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2020-08-21

18.IR:Epidemic/Pandemicは不可抗力事由?

感染症が一国、一地域で蔓延するような状況になると、ヒト、モノの自由な移動が阻害され、企業がビジネスとして担う契約行為にも様々な障害がでてくる。
製造工程がストップし、顧客にモノの供給ができなくなったり、逆に顧客側の事情でモノを引き取れなくなったりする等の事情も生じる。
企業が大幅な減収減益になれば、債務の返済も滞ってしまう。
即ち様々な側面で契約上の義務を履行できない債務不履行事由になってしまう可能性が高い。
但し、感染症の蔓延は、個別企業の責任ではなく、この起因は契約者にとっても、顧客にとっても責任を問われない不可抗力事由ではないのかとする議論が本年1-2月以降、様々な国際商行為の中で大きな議論となった。
契約相手に不可抗力を宣言することは、契約義務履行責任を免れるとっかかりとなる。
勿論この財政的帰結をどうするかに関しては、お互いに責任が無い以上、協議や交渉になり、揉めることがある。
そもそも契約相手に不可抗力事由の適用を拒否されたり、協議の結果、財政負担を巡り、係争事由になったりすることもある。
この場合、契約上の不可抗力の定義に感染症(Epidemic)や感染症の世界的流行(Pandemic)が記載されているか否か、契約上の不可抗力規定で感染症が含まれると解釈できるか否かが論点になる。
不可抗力事由は、列挙主義で具体の事例を列挙することもあれば(欧米の事例)、概念的・理念的な表現に終始する(日本の事例)こともある。
Pandemicを不可抗力事由として特定的に定義することは過去の事例では、あまりないそうだ。
節目が変わったのは一国の商工当局が不可抗力事由証明を自国の企業に出したり(中国の事例)、WHOがPandemicを宣言したりしたことにある。
この結果、主要先進国において、法令や行政令に基づく都市閉鎖(ロックダウン)や生活に不可欠な食料品店等を除く、飲食業や集会施設等全ての商業施設の閉鎖、リモートによる業務の推奨(Stay Home Order)、2週間に亘る検疫隔離の強制等により国境の実質的閉鎖等が生じてしまった。
一国の法令ないしは行政令による都市のロックダウンや非常事態宣言の結果として、契約の義務履行ができない場合は、不可抗力事由は成立しうる。

我が国では、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、4月7日に緊急事態宣言 がなされ、5月25日にこれが解除するまで継続した。
これは法令に基づく活動自粛要請がなされたに等しい。
この間、企業も個人も契約上の義務を履行できる状況にはなかったと想定される。
7月7日、内閣府政策統括官は、行政当局と民間事業者との長期継続契約であるPFI事業に関し、「PFI事業における新型コロナウイルス感染症に伴う影響に対する対応等について」と題する見解を省庁・自治体に発出した。
この中で、「新型コロナウイルス感染症の影響により通常必要と認められる注意や予防方法を尽くしても事業の設計・建設・維持管理・運営等に支障が生じるといえる場合は、基本的に「不可抗力」によるもの考えられる」という意見を表明している。
この場合の措置とは、明確に有責関係を判断できない以上、管理者とPFI事業者との誠意ある協議において処理すべきとなり、損害、物件以外のものを含む増加費用等の分担の在り方等が協議の対象になるとされている。
(勿論英国の様に、COVID-19は公民の長期継続契約であるPFIでは不可抗力事由ではないとし、個別の詳細な救済手法をガイドラインとして詳細規定し、政策の一貫性を維持した国もあり、日本のやり方が全てではない。
必須の公共サービスはどうあるべきかに関する日英の規範の差異であろう。
協議では確実性が無いわけで、サービスを継続することを基本としながら合理的な解決策を模索するという考え方の差異になる)。

ところでIR整備法上の実施協定も都道府県等と民間事業者間の行政契約となり、官民双方の一定の権利義務関係を規定する。
もし、契約上の不可抗力事由が成立するようなPandemicが再度生じた場合、IRでは何が生じるのだろうか。

義務履行を免れる市中感染が活性化する状況で政令や行政令に基づく集客施設の営業自粛要請が出る場合等は、因果関係が明確で簡単だ。
施設が建設途上の場合には、工事遅延、手間賃等費用増が生じる。
保険の対象ではないため、費用負担をどう分担できるかだが、公共施設ではなく、民所有の民間施設であるため、他産業と同等以上の支援策が実施協定を根拠にできるかは疑わしい。
運営段階となる場合、納付金、地代、賃借料等国・都道府県等に対する短期的な支払い猶予は可能だろう。
年度事業計画、5年の中期事業計画、今後の施設補修・更新・追加投資等の契約義務も全て猶予ないしは修正の対象になりうる。
もっともホテルやMICE施設等を対象に顧客減少に対する損失補填を行政に要求することはまず実現できそうもない。
限定的、短期的な産業横断的な支援策等は確実に供与されるだろうが、これ以上の支援策がIRに対し可能になるとはちょっと考えられにくい。
実施協定とは都道府県等が担う所掌・義務は極めて少なく、行政に対し、不可抗力を理由に補償や負担を求めることには本来無理がある。
不可抗力事由と認定されても、IRの基本は民設民営の施設、民リスクによる運営である以上、想定を超える大きな支援策を国ないしは都道府県等から期待できると考えることはおそらく無理筋であろう。

一方、一端政令や行政令による実質的ロックダウンが解除されても、未だ感染が市中に存在し、これが長期化する場合には大きな問題となる。
ホテルやMICE施設、カジノやエンターテイメント施設は、やはり顧客が安心・安全を確信できる環境にならないと、集客ができなくなってしまう。
IRの様な集客施設は交通のアクセスも、国境間の移動も何の制約も不安もなくなって初めてビジネスとしてペイできる。
ワクチンや治療薬が開発され、人々が昔の状態戻れるようになるまでにはあと1年あるいは2年は必要とする意見も多い。
問題は施設への顧客訪問が、事業計画想定時と比較し、極めて低いレベルに長期間低迷し、顧客減少、減収減益が長期に継続し、企業としての財政上の持続性が問題視されるケースにある。
この場合には、不可抗力事由とするには、あまりにも間接的すぎる(通常不可抗力事由とは比較的短期間で、始まりと終わりがあることを前提とし、この間の義務履行を免れる)。
あらゆる手段を駆使し、企業の存続策を探る以外に救済の方法はない。
時間を稼ぎ、事業のリストラを図りつつ、事態の終息を待つという展開になることは間違いない。

(美原 融)

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