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2020-08-03

13.自治体間・地域間競争がもたらすもの

競争は、それが健全、公正、公平になされる限り、最も優れた者が勝者になり、経済的・社会的効果が高まる結果をもたらす。
競争に参加するものがお互いに努力を発揮し、切磋琢磨することにより、イノベーションが生まれ、付加価値も生まれる。
もっとも、そんなに単純でないのは、競争への参加者はいずれもが、競争相手を考慮し、これを打ち負かすために競争対抗戦略を考え、実践するからだ。
民間主体同志の競争の場合、競争に打ち勝つためには、①評価を得られる要素に注力し、競争相手より優位性のある内容の提案を考える、②競争環境、競争相手の状況・進捗・意図をできる限り詳細に把握する(あらゆるリレーション、エージェント、行政府・政治家のコネを用い、相手の提案の戦略・内容を把握する。
これが少しでもわかれば、これを凌駕する対抗提案を考える)、③競争相手の行動を阻害するような合法的な行動をとる(競争相手が参加しにくくなる環境を直接的・間接的に創る。
例えば、競争に参加する有力なベンダーを独占的に抱える、地域企業との協力関係を梃に確実に有利なポジションを確保する)等の行動がとられることがある。
勿論状況次第ではこの中には制度的、あるいは倫理的に認められない考え方をも含み、全てが可能ということではない。
競争に勝つという視点に立つ場合、逆説的だが、競争の意味をなくす優位性を確保する、あるいは競争自体を中立化させ、回避してしまえばいいわけで、ここに不健全な民間主体の行動が生まれる可能性は否定できなくなる(例えば公共調達における談合や癒着・贈収賄・汚職等を見ればこれは明らかであろう)。

異なる自治体が制度上の競争の対象となる場合はあまりないが、お互いが自由な環境の中で勝手に張り合って実質的に競合する場合はある。
自治体間・地域同志での間接的な企業誘致競争や、手上げ方式により、意欲と意思のある自治体の提案のみを取り上げる場合等は、自治体間での競争は起こりうる。
もっともこれらは自治体の裁量と判断による行動の結果でもあり、自治体間で競合はしているかもしれないが、勝ち負けの競争とは言えないかもしれない。
他者との比較により優劣が決まるというよりも、自らの魅力が優劣を決めるという側面もあるからである。

ところでIR制度の場合には、国が一定の認定判断基準を示し、この基準を満たす自治体を、国が上限三つ迄認定・選定するという自治体間の競争になることが前提だ。
三つ以上の数の自治体が申請すれば、これは明確かつ単純な自治体間の優劣を競う競争になってしまう。
かつ認定のための判断基準のハードルはかなり高く、費用も時間もかかる。
またもし、申請主体が多い場合には、複数自治体の提案の優劣を国が評価し、選定することになり、選ばれないリスクがある。
あるいは、申請内容自体が国の要件を満たしていないと判断される場合、認定を受けられないリスク(失格、欠格)を抱えることになる。
IR誘致を企図する自治体は、地域社会の合意形成を得て、議会の同意をもとに準備をすることが必要で、公募により投資・整備・運営を担う民間事業者を選定し、この事業者と区域整備計画を国に認定申請し、その評価次第で認定されるのだが、そこに至る迄のリードタイムは長く、一端始めるとヒトも時間も費用もかなりかかってしまう。
これらプロセスはオープンになるため、誘致を欲する都道府県等にとり、誰が競争相手となるか、如何なる競争環境になるかは、やってる途中でこれを把握することができる。
もっともこうなると、自治体間競争が生じていることになり、自分の事情・進捗やスタンスの情報公開は極度に慎重になり、逆にあらゆるコネを総動員し、競争相手の都道府県等の情報をできる限り取得しようとする行動が散見されるようになる。

もっともこのIR制度における自治体間競争だが、もともと競争環境が競争主体にとり完全にイーブンとは言えない場合もある。
例えば地政学的に有利な地域や大都市を含む自治体と地方の中小観光都市ではIRの前提や環境は同一ではないことは明らかだ。
民間主体は、より事業性の高い、地政学的に有利な地点・自治体を選好し、Beauty Contestの様に魅力的な自治体と連携することを志向するからである。
民間主体にとり魅力が無いと思われる自治体はしっかりとした民間事業者を選定できなくなるリスクもある。
かかる状況にある複数の自治体を公平に扱おうとすると、国にとり、提案の相対評価はできにくい。
環境や条件、投資規模、経済効果の大きさ等は選定基準になりにくく、個別の案件毎に絶対評価をするという手法しかなくなる。
かつ、この場合、主観的な判断が入りやすい側面もありうる。
大枠の評価項目は基本方針で理解にできるが、これだけでは詳細評価の手法・在り方は理解できない。

尚、かかる状況下における自治体間競争でも、自治体による非合理的な行動は起こりうる。
競争相手となる都道府県等とは反対の行動を取ることにより、相手の脱落を誘因する、助長する、相手の行動を合理的に阻害すること等は行動としてありうる。
例えば大都市候補自治体が、時間が欲しい、このタイムフレームでは難しいと遅延を国に要請する場合、このタイムフレームで十分できると主張することにより、これが通れば競争相手の都道府県等はやりにくくなり、脱落の可能性は大きくなる。
逆に、時間的余裕がある場合、新たに強力な競争相手が申請することを許すことにも繋がる。
この場合、地域としての戦略的優位性が無くなり、XXX Firstと主張してきた民間事業者は、競争相手の自治体に鞍替えしかねない。
もし、しっかりとした民間事業者が応札しない場合には、そもそも案件構想自体が潰れることを含意する。
このように、事の是非は横におくと、自治体の意識と行動は、常に他の自治体との競争を前提とし、少しでも競争優位性を確保しようとする衝動がおきてしまうため、合理的ではない行動をとることがある。

(美原 融)

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