National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-12-11

49.外国人専用カジノ施設

カジノを含むIRの制度構築の過程で、一部の首長、国会議員、有識者等から国際観光振興、外国人観光客誘致が目的ならば、外国人専用施設にすればよいのではないかとする議論があった。
いうまでもなく、もし、日本人が入場できる施設の場合には、賭博依存症や治安の悪化等好ましくない事象が生じかねない。
よって日本人を排除すれば、かかる問題が生じないと共に、そのインパクトを検討する必要もないという理由からかかる主張が生まれた。
カジノやIR反対派の主要論拠が賭博依存症に対する懸念であったがために、議論を避けることを目的にかかる論拠がでてきたのであろう(例えば和歌山県において当初和歌山市長が和歌山県のスタンスに反対し、とった主張。
但しかなり後になってこの意見は撤回された)。

外国人専用カジノ施設は諸外国に事例がないことはないが極めて例外的である。
開発途上国において、制度や規制等全く未整備の国が、単純に外貨獲得ないしは観光収入獲得・外国人観光客誘致の目的で、かかるカジノ施設を作ることが多い。
そのメリットは、外国人(非居住者)専用であり、内国人(居住者)は一切立ち寄れないし、かつカジノで遊ぶこともできない以上、カジノに係る特段の規制を設ける必要は限りなく少なること、特区的に運営を認め、税徴収や最低の公序良俗さえ守らせれば、特段の制度や規制も必要ないと考えられること等にある。
運営を担う民間主体にとってカジノ施設のみであるならば、資本費用は安価に抑えられ、その割には、事業性は高いビジネスにもなる。
外国人顧客を招き、外貨で支出させれば、貿易外収入になり、輸出と同じ経済効果がある。
但し、規模的には左程大きなものではないことが通例である。
よって経済効果も大きなものではない。

韓国におけるカジノは在韓米国軍人に対する余興の提供、外貨獲得が制度創設時点での政策目的でもあった。
当初、制度的には内国人も入れたのだが、公序良俗の乱れや日本のヤクザの介入等もあり、内国人は入場禁止を追加的に規定し、外国人専用カジノとなったという経緯がある。
現在迄この基本的枠組みは変わらず、同国には計17の外国人専用カジノ施設が大都市や国内観光地等に存在する。
但し、採算にのっているのは大都市にある僅かの施設のみで、その他の施設に関しては、採算は厳しい。
カジノで遊ぶ外国人観光客の来訪は地方では左程多くないからである。
カンボジアではタイとベトナムの国境沿いに、タイ人とベトナム人を誘致するための(外貨獲得)カジノ施設が集積してできたが、隣国では禁止されている賭博を国境沿いで提供することで、外貨を稼ぐビジネスとして成立した。
カンボジア人は入れない制度的枠組みだが、規制自体は極めて緩く、実態はかなり曖昧になっている。

カジノは成功が約束された事業ではありえない。
リスクも大きく、制度や規制の枠組み、施設のロケーション次第では、集客ができないこともある。
外国人専用カジノは、内国人も自由に入れる通常のオープンなカジノ施設と異なり、普通のカジノ施設以上に様々な課題を抱える。
例えば下記課題等が存在する。

  1. カジノで遊ぶことのみを目的とした外国人顧客が一国から見てどの位いるのか、市場の規模をどう評価できるのか等は、当該国の事情、外国人にとっての当該施設へのアクセスの利便性(国際飛行場との至近性、交通アクセスの良さ)、その他の魅力ある観光資源の存在等にもよる。
    国際空港に近い大都市等は地方の観光都市と比べ、より多くの顧客を集客できる。
    カジノだけではなく、ビジネス・会議・観光等多様な目的をもった顧客を集客できる地点・施設群であれば、集客と消費のシナジーは確実に高まる。
    カジノだけの小規模単体施設を外国人専用として観光都市に設けても、これが顧客を呼び込む観光資源となるかに関しては懸念も大きい。
  2. 対象顧客を意図的に限定するような施策・制度は、限られた市場のみを対象とするため、中小規模が適切で、大規模施設・投資ではペイしなくなる。
    よってカジノ単独小規模施設として、ホテル等の会議場等のスペースを借りて、事業性を確保したりすることが多い(過去の韓国の外国人専用カジノはこうである)。
    この場合、他の施設機能(ホテル等)との消費のシナジーは起こりにくい。
  3. どの国民をターゲットの集客顧客と考えるか、如何なる戦略でどの国の顧客を集客するか次第で、当該施設の在り方は大きく異なる。
    韓国外人専用カジノの主顧客は当初は在韓米国軍人と日本人、その後日本人が過半を占めるように発展し、日韓の政治事情も反映し、現在では中国人が主体の市場に変化している。
    特定国の外国人顧客を顧客の主体としてロックインする施設は、当該特定国の方針が変わったり、何等かの事象が生じ、外国人顧客が来れなくなったりする事象が生じた場合には、事業として致命的な打撃を受けることが多い(例:韓国における日韓関係、中韓関係悪化による日本人・中国人旅行客の激減等)

外国人旅客専用カジノ施設とは、極めて限られた環境、限られた状況においてのみ成立するビジネスモデルで、汎用的な考えに立脚するものではない。
顧客に差別を設けず、多様な機能やアメニテイ―を提供し、様々な顧客層に対応できる施設群の中にカジノを位置付けることにより、消費のシナジーを期待できる。
集客施設とは如何に効果的に多様な目的をもった顧客を集めることができるかが鍵なのだ。
尚、コロナ禍の現状では各国とも実質的な観光客入国禁止に近い検疫制度を設けており、短期的に韓国外国人専用カジノでは需要が蒸発する事情が生じている。
顧客を一定セグメントに限定する集客施設は、かかるリスクへの対応は弱くなる。

(美原 融)

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