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2020-08-28

19.IR:都道府県等にとっての高いハードル

IRとは何処にでも、誰にでも実施できる施設ではない。
IR整備法第9条11項七号は、このIRが実現できる区域(特定複合観光施設区域)数の上限を3つと規定する。
例え都道府県等が自らの自治体内にIR誘致を実現しようとしても、窓口は極めて狭いことになる。
上限数を三つとしたのは立法府による当初からの意思でもあり、数多く設置しても、うまく成功するとは限らず、限られた数で限定的な施行をすることにより、確実な成功を期することがあるべき政策と考えたためである。
昔のリゾート法(1978年総合保養地域整備法)の様に、申請すれば確実に認定を受けられる仕組みとなる場合には、申請しなければ損になると申請ラッシュが起こり、乱立、失敗は避けられなくなるという事情もある。

IR区域認定制度とは、都道府県等による手上げ方式により、区域整備計画案を募り、なされた提案から三つの区域を国が選択し、認定するという手順となるが、都道府県等にとり、この手順自体にもかなり高いハードルが設定されている。
例えば下記諸点になる。

  1. 国に対する区域整備計画申請前に民間事業者を選定せざるを得ないこと:
    認定を受けられないリスクを抱えた儘、あらゆる準備をし、民間事業者を選定し、区域整備計画を申請することになる。
    余程自信がない限り都道府県等にとりリスクは大きい。
    全てが無駄になる可能性を抱える。
    かつ認定後であっても、もし民間事業者がカジノ免許を取得できない場合、同様に全てが無駄になる。
  2. 中核施設整備は我が国でも前例のない規模の展示場・会議場・宿泊施設を設置することが要件となり、事業性を確保できる地域・地点は限られること:
    中核施設は大規模集客施設になり、施設を効果的に稼働する為には大量集客を可能にする交通の利便性の良さ、地点の地政学的な優位性・市場性等が前提になる。
    施設のみ作り、カジノがあるからという安易な発想では到底集客はできず、事業性を確保できない。
    IRとしてしっかりとした集客ができる施設・地点でなければ成功は覚束ないのだが、基本コンセプトが安易な前提に立脚すると失敗する可能性が高い。
  3. 都道府県等が誘致を決定し、公募に至るまでかなりの作業を限られた時間で実施せざるを得ないこと:
    都道府県等として発意するまでに事前準備や検討、基本コンセプトの作成や潜在的事業者との可能性対話や情報取得等が必要になる。
    首長による発意、議会や市民社会における合意形成、専門内部組織の設立、予算措置、アドバイザー選定等、実施方針・公募準備等にかなりの時間と労力、予算措置を必要とする。
    一定の短期間でこれをこなさざるを得ず、行政府としての強い意志や、余程の行政力がないと対応は難しい。
    首長の発意だけですぐ実施できるような案件ではない。
  4. 他の自治体との情報交換はできず、自らが行動することで情報を取得し、コンセプトや手順、実施協定案を固めざるを得ないこと:
    国としての指針は基本方針のみで、実務的なガイドラインや共通的な配慮事項等は一切準備されない。
    区域整備計画提案を考えている都道府県等は既に競合状態にあり、お互いに市場に出す情報は限定している。
    よって他の先行自治体から情報を取得できず、極めて無駄だが、独自にコンサルタントやアドバイザーを起用し、実施協定案等も個別に準備せざるを得ない。
    前例がないために、都道府県等にとってもかなりの費用負担と労力を必要とする。
  5. IRの施設コンセプトや基本的な考え方は地域毎に異なり、地域固有の事情を考慮したコンセプト足らざるを得ず、他の自治体のコピーはできないこと:
    インフラ整備問題や土地の確保と提供等は個別自治体毎に事情が異なり、かつ観光や集客、交通の利便性や施設の構成と集客の在り方等、個別の都道府県等の事情を勘案した基本コンセプト策定が必要となる。
    単純に民に全て任せるという案件ではないために、都道府県等のリスク、負担、民との関係性等個別自治体としての方針と考えをまずしっかり地固めしないと前へは進めない。
    これは相当の作業負担となる。
  6. 地域社会(住民、議会)の合意を得ることが誘致推進の前提条件となること:
    議会への根回しと同意、市民に対する情報開示と支持・理解の取り付け等は案件推進に際しての不可欠の要素になる。
    IR推進に際し、住民反対運動等が生じるリスクもあり、案件推進途上において重大なリスクを抱えることもありうる。
  7. 全てを民間事業者に委ねるだけではダメで、都道府県等自身が担うべき業務や考慮すべき施策が存在すること:
    地域計画や地域の観光政策との整合性、地域中小企業や地域企業にとっての恩恵や住民に対する恩恵、市民の懸念を払拭するための、都道府県等としての依存症対策や治安安全対策等、政策的な配慮と実践や地域のリソースを活用する施策が求められ、単純に民間主体に委ねればいいという案件ではない。
    相当の覚悟と準備、独自の検討も必要になる。

IR整備法は、申請する都道府県等に対し、意図的に高いハードルを設定していることを理解する必要がある。
IRはどこにでも、誰にでもできる施設ではないとする政策的意図がその裏にある。
コロナ禍とこれが実態経済にもたらしているインパクトは、都道府県等にとり、更にハードルを高くする効果をもたらしてしまった。
投資家の投資意欲が極度に減退しつつある経済的社会的状況の下で、大きな投資を求めることはかなりチャレンジングな行為になる。
拙速な判断は、本来のIR立法の趣旨を歪めることも繋がる。
何時、何を、どう判断するか、政府の見識が問われている。

(美原 融)

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