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2020-08-14

16.ダイアモンドプリンセス号とカジノ

横浜港に寄港したダイアモンドプリンセス号(乗客乗員最大3,900人)、からコロナウールス感染者が出て、大騒ぎになったことは記憶に新しい。
この船は約11.6万トン、超大型のクルーズ船だが、超豪華客船とは言い難い。
最近のクルーズ船は、手ごろな価格で時間的金銭的余裕のある中間層をターゲットにしており、「超豪華」ではない。
外国観光地訪問とエンターテイメント・リゾート体験を混ぜ合わせた観光の仕組みとして人気を博していたというのが実態である。
航空機の発達により船舶は移動の手段ではなくなり、優雅・豪華にゆっくりと洋上間を滞在しながら移動する楽しみを提供できる施設として発展してきたといえる。
一部の金持ちの楽しみが大衆化してきたというのが現実である。
世界のクルーズ観光利用者数は、2005年に1,374万人であったのが、2015年には2,320万人と増加。
クルーズ船を利用する訪日外国人も増えており、2017年には約253万3,000人、2020年迄に500万人というのが国土交通省の目標でもあった。
このために各地で新規埠頭やターミナルを建設したりして、様々な取り組みが軌道にのりつつあったのだが、コロナウイールス騒ぎにより、これら需要は瞬時に蒸発、政府の目論見も大きな変更を迫られることになった。

ところでこのクルーズ船とカジノ船を混同し、ダイアモンドプリンセス号の収益はカジノ収益を主体にし、カジノ収益でその他の費用を賄っている等のマスコミ記事がでたのにはびっくりした。
クルーズ船とカジノ船は似ているようで全く似ていない別物なのだが、おそらく印象だけで記事を書いたもので実際に体験した上での記事ではないのだろう。
IR等所詮カジノの収益が他の施設を支えているだけ、クルーズ船も同様のはずという考えをとったとみた。
クルーズ船は寄港地における観光のみならず、航行中様々なエンターテイメント、催し、遊び、飲食等を提供し、顧客が時間をもてあそぶことが無いように船内において総合的なアミューズメント・エンターテイメントを手軽に楽しむことができることがその面白さ、楽しさになっている。
設置されている施設や提供できるサービスにはプール、映画館、ナイトシアター、テーマナイト・イベント劇場、スパ、フィットネス、レストラン、バー、カジノから始まり、図書館、フォトショップ、ランドリー、コンシエルジュ、寄港地ツアーアレンジ、様々な顧客サービス等おそらく何でもある。
一方カジノ船とは、公海にでて、一国の管轄権を離れて洋上でカジノ賭博サービスを専ら提供する施設で、船内のエンターテイメント施設はカジノと飲食施設のみとなるような船舶を言い、航海日数もへったくれもなく、洋上を一定時間航海し、元の港に戻ってくるというパターンが多い。
米国フロリダ州、アラスカ州、一部東南アジアにはかかる「カジノ船」も確かに存在する。
但し、船内のアメニテイ―は殆どなく、洋上でカジノを楽しむことが目的となる単一目的的な船舶でもある。

くだんのグランドプリンセス号だが、設置されているカジノとはその他の遊興施設と比較すると小規模であって、あくまでも船舶内で提供される余興の一つとして設置されているにすぎない。
テーブル、スロットマシーン等顧客が選択できる遊び方を提供しているが、与信行為はなくあくまでも現金決済、賭け単価もそんなに高いものではなく、通常の遊興カジノレベルでしかない。
かかる施設のみでクルーズ船の経費を賄える収益を生み出せるわけがない。
クルーズ船の乗客とは比較的富裕な中間層が主体だが、彼らが船内で落とす金はそんなに大きくない。
(カジノは別として)基本的なエンターテイメントはほぼ無料のものが多く、当初の乗船料に含まれているからである。
因みに船内での遊興の一部は有償のものもあり、乗船時に交付されるキャッシュレスカード(Debit Cardないしは後刻清算方式もある)で支払いが可能で、カジノのチップもこれで購入できる。
大きな金額の取引を想定していないということでもあり、所詮健全に楽しむ遊興の一つなのであろう。
ということは船社にとっても、大きな収益の源になるとは限らない。
但し、船籍国の売り上げ(GGR)特別課税の対象とならない場合もあり、相応のメリットもあると考える。

ではかかるクルーズ船におけるカジノは誰が運営し、管理や監督はどうなっているのであろうか。
公海上における船舶の管轄権は船籍のある国になる。
軽課税国に船籍を置き、その国の(名目的な)カジノ免許を取得し、船会社がこれを直営することもあれば、この部分の運営行為を委託事業者に委ね、リスク・費用・収益を分担しあうことも多い。
グランドプリンセス号の場合は船会社直営である。
米国籍の船舶になり、法的な管轄権は米国となる。
米国では1990年米国籍クルーズ船競争法(US Flag Cruise Ship Competitiveness Act)により米国籍船は領海外でカジノ行為を提供することが認められている。
もっとも連邦政府は課税権を行使するわけではない。
かつ船舶には船長をトップとした独自の船内秩序を維持するシステムが存在するため、何等かの規制機関が存在しているわけでもない。
小規模、取るに足らない船内遊興の一つという位置づけなのであろう。
カジノに関する管轄権はこのようにグレーなのだが、クルーズ船社が加盟するCLIA(クルーズライン国際協会Cruise Line International Association)が自主規制・自主ポリシーを決めており、機械の設置基準やゲームのルール、払い戻し基準、内部管理規定等に関しては、米国ネバダ州、ニュージャージー州、英国の規制機関の規則に準じること、船内のHotel Manager ないしは Directorが所管し、定期的に監査の対象とすることなどが決められている。
果たして世界中のクルーズ船はこの自主ルールに基づきカジノを運営しているのであろうか(尚、日本籍船のクルーズ船は日本法が適用されるため、勿論賭博行為は禁止である。
金銭は賭けられないが、勝てばパチンコと同様に景品はもらえる)。
因みに、わが国のIR整備法は、伝統的な陸上設置型カジノをIR内に設置することを前提とした法律で、この法律によりクルーズ船カジノが認められること等は絶対ありえない。
我が国で外航クルーズ船内におけるカジノ遊興を可能にするためには、別途新たな法律が必要となる。
どう法制度を構築し、規制すればいいかは解かるのだが、これを認めるか否かは立法府の意思次第ということになる。

(美原 融)

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