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2020-11-18

42.都道府県等にとっての事業者廉潔性評価

カジノの運営を担う主体が清廉潔癖性を保持していなければならないことはIRの制度上の要件になる。
これがために株主を含めて主要な利害関係者の廉潔性に係る背面調査を国の機関(カジノ管理委員会)が実践し、適格性が確認され、免許(ライセンス)が交付されることになる。
ことカジノの運営という側面から見る場合、当然の規制の枠組みでもあり、カジノの運営に係る主体は個人であれ、組織であれ、悪や組織悪から遮断されていることが全ての前提になる。

ところがこの当たり前の前提も、異なる行政主体が、異なる手順・タイミングで制度上の手続きを実施すると、単純にはいかない構図になってしまう。
日本のIR制度の枠組みの中では、国(国土交通省とカジノ管理委員会)と都道府県等が各々異なる役割分担を担うため、更にこれが複雑化することになった。
勿論具体的な解決策なり、実務的な工夫により問題は軽減したり、解決したりすることはできるのだが、誰もこれを問題提起しようとしていない現実がある。
何処に問題があるのか?

  • カジノ管理委員会による民間事業者適格性審査・認可のタイミング:
    民間事業者によるカジノ管理委員会に対するカジノ免許申請に伴い、関連主体の廉潔性調査・審査が始まるのだが、誰もが免許申請をできるわけではない。
    都道府県等による公募に基づき、事業者として選定され、かつ関連都道府県等と共同し、区域整備計画を作成し、国土交通大臣の認定を得るという法的地位を得て、初めて、カジノ免許申請ができる(制度上、区域認定を取得した後でなければ、申請者たりえない)。
    ということは、関連事業者の清廉潔癖性・適格性の確認は、区域や事業者等ほぼ全ての制度的枠組みができあがった以後でなければ実施できないことになる。
    もし都道府県等が選定した事業者の清廉潔癖性が適格でないと判断された場合、免許付与は無く、全ての仕組みが崩壊するリスクを抱えることを意味する。
    個人の廉潔性が問題になる場合は、代替することは可能だろう。
    一方、企業のCorporateとしての廉潔性が問題視される場合には、まず代替できにくい。
    企業の存在そのものが区域認定や都道府県等との協定の枠組みと一体化しているからで、これを代替することはほぼ不可能に近い。
    区域認定(国土交通省)、事業者選定(都道府県等)、カジノ免許付与(カジノ管理委員会)が一定の時系列で順序だって行われるのだが、本来早い段階で処理すべき事項が後回しにされることになるため生じるリスクになる。
    これに対する対処法は制度的制約を一切無視すると下記等がある。

    1. あらゆる潜在的事業者を対象に企業としての廉潔性検証チェックを国の機関が事前に、単独に実施できるようにする(ニュージーランド方式)。
      これをパスすることが都道府県等への入札の要件とすればよい。
      一種のPQ手順だが、初期の段階で国の機関のワークロードが極度に増える難点がある。
      尚、これをパスしても、免許が付与されることにはならない。
    2. 事業者としての廉潔性検証の申請、適格性認証を都道府県等の公募に連動させ、早めに実施できるようにし、自治体が審査・評価前を行う前に関連自治体に対してのみ適格性を報告する。
      但し仮の認証とし、正式な免許を取得するためには後刻再度申請が必要とする。
    3. カジノ免許取得と事業者の廉潔性検証を切り離し(英国方式)、廉潔性検証は都道府県等による提案公募前に国の機関が実施し、企業としての適格性を取得することを都道府県等の公募の要件とする。
      カジノ免許申請は、都道府県等による選定、区域認定後に初めてできる行為とする。   尚、基本方針(案)は、都道府県等に(海外企業を含めた)事業者の清廉潔癖性を検証する義務を課しているが、都道府県等にかかる知見・能力があるとも思えない。
      尚、一部都道府県等は事業者に欠格事由不存在の表明確約書を取り付け、これと履行保証をリンクする考えを募集要項上提示しているが、自らの責任は逃れることができても、これでは問題解決になるわけがない。
  • 国土交通省、カジノ管理委員会、都道府県等による役割と立ち位置がもたらす課題:
    国の仕組みが単一であるならば上記のような複雑な問題は生じえない。
    例えば米国では地域の選定・自治体同意等も全て単一の州政府の組織が統一的に業務を担う。
    よって関連民間主体の清廉潔癖性の確認、カジノ免許の付与、地点・自治体の選定等を同じ組織・機関が行うことが多い。
    この場合には、全て単一機関が論理的に処理するため、手順等が混乱することはない。
    我が国で、カジノ管理委員会に区域認定を含む全ての国の業務を担わせなかったのは、権限が集中することによる利権・癒着等を防ぐためでもあった。
    残念ながら権限の二分化は、本来あるべき手順とは異なる好ましくない別の手順を制度に内在化させている。

上記は二つの課題をもたらすことになる。
ひとつは、果たして都道府県等は事業者の清廉潔癖性を検証できるか否か、できない場合、都道府県等は大きなリスクを抱えることになる。
二つ目は、カジノ管理委員会による独立的な清廉潔癖性の評価・審査が、政治的圧力等により妥協を強いられることはないのかという点にある。
既に枠組みが実現しつつある中でカジノ管理委員会が当該企業の存在を否定する判断をできず、結局妥協を迫られることになれば、何のための規制なのかという問題を抱える。
問題があるかないかは、できる限り早い時点で確認・検証することがリスク管理の最大の要点でもあるのだが。

(美原 融)

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