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2021-06-30

103.都道府県等によるインフラ負担金等要求施策

IRは数十ヘクタール以上の用地に、多数の集客を可能にする巨大施設群を建設する一大再開発事業の如きものだ。
万単位の人が常時働き、毎日かなりの顧客が来場することが想定される新たな街づくりに近い。
かかる開発行為が行われる場合、当然アクセス道路、周辺道路・公道上の街路・植栽等の整備、上下水道やインフラ共同溝の新たな整備、廃棄物の処理等設置運営事業者ではなく、関連自治体(特に市町村)が費用を負担し、整備することが求められる業務が新たに生じてしまう。
大都市における開発行為は官、民双方に様々なメリットをもたらすことになるのだが、開発行為に付随する周辺道路やアクセス道路の整備等に関しては、当該メリットを享受できる民間主体が限定される場合、これら費用の一部を当該主体に開発負担金として分担せめることは慣行として行われている(負担金の性格により税務会計処理は異なるが、土地の取得価格に追加的に算入したり、無形減価償却資産又は繰延資産の取得等として償却したりすることが税法上認められている)。

一種の開発負担金を求めるという考え自体はおかしくないのだが、問題は、IRとはカジノを含む極めて採算性の良い民設民営事業、ならばこれを活用し、あらゆる関連インフラ等の整備負担費用をも事業者に求めることは可能だという考えが当初から都道府県等にあったことにある。
初期の構想計画段階で、欧米の大手カジノ事業者トップが都道府県知事等に面談、何でも協力する、いくらでも支援する等大盤振る舞いのセールストークを言明したため、大きな負担を要求できるという考えが固定し、後から修正できにくくなってしまったという経緯もある模様だ。
募集要項段階で公表された所謂インフラ負担金は半端な金額ではない。
大阪府・市の場合はインフラ一部負担金202億5000万円、佐世保市は周辺交通環境改善・観光振興負担金として147億円、和歌山県・横浜市の場合も開発負担金を求めることの記述はあるが、公開されている情報では詳細は解からない。
後者の場合、条件規定書に記載されているのであろうが開示の対象となっていない。
尚、事業者が負担すべき費用等は上記だけではない。
例えば用地を公的主体が譲渡ないしは賃貸する場合、その対価(大阪府市は賃貸で25億円/年、長崎県は譲渡で205億円、和歌山県は譲渡で88.8億円、横浜市は非開示)環境アセスメント費用負担(大阪府市6975万円)、ショートリスト事業者背面調査費用(長崎県1000万円)、都道府県等起用アドバイザー費用(大阪府市3.77億円)、公募参加資格費用(長崎県1.58億円)等である。
支払い対象となるのは都道府県等の費用のみならず、区域が存在する市町村の費用をも対象とする場合もある。
要は案件形成に係る行政が負担する全ての費用等は入札に参加する選定事業者候補、選定された事業者に負担させるという考え方になり、IR実現のために市民の血税は用いないということでもあろう。

インフラ負担金は具体的にはアクセス道路拡幅、アクセス橋梁等建設、施設と連結する鉄道駅整備費用、上下水道配管施設整備等になる。
確かにかかるインフラ施設整備の唯一の便益者は設置運営事業者でもあるのだが、かなりの高額になることは明らかだ。
開示されていない費用負担項目もさらにあると考えられ、総事業費の中で、かかる費用が占める割合は相当な額になる事は間違いない。
どういう風な負担の在り方になるのかも情報公開はない。
都道府県等が一括工事を実施し、単純に開発費用負担として後刻支払いを要求されることもあるし、アップフロントで一定額の支払いを要求されたり、あるいは、事業者が資金手当てを担い、工事の発注者として工事を実施し、完工後、施設を関連市町村等に無償で譲渡したりすることもありうる。
設置運営事業者からすれば、利権取得のための必要コストとなってしまうのであろうが、下記効果をもたらす。

  1. 公的主体が担うべき業務の費用を民間が負担することになり、直接的に事業とは関係ない追加費用になる。
    本来施設整備に用いられる資金がその分減殺することになるため、事業者の名目的期待リターンは下がり、資本効率は悪くなる。
    逆に公的主体にとっては極めて効率的な事業になる。
  2. 場合によっては施設整備のみならず、維持管理・運営等の費用や所掌を要求されることもある。
    本来施設の価値を向上させるために使える資金が施設外のインフラ等に充当されることになってしまう。
    際限なき費用負担要求は果たして適切といえるかのかどうか、問題となりうる。

もっとも諸外国では地域社会における賭博施設設置の同意を得るために、地域社会貢献負担金として、税ではないが毎年現金を自治体に交付する仕組みを設けたり、地域社会が要求する公益的施設の整備や公共工事負担等を事業者が任意にコミットしたりするような事例もある。
あるいは地下鉄駅が構造的に一体化するため、BTO的に事業者が資金負担、整備を担い、完工後、これを公的主体に譲渡、後刻利用料金から整備費相当分は行政から支払うというケースもあった。
これなどは単純に民に一体的整備として、資金調達と建設を委ねる合理的な考えで、単純な負担金要求ではない。
競争が激化すると地域社会への大判振舞いになりがちなのだが、果たして健全な施策と言えるのかに関しては懸念する意見も諸外国にはある。
我が国においても、国庫補助金や交付税の対象になりうる橋梁等の大型インフラ施設の整備だけならば、都道府県等あるいは市町村が通常の公共工事として手掛けた方が全体の社会的費用は安くなるかもしれない。
民に負担させたつもりがブーメラン的に別のところで社会的費用が増えることもありうる。
過剰な要求により、民間負担を増やすことは、公的主体にとり必ずしも良いことばかりにはならないことを理解する必要がありそうだ。

(美原 融)

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