National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-11-06

39.IR:中核施設要件の在り方

特定複合観光施設区域整備法第二条は、特定複合観光施設を「カジノ施設と第一号から第五号までに掲げる施設から構成される一群の施設であって民間事業者により一体として設置され、及び運営されるもの」と定義している。
その政令たる特定複合観光施設区域整備法施行令第一条から第四条は、主要施設に係る施設基準を明らかにしている(第一条、国際会議場施設の基準、第ニ条、展示施設、見本市市場施設その他の催しを開催するための施設の基準、第三条、我が国の観光の魅力の増進に資する施設、第四条、国内における観光旅行の促進に資する施設の基準、第五条、宿泊施設の基準)。
この内、一条(国際会議場)、二条(展示施設)、五条(宿泊施設)には明確な定量的数値基準が設けられており、施設規模要件となっている。
一方、三条、四条はあくまでも機能的な定性的基準に留めている。
この政策的意図とは、日本にはまだ存在しない国際的な競争に伍する規模のMICE施設(会議場・展示場)をIRの中核施設として、これを民間活力により実現したいとすることになる。
但し、かなり大胆、大規模な施設規模を基準としており、ハードルがかなり高く設定されている。
施設の規模に固執するのは国土交通省の意向であったと推察されるが、いかにもハコ物が好きな同省の考えに沿っている。
施設規模を定量的に定めるということは、これを満たしうる需要が存在する地域・地点であることがIRの前提になることを意味し、何処にでも、また誰にでも設置することが可能な施設前提ではないことを示唆する。

一方、国土交通大臣による基本方針は(第4項区域整備計画の認定に関する基本的な事項、6号認定審査の基準)は、認定に際しての要求水準として、「開業以降全ての時点において、IR整備法第二条第1項第1号から第5号までに掲げる施設が全て設置され、及び運営されるとともに、そのそれぞれが、特定複合観光施設区域整備法施行令」第1条から第5条までに規定する基準又は要件を満たしていなければならない」とある。
この要求水準を満たす区域整備計画でなければ、評価の対象にならない旨の規定がある。
ということは、国が定めた足切り基準とでもいうべきものになり、もし、この要件を満たせない区域整備計画である場合には、当然失格となる。

この制度上の立て付けの問題は、各施設の態様、機能、規模が各条バラバラに定義されていることにある。
こうなると個別の条の規定に基づき、各施設の要件を各々個別に満たさざるを得ない。
即ち、条毎に別々に施設が定義されている以上、その総和が全体の施設になる。
二つの条の施設を組み合わせて、効率的・効果的な利用を試みる施設をも許容する等という発想はここにはない。
一方、現実の世界では、例えば、展示場を展示場の機能を保ちつつ、一部を会議施設としても併用的に使える機能としたり、アリーナ・劇場となる施設だが、会議施設としても使用できたり、かつ一部施設は展示場施設と連結させ、展示場としても使えたりする施設という複合的な機能を持つ施設が存在する。
施設の利用効率を高めると共に、投資効率をも高め、一つの複合的な施設が複数の機能を持つように考えるわけである。
例えば現実に存在するアリーナ・劇場施設だが、機械仕掛けて座席をしまい、フラットな場所に変えることができる。
ここで例えば大人数の朝食会開催が可能、昼間は会議施設として例えば企業のセミナーや総会等に用いるように変えることができ、夜は劇場施設として段階着席の施設にし、劇場として使うといった具合に、一つの施設があれば、これで複数の機能を満たすことができる。
ハコを作ることを目的とせず、限られた場所、限られた資金で効率的な複合施設を考えるという試みでもあり、施設の利用効率を高め、かつ投資コストの効率を高めようとする発想になる。

世界でも有数のMICE施設を実現するという政策的意図は重要なのだが、目的はハコを作ることではなく、施設が果たしうる多様な集客的機能とその発揮(現実の集客)にある。
ひとつの施設が重複的に果たしうる機能を数値として重複的にカウントすることを認めれば、名目的な要件を一応満たしつつ、施設規模としてはよりコンパクト、かつ投資効率、利用効率の良い施設を実現することができる。
施設規模を数値により予め定めても、面白い独自性のある施設ができるか疑問が残る。
名目的規模よりも、実質的な施設機能や複合的な利用の在り方等、できうる限り民間の自由な発想を喚起するような要件とした方が、創意工夫を発揮した施設が提案される可能性が高まる。
ハコの名目的な規模に拘泥した制度の在り方が適切といえるかどうかの議論が本来必要であったともいえる。
但し、IR整備法立法時点ではMICE需要が大きく成長し、国や都道府県等が必至に大型MICE施設を作ろうとしていたという時代的背景もあった。
この時点では相応に合理的な考え方とされていたわけである。
一方、2020年代上半期に生じて、今も継続しているコロナ禍は、MICEの需要や将来の施設の在り方の再考を促し、潜在的なIR事業者も、整備計画や投資事業計画を見直し、中核施設の最適規模や機能を模索しているという意見が聞こえてくる。
事業者としては合理的な行動であっても、それが制度的に認められるか否かは全く別の話になる。
今の制度的立て付けを変えずに計画を進める場合、残念ながら都道府県等との交渉によりこれが変えられる余地等は全くない。
制度自体を変えることができないならば、運用により、一部施設の面積的重複をカウントすることを認め、結果的に少しでも柔軟な制度の運用を図ることにより、市場の要請をも考慮する姿勢があってもよいのではないかとも思える。
但し、この判断ができるのは国であって、都道府県等ではない。

(美原 融)

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