National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-08-21

17.IR基本方針に感染症対策?

政府は4月17日、立憲民主党の早稲田夕季衆院議員の質問主意書への回答として、「新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、IR整備に関する基本方針に感染症対策を求める項目を盛り込む」とする答弁書を閣議決定した。
IR整備法の基本方針とは、区域整備計画認定に係る国の基本的な考え方を示す書類になり、中長期的視点にたち、区域や施設の整備・運営を計画し、実践するための指針を規定するものである。
一方、感染症対策とは、公衆衛生上のリスクに対する対応措置でもあり、感染症法や新型インフルエンザ等特別措置法が制定されており、国が率先して行動し、これに基づき都道府県等が適切な措置を取る制度的枠組みが決まっている。
この制度的枠組みは感染症が社会に広まりつつある時点における対処療法的、短期的措置を規定することがその趣旨である。
よってこの二つは本質的にその狙いと性格が異なる。

今生じているコロナ禍は時間の問題で終息する。
もし将来類似的な感染症が生じる場合、法令に基づき国が都道府県等に関し、適切な配慮を求めることは当然でもあるが、今これを措置せよといっても理念的、形式的なものしかできえないことは目に見えている。
将来再度新型コロナウイルスの様な「感染症」が生じた際、どのような対策をとるべきか予め検討の上、区域整備計画の中に一種のContingency Planとして盛り込むことを要求するのであろうか。
感染症が蔓延しつつある現在の施策を将来の平常時における施策に反映しても全く意味がない。
短期的な措置・対応策と、中長期的な予防策、あるいは将来における危機対応施策とは明らかに異なるからである。
恐らく、基本方針の中では「感染症対策を検討し、提案する」ことを都道府県等に義務付け、都道府県等と民間事業者に具体策を考えさせるということになるのだろう。
異常時が将来に亘り、継続するわけがない。
この意味で、この対応は何処かピントがずれている。

そもそも感染症とは公衆衛生上のリスクでもある。
社会、組織、個人に対し無差別的な影響を及ぼし、かつその対応措置は個別の感染症の感染の在り方によってもかなり異なってくる。
一般的には宿泊施設、MICE,エンタテインメント,カジノ等の集客施設における対応は殆ど同一であって、蔓延の兆候が存在し、拡散しつつある場合には当然のことながら一部ないしは全ての施設を閉鎖し、防御策をとりながら状況を見る。
終息の兆候が現れれば、ソーシャル・デイスタンスを確保しつつ、PPE(個人防御具) を具備したり、清掃・洗浄を徹底したりしながら段階的に施設の運営を元に戻すということに尽きる。
IRのみが何等かの個別の配慮が必要になるとは考えられない。
他の集客施設に対しても同様に、同じことを要求しなければ意味がないはずで、ことさら基本方針に感染症対応策を規定するといっても、場当たり的に、問題対応策を予め考えろと言っているに過ぎない気がする。
但し、これでは理念的・概念的規定以外はあり無いはずで、中身は無いものになることは目に見えている。

集客施設であるエンターテイメントは、顧客が集まり、初めて存在しえるビジネスモデルである。
顧客の離反を招いたり、顧客自身が不信・不安を感じ、施設に集まらなかったりする場合にはビジネスとして成立しえない。
人から人へと感染する感染症は何かを起因として伝染するのであろうし、今回も、過去もいずれも外国にその発端があり、これが人の移動や交流に伴い、急速に諸外国に伝播していったということがPandemicの現実になる。
公衆衛生上の感染症対策とその防止・抑制は当然一国にとっての課題でもあり、水際でどう防ぐかがFirst line of defense(第一線の防御策)であることは間違いない。
これに失敗し、国内に感染が広まってしまう場合、適切な施策や行動が必要となるが、この場合、個別施設ではなく、集客施設の全ての事業者や国民自身が積極的に行動を変えなければ対応策にはなりにくい。
今回の我が国の対応の様に、当初これを民間の任意的判断による自粛により営業を停止させるという場合もありうれば、非常事態宣言により、国民に行動自粛を要請し、(強制力はなくとも)実質的に施設の営業を停止させるということは十分ありうる。
今回も諸外国におけるIRやカジノ施設等のあらゆるエンターテイメント施設は、一部は強制、一部は任意で全て営業を一定期間停止する措置をとった。
感染症に対する対応策は、国、都道府県等、民間主体が協力、協調し、組織だって行われなければ意味がない。
また国民がこれに賛同し、統一的かつ協調した行動をとらなければ効果は全くなくなってしまう。
公衆衛生上のリスクは、個別のIR施設だけの問題ではない。

基本方針に感染症対策を定めるということは、都道府県等はこの趣旨を実施方針並びに募集要項に反映せざるを得ないことになる。
では民間事業者に対し、具体の対策として何を求めるのであろうか。
「適切に対応施策を考える」など中身のない形式的なものでは全く意味がない。
防疫のための不断の心構えや準備はある程度は当然必要だ。
但し、これはあくまでも非常時の危機対応策で日常の問題ではない。
かつ、IR施設だけの問題では絶対ありえない。
民間事業者との権利義務関係をいたずらに複雑にしても、都道府県等にとってもあまりメリットのあるものとはいえない。
もっとも本来の国会における質問主意書だが、コロナ問題に集中するために、IR等は遅らせろという意図の様であって、質問の趣旨もちょっとずれているし、答えも全くずれている。
だからこそ基本方針に感染症措置も規定するから問題ないという何とも筋違いの回答をしているのかもしれない。

(美原 融)

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