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2021-07-05

104.IR:都道府県等による事業者誘致戦略

公的主体(都道府県等)が民間事業者による投資誘致を図る場合、相応の戦略が必要だ。
民間のリスク、民間の資金で一定の開発行為を実践することが前提となる場合、投資誘致の要件やハードルが高すぎれば、そもそも事業性は無いと判断され、投資家は忌避し、案件自体が成立しない。
公的主体は、事業者にとってのモチベーションを損ねない形でうまく事業実施のための前提を整え、あるべき要件や条件を設定する必要がある。
民間事業者は、投融資を実行しても、(リスクはあるが)確実にペイするという自信が無ければ、誰も投資するわけがない。
この場合、公的主体にとり、もっとも効果的かつ有効な投資誘致の戦略は、民間のモチベーションを喚起し、競争的環境を工夫により創出し、公募により複数の潜在的事業者に提案競争をさせ、もっとも適切な提案をした民間事業者を選定することだ。

IR事業も、都道府県等から見ると、その本質は都道府県等による一定の区域における、法が定める特定の施設群に係る投資誘致になる。
都道府県等が区域を指定し、大枠の要件を設定し、公募によりこの条件を満たす事業契約を提案する民間事業者を選定する。
民間事業者は、この提案を実現するために、自らの資金・リスクで特定の施設群を整備し、運営することになるわけだ。
この側面を見る限り、都道府県等と民間投資事業者との間の関係でしかすぎないのだが、IRの場合、ことはそう単純ではない。
都道府県等による投資誘致は、単純に公募により意欲ある、民間事業者を選定するだけでは完結しないし、実現もしない。
投資意欲のある民間事業者を公募により選定した後に、この民間事業者と共同し、IR区域整備計画を作成し、これを一定期日(2020年4月28日)までに国土交通大臣に提案し、大臣がその内容を評価、審査し、認定して、初めてこの区域整備計画と投資誘致事業が有効になる。
但し、IR整備法は区域の上限数を三つと規定しているため、もし、複数の都道府県等が提案すれば、自治体間の誘致競争になることを意味し、必ずしも大臣の認定を取得できるとは限らなくなる。
国としての区域認定判断基準は国土交通大臣が基本方針として規定しているが、都道府県等にとっては、自らの評価と判断が最終とはならず、それ自体が国土交通大臣の評価と判断に晒されることを意味する。
区域認定には、これらハードルを全て乗り越えることが必要になるわけだ。

民間事業者から見た場合、民設民営の投資事業でありながら、その枠組みを固める迄に二つの競争(事業計画を提案し、都道府県等に選ばれる競争、都道府県等と連携し、国土交通大臣により区域認定を受けるための競争)に勝たざるを得ないことを意味する。
国による区域認定は、地域や規模等に特段の制約を設けず、公平になされるはずだが、民間事業者はIR誘致を図る都道府県等を天秤にかけ、確実に認定を受けやすい自治体、要件ハードルが相対的に低く、事業性の観点から確実に実現しやすく、市場的にも優位と判断される都道府県等を選好する性向が強い。
一方、都道府県等は独自の観点、判断により要件や条件を設定し、法に基づき、民間事業者の投資誘致を図っているだけで、直接的に自治体間の競争に参加しているという意識は希薄である。
ところが民がリスクを取るという制度の大きな前提は、民間事業者がよりアクテイブに動く効果をもたらした。
Beauty contestの様に、魅力ある都道府県等に潜在的事業者の関心が集中し、魅力が薄い、あるいはハードルが高すぎる、あるいは事業性を確保できる市場ではないと判断された都道府県等には、限られた民間事業者しか興味を示さなかった。
この結果、応札予定者が(応札の前までに)1社しかいないという状況になった都道府県等や、応札者の辞退により、気が付けば1社のみの応札になっていたという都道府県等もでてきてしまった。
こうなると競争環境が喪失し、都道府県等は競争による提案メリットを生かすことはできず、内容を詰める交渉上のレバレッジも喪失することになる。
この場合、単一事業者の提案の枠内で妥協するか、誘致を断念するか、再度要件を再考し、検討をやり直すという選択肢を迫られるが、やり直しができる時間的余裕はまずない。
選択の余地が無くなると、条件や要件を妥協し、都道府県等が民間提案者の要求を呑むことになる力学が自然に働くことになる。
こうなると公的主体にとり、透明性・公平性に疑問は残るが、妥協することが最善の策ということになる可能性が高まってしまうのだ。

一方、国土交通大臣による区域認定を都道府県等と民間事業者が取得しても、当該民間事業者は、実施のための枠組みに着手した上で、別途要件を整え、国の機関であるカジノ管理委員会にカジノ免許を申請し、この免許を取得しない限り、当該IR施設の中でカジノ事業を担うことはできず、IRの要件も喪失しかねない。
ということは、都道府県等は余程しっかりとした清廉潔癖性が確認された民間事業者を選定しない限り、如何なる良い提案も絵に描いた餅になりかねないことを意味する。
競争施策の中でそのための事業者評価のための戦略も本来重要になるのだ。

このように、IRの複雑さは段階毎に手順が完結し、これを確実、着実に積み上げていくというアプローチではなく、一種の停止条件が各段階に存在し、これが最後まで残ることにある。
このため、当初から良く練られた戦略を設定し、段階的にこれを慎重に実践していかないと、どこかで引っかかってしまうこともありうる。
官、民いずれにとっても失敗に陥りやすいピットフォール(落とし穴)が潜んでいるといえる。

(美原 融)

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