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2020-12-04

48.顧客勝ち分に対する所得課税 ②

2019年11月27日財務省主税局・国税庁は党税調小委員会に対し、次年度の税制改正につき「カジノ事業者及びカジノ所得に係る税制上の所要の措置」なる報告を上げ大きな物議を醸しだした。
これはIR施設内におけるカジノ所得につき、申告の利便性向上と適正申告確保の観点からの措置を講じる必要があるとし、①利用者毎にチップの購入・換金額・場内の購入額・個別のゲームによる勝ち負けの記録を事業者が記録・保存し、利用者本人に提供する仕組みを設けること、②あるいは事業者に対し、源泉徴収及び支払い調書の提出を義務づけること等課税の在り方を見直すこと等に関し方針を定め、令和3年度以降の税制改正において決定することを提言する内容である。

税法上は、競馬、競輪、競艇、オートレース等の公営競技(賭博)の勝ち金は一時所得となり、確定申告をして、課税の対象になる。
総収入からその収入を得るためにかかった経費、特別控除として50万円を差し引いた額が一時所得となるが、経費とは原則当選した投票券を指すため、例えば、他のレースの外れ券などは、基本的に経費として計上することができない。
一方宝くじやスクラッチ、ロト、Toto等は非課税所得と呼ばれ、購入の段階で国が税金を控除しているため、当選後改めて税金を払う必要はないというややこしい仕組みになる。
更にややこしいのは、平成27年3月に最高裁の払戻金に係る課税に関する事案の判決ではずれ馬券も経費として計上できるという判例が生じた。
但しこれは馬券購入者の馬券の購入が機械的、網羅的、大規模であり、それが客観的に認められる証拠を有していると判断されたという背景がある(諸外国でもこのようにプロの賭博師の場合には損益通算が認められており、突飛な考えではない)。
所得税法上、営利を目的とした継続的な行為から生じた所得は雑所得に分類され、こうなると外れ馬券も経費として計上できるのだが、これは極めて例外的で、一般的ではない。
通常は、顧客勝ち分は一時所得に分類されることになる。
問題は、ルールはルールでも、公営競技で大勝ちをした人は誰も確定申告をしていないという現実にある。
これがため令和元年6月10日参議院決算委員会において「政府は、高額な払戻金を受けたものが適切に納税するよう・・高額な払戻金を受けた個人を特定するなど適正な課税の確保に資する制度を構築すべきである」と審査要求決議がなされたという経緯がある。
確かに課税の適切性という観点からは、公営賭博における高額勝ち客への課税の在り方は大きな問題でもある。
一方、カジノも公営賭博も、賭博行為であることに変わりはなく、勝ち金に対する課税関係は公平性の観点から本来同じであるべきで、カジノだけを取り上げ、課税措置を単独に税制改正で取り決める等まことにおかしな考え方になる。

問題はその手法だ。
個別の顧客の全ての賭け金・換金・賭け方(ハンド)を事業者として正確に記録・保存することは、現状全てのカジノ施設で慣行として行われていないし、一般論としても、何らかの制度的義務としても、世界中どこでも実行しておらず、不特定多数の顧客にこれを実行することは不可能に近い。
高額取引VIP顧客でVIP ルームの顧客に対しては、対象が限られるため、例外的にPit Bossがマニュアルで各ハンドを記録することはやっているが、一般顧客に同様のことを実践することは不可能に近い。
チップやカード、賭け金行動、即ちカジノ行為の全てをシステム化し、電子情報化すれば理論的にできないことはないが、これは将来の可能性でしかない。
これを前提に税の制度を構築するわけにはいなかいだろう。
一方源泉徴収も、米国のように対象を限定する(テーブルゲーム1ゲームの勝ち金5000㌦以上かつ賭け金の300倍以上、あるいはスロットにおける大勝ち)場合、不可能ではないとはいえ、現実的とも思えない。
もし一般則として顧客勝ち分への源泉徴収を規定した場合、他国の類似施設と比較し、顧客にとり極めて不利な状況になることより、おそらく日本人顧客も外国人顧客もまず間違いなくIRのカジノ施設には来なくなる。
かつ非居住者のカジノ所得に関する課税関係は二国間租税条約の規定により異なる(居住地国のみ課税、あるいは源泉地国課税容認)ため、非課税要件を充足するためには顧客毎に極めて煩雑あるいは不可能に近い手続きが必要となってしまう。

単純ではないのは、カジノだけが特殊であるわけではなく、あくまでも公営賭博等と歩調を合わせて、制度的整合性を保持しながら、課税の適切性を確保せざるをえないことにある。
この場合、諸外国との比較や競争性の確保も必要で、日本のみが他国と制度的に大きく異なる場合には、外国人顧客を誘致することは極めて難しくなってしまう。
居住者の場合、一定額を超える大勝ちに対しては事業者が本人確認をし、支払い調書を所轄税務署に送付し、本人の確定申告に委ねることとなることは、他の賭博種がそうなれば、カジノの場合もそうなるのであろう。
また非居住者の場合には、他国の例に倣い、課税権を放棄することがあるべき基本となるべきかもしれない。
これは当然のことながらその他の公営競技の場合でも同じ考え方が採用されなければおかしい。

2020年12月、本年度与党税調は、IRに係る税制の問題は決着する方向性を示すとして、本稿執筆段階で大詰めの段階にある。
果たして、日本の仕組みは世界の制度に伍する、公平かつ適切な課税の仕組みとなるか否かはまだ明らかではない。

(美原 融)

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