National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 131.区域整備計画申請:資金調達の確約とは?

2021-11-08

131.区域整備計画申請:資金調達の確約とは?

民間主体による投融資事業が確実に実現するためには、これを可能にする資金がしっかりと準備できていることが全ての前提である。
IRの場合、区域・案件によっては数千億円から1兆円程度と予想される初期投資金額を自社のフリーキャッシュフローのみで賄える企業はまず存在しない。
リスクがあまりにも大き過ぎ、効率的な資金の使い方ではないからである。
通常は必要資金の一定率の出資金をフリーキャッシュフロー等で賄い(自己資本)、残りは第三者である金融機関等からの借り入れ(他人資本)に頼ることが多い。
この様に必要な資金をどう調達するかが資金調達計画なのだが、どうこれを策定し、実現するかは、個別事業者の考え方にもよるし、個別事業の規模や具体の資金需要にもよっても異なる。
通常大きな方針を定め、時間をかけて調整し、詳細を段階的に詰めるのだが、様々なバリエーションが存在する。
但し、資金調達計画がしっかりとした、信用のおける内容で、確実にこれが実現できると想定されることが、事業が実現し、成功する最大の要点になることは間違い無い。

よって公的主体が民間主体による事業提案を募り、提案を評価し、選定する案件の場合には、資金調達の確実性を何等かの手法で求めるのが通例である。
もっとも民間事業者の立場からすると何を提出できるかは単純ではない。
出資率、出資額の大枠は自らの判断で決められる。
一方融資率、融資額は単純には決まらず、第三者たる金融機関が案件の枠組みが固定した後に内容を精査し、納得するまで融資を確約してくれないのが通例である。
ところが具体の事業化は時間をかけ、段階的に枠組みを構築していくもので、金融機関が融資の確約をくれるとしたならば、ほぼ全ての事業ストラクチャーが決まっているという状況と前提がなければなければ、金融機関も審査できない。
よって民間事業者が事業提案を公的主体に提出する時点では、確約等取れず、意向表明書(Letter of Interest)か、これに融資条件概要書(Term Sheet)を添付したものくらいしか準備できないというのが世の中の現実である。
これらは確約とはいえない。
様々な条件が附されており、交渉次第でどうなるかわからない性格のものだからである。
勿論、出資親会社が借入金全額につき金融機関に対し、元利金返済保証をすれば、金融機関は案件の内容等精査せず、出資親会社の財務状況と返済能力を審査するだけで事足りるので、融資確約は取得できるのかもしれない。
但し、一部与信リスクを金融機関に取ってもらう前提をとることが通常の企業行動でもあり、親会社が巨額となる借入金全額の元利金返済保証することは常識的には考えられにくい。

IRの事業者公募、選定、区域整備計画策定・申請の動きを眺めてみると、上記問題は実務としてどう処理されたのかを確認できるので興味深い。
都道府県等の募集要項・事業者選定基準を見るとどの都道府県等でも、「資本金拠出にあたっての各株主における資金調達計画について、具体的かつ実現性の高い提案がなされていること」、「金融機関からのコミットメントレターの取得等、融資の実行可能性を含めて資金調達の確実性が担保された提案がなされていること」(事例は大阪府市設置運営事業予定者選定基準)等の記載がある。
これはかなり高いハードルだ。
事業のストラクチャーを確定できるのは、事業者選定・区域認定後になるため、時間をかけ、内容をしっかり詰めることが必要となり、都道府県等に対する提案時点では、全てが決まっているわけではないからである。
かつコロナ禍の渦中の公募では、事業者にとっても提案は完璧なものにはならず、コンセプトや概念が競争の焦点となる提案になりがちという事情もあった。
これではしっかりとした資金調達に係る「確約」を各事業者が出せるわけがない。
事実公表された一部都道府県等の審査委員会報告書の中には、資金調達計画が明確でないこと、案件のストラクチャー自体に補強が必要等の記載があると共に、事業者選定後の議会における質疑の中でも、資金調達計画が曖昧なことを都道府県等が認めている事例すら生じてきている。
案件の構築がしっかり進んでいない提案では、資金調達の確約等でてこないのは当たり前だろう。

一方国による都道府県等の区域認定申請に係る要求基準では、都道府県等と同様に「資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料につきコミットメントレターの書類提出」を求めている。
国が求める区域整備計画は、かなりの精度で具体の案件構築の体制や内容を詰めていなければ要件を満たさないという側面を持っている。
事業者が選定され、都道府県等と共同して区域整備計画を策定・準備する段階に至れば、融資金融機関の精査に耐えられる内容の事業計画が準備されてしかるべきという考えなのだろう。
もっとも都道府県等は事業者提案の内容を開示していないため、何処まで何が詰まっているのかを把握することはできない。
但し、一部の都道府県等の議会では、事業者の株主構成も、資金調達の計画や進捗も一切開示されず、かかる提案の信憑性を疑問視する意見も散見されている。
もししっかりとした準備と詰めがあれば、確約は無理としても、限りなく確約に近い融資金融機関のコミットを取得することは不可能ではないはずだ。
逆に現段階でもまだ事業のストラクチャーや詳細を詰め切れていないとすれば、資金調達の確約を取得することはまず不可能に近いかもしれない。
11~12月には区域整備計画案を確定し、パブコメに付す予定という都道府県等が既にでてきている。
公表に足りうる資金計画やストラクチャーがこの時点で確実にできていなければ、計画案の価値は弱く、これをどう判断するかは当該自治体にとっては大きなチャレンジだ。
もっともこれは事業者の問題であって、都道府県等の努力で解決できるものではない。
都道府県等がこの問題を甘く見て、十分とは言えない資金調達計画の儘、兎に角前へ進むという無理筋で区域整備計画申請へと進んだ場合、国(国土交通省観光庁)は、冷静かつ中立的、非政治的な立場で、自ら定めた要求水準でこの申請を審査できるのであろうか。
どうやら国の判断をしっかりウオッチする必要があるのかもしれない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top