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2021-06-28

102.IR:都道府県等によるIR事業計画評価 ②楽観的バイアス

交通関係公共事業投資の分野で、事業実施判断の前提となる交通量予測評価は極めて重要な市場予測評価になる。
ところが、過去あらゆる国の具体的事例でも、供用開始段階になって初めて、当初の交通量予測と実際の交通量に大幅な乖離が生じていることが露呈することが多い。
実際需要が、投資の前提になった交通量を満たさず、収入となる通行料では費用をカバーできない状態が生じ、事業投資としては失敗するという帰結をもたらすわけである。
公共事業であるならば、財政的負担で補填せざるを得ないだろう。
PPP/PFI等の公民連携事業の場合には、民間主体が運営責任と料金収入リスクを取っている場合も多く、この場合はキャッシュフローが回らなくなり破綻・事業再構築ということになる。
事業に係る需要予測を検討する過程で、需要予測を厳格に評価せず、楽観的評価により甘い需要予測を前提としてしまったことになる。
これを楽観的偏見あるいは楽観的バイアス(Optimistic Bias)と呼称するのだが、予測策定の過程で、どうしても楽観的に需要予想を考えてしまう偏見が生じる現象をいう。
PFIによる高速道路建設等の場合の、様々なステークホルダーの立場を考慮するとなぜかかる事象が生じるかを理解できる。
事業投資を企画構想する行政当局は当然事業を実施したいのだ。
確実に需要があり、経済効果があることを市民や議会が納得すれば、案件実現に拍車がかかる。
この場合、どうしても甘い前提を取ってしまう傾向がある。
需要予測計算をするコンサルタントは発注者の顔や意向を見て判断するため、確実に案件が実現する前提を取りたがり、どうしても発注者よりの考えをとってしまう。
計算上、通行料は一定単価が決まっていて単純に変えられない。
整備費用を見積もるとかなり高額になってしまい、これも削れない。
つじつまを合わせるために逆算し、必要となる交通需要量を増やすことで通行料収入をかさ上げし、整合性をもたせる等という行為がなされることもある。
公募の前提を見て整備運営を担う民間事業者は本来、適切な需要予測が事業の前提か否かを検証すべきだが、競争環境下にある場合、競争相手を蹴落とすために、行政の前提より、より野心的な需要予測の下に、設備計画を考えたり、料金設定を考え、提案したりする。
競争に勝つために現実から乖離した前提をとってしまうわけだ。
これらの結果、行政府にとっても魅力的な提案が採用されることになり、利害関係者全てが楽観的な前提の呪縛から抜けられなくなってしまう。
これで全員が、案件実現へと邁進するのだが、問題が露呈するのは、供用開始後になる。

IRの様に、行政府ではなく民間が需要リスクを取る事業提案案件の場合にも、競争的環境にある場合、当然楽観的バイアスが入ってしまうリスクがある。
補助金もなく、財政負担もない前提で、行政府にとり致命的なリスクは無く、逆に民間主体が全てのリスクを取り、納付金、税、雇用創出等の経済的メリットをもたらす。
この場合、行政府は市場需要予測等真面目に検討する必要性もなくなる。
全ては民の責任、民が実現できるというならば、民のリスクでやらせればいいということになってしまう。
提案する民間側も、競争環境下にある場合、過剰な設備投資を前提に、野心的な事業収益予測や事業計画を立て、競争相手を凌駕する提案を出してしまうことになる。
これでは精緻な集客予測や需要予測ではなく、楽観的な偏見が入ってしまっていることになる。

そもそもIRとは我が国では未だ経験のない事業でもあり、どの程度の集客効果が認められるのか、顧客が何にどの程度の支出をするのかに関しては参考とすべきデータや資料は皆無である。
行政府が雇用したコンサルタントによる試算も、諸外国の前提を安易にそのまま採用したりしているケースが多い。
施設整備費用がかなりの巨額になるため、この資本コストを十分に回収できるキャッシュフローを算出し、これを充足できる客の入れ込み数、客支出単価を逆算し、需要予測と事業計画を立てているのではないかと疑いたくなる。
この場合、事業計画としては、整合性は取れていても、現実から離れた前提条件であったとすれば、投資コストは回収できず、時間の問題で事業自体が破綻しかねないことを含意する。
IRの実現は競合する民間主体同志の競争であると共に、誘致を実現する都道府県等の競争でもある。
この場合、民間事業者の提案は、外見的な設備計画や事業計画は立派であっても、実態市場から乖離した過剰な投資計画となってしまっている可能性が高い。
政令要件や募集要項等が高いハードルを掲げているためだが、全ては民が担うべきリスク、民設民営の事業となると、事業としての実現性、実行性に焦点をあてない評価になりがちで、ここに楽観的バイアスが入り込む余地は大きい。

一部都道府県等が既に選定した事業者の提案は、公的主体が当初策定した公募の前提となるIR事業構想に比し、総事業費は6割増し、来訪客予想は3倍だ。
都道府県等もコンサルタントを雇用し、事業構想を真面目に検討したのだろうが、あまりにも差が大きすぎる。
何かが確実におかしいと考えるのが常識的判断だ。
確かに民間事業者提案は、実現できれば、都道府県等にとってはハッピーかもしれないが、本当に実現できる提案なのだろうか。
投資コストが過剰となるため、来訪客予想を多めに勘定し、カジノ売り上げを増やせば、理論的には回るのかもしれないが、ここに本当にバイアスが無いかどうか懸念が残る。
もっともこういうケースは、事業計画策定交渉の過程で根本的に提案が塗り替えられる可能性も高い。
こうなると、これまでの公募や事業者選定評価とは一体なんだったのかという説明責任が都道府県等には問われそうである。

(美原 融)

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