2021-02-10
63.緊急事態宣言下のIR実施方針・公募(RFP)②
法律は一端成立すると、粛々とその施行を担うことが政府の役割になる。
これは如何なる環境の変化があっても、そう単純には変えられない。
もっとも昨年のコロナ禍に伴う緊急事態宣言とそれに伴う混乱は政府の思考と行動を一時停滞させたことは間違いない。
政権も変わり、政策を再胎動させる動きが生じたのは昨年9月~10月になり、10月にスタートボタンを押したのだが、その後あれよあれよという間にコロナ第三波が押し寄せ、再度緊急事態宣言という事態に陥いってしまった。
昨年後半の見立てはコロナ禍が終息に向かえば、順調に事が運ぶはずという目論見でもあったのだが、既にこれは崩れており、この後、何が起こるかわからない不透明な環境になったといえる。
それにしても提案応札を準備する潜在的民間事業者にとっては、かなりタイトなスケジュールであることはまちがいない。
このまま都道府県等の予定通り進むとすると、限られた時間軸で何が何処までできるのかがポイントになってしまう。
もっとも都道府県等も、この辺の微妙な状況は理解している模様で、公表された書類の中で、国、自治体、民間事業者等の動向次第では、予定は変わりうることを一様に示唆している。
IR公募・入札の特徴は、単純な価格を競う公共調達入札ではなく、一定の前提・要件の下での投資事業提案になることにある。
制度(IR整備法・関連政令)ならびに都道府県等が実施方針・募集要項等において基本的枠組みや要件を規定する。
この枠組みに対する要件や条件を充足することは要求されるが、詳細仕様があるわけでもなく、施設が提供するコンテンツや施設の在り方もどうするかは自由で、かつ投資最低金額があるわけでもない。
提案主体による資金調達、リスクテークによる施設整備とコンテンツの提供が条件となり、提案の内容、質、実行性、実現性が評価され、民間事業者が選定されることになる。
かかる提案公募の難しさは、価格という解かりやすい定量的指標・判断基準がなく、どうしても定性的・主観的な評価判断基準になりやすいことにある。
この場合、形式的要件が評価されがちなのだが、より重要なのは、提案の内容・質とともに、その提案が本当に実行できるのかという点なのだ。
施設とコンテンツをどう組み合わせ、如何にして最適の提案を作るかは、そう単純な話ではない。
コンセプトやアイデアだけでは無理で、複数の主体、利害関係者を動員し、時間をかけ、プランを練り、事業計画を作る。
この計画を実践するには膨大なエネルギーとマンパワーを必要とする。
開発行為とは本来そういうものなのだ。
さて、実務の検討のための時間もなければ、利害関係者の調整に極度の手間と時間をとられそうな状況が生じた場合、何がおこるのであろうか。
- 民間事業者の対応:
対応に十分な時間がない場合、しっかりとした提案の詰めができない可能性が高まる。
勿論ある程度のコンセプトは固めることができるだろうが、確実に実行できる計画まで固めることはおそらく難しい。
この場合、条件付(Subject to Clause付)での提案になる。
このコロナ禍という不安定な状況の中で、巨額の投資確約ができるまで詳細な検討ができるのかが大きな課題になる。
常識的には、民にとり投資確約に繋がるコミットは、より環境が改善するまでできる限り先に延ばしたいと考える。
投資事業計画は、環境に合わせて変えるべきで、まず巨額投資有りきでは民の事業としてはうまくいくはずがない。
この場合、準備は不十分だが、兎に角提案は出し、まず利権をとりにいき、これを取得後、交渉により、時間をかけ内容を詰めればいいという戦略に必ず傾斜する。
勿論これでは国の要件を満たしていないし、かつ都道府県等の要件をも満たしていないのだが、都道府県等にとり、他に選択肢はないように追い込むことも戦略の一つになる。 - 都道府県等の対応:
都道府県等は当然上記とは逆の立場になるはずだ。
国や都道府県等が公募の前提とした要件や条件が曖昧な提案では、事業者を選定することはできない。
提案を確実なものとし、確約を取らずに事業者選定に走れば、特定の民間主体と交渉により、条件を固めざるを得なくなる。
この場合、都道府県等は確実に交渉のレバレッジを喪失する。
当初は複数の事業者が競争していても、一部の事業者が脱落し、単一事業者のみの状況になった場合にも同様の事象が生じる。
かかる条件では投資ができないと言われた場合、唯一の解決策は事業者を欠格にし、案件を没にするしか方法はなくなってしまう。
これが単純にできにくい場合、最後の手法はスケジュールを遅らせ、事業者選定のタイミングをできる限り遅らせることにより、対話・交渉を継続し、できる限り中身を詰めることになる。
勿論合意に至る保証等どこにもない。
取るべき戦略とタイミングを間違えた場合、かかる事象がおきらないとは限らない。
どちらの立場にたっても、もし、詰め切れない場合、事業者選定の判断を限りなく遅らせ、交渉した方が有利ということになる。
よって春、夏までに決めるという事情は他の政治的要素等が無い限り、遅らせることになる可能性が高い。
もっとも他の都道府県等との競争優位をとることが戦略であったり、選挙等の政治的事情がある場合には、上記は全く機能しなくなったりする。
この場合、無理をすればどこかに、確実に歪みが生じてしまうことになりかねない。
(美原 融)