかかる仕組みではなく、区域整備計画において、コンセプトを固定化し、かつ資金調達の確約をすることが基本的なアプローチになっており、かなり早い段階で枠組みを固定せざるを得ないことが前提となっている。
この場合、急いで枠組みを固めようと案件の実現を強行する場合には、案件形成が歪む可能性が高まる。
制度の枠組みを変えない場合、最も良い選択肢は、市場環境が改善し、民間事業者の投資への信頼が再構築できるまで公募(RFP)のタイミングをずらすことにある。
かつ、できうる限り競争環境を保持し、複数事業者による提案競争を実現することだ。

市場環境が最悪の中で投資提案を募ることほどばかげた行為はない。
一端動き出した国や都道府県等の動きはそう単純には変えられないが、もちろん政治的意思さえあれば何とでも変えられる。
慌てずに、慎重に市場の回復や投資家の信頼回復を見極め、行動することが肝要であろう。

(美原 融)

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