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2021-09-01

121.横浜市のIR誘致脱落が示すものは?

8月22日横浜市市長選は立憲民主党支援の候補が大きな差をつけて大方の予想通り楽勝し、これにより横浜IRの可能性はなくなり、大山鳴動して鼠一匹動かずという事態になってしまった。
この事情は沖縄県の場合と類似的でDeja Vuの様に思える。
沖縄県の場合も知事選挙により、賛成派知事から反対派知事になった段階で、それ以前に行政府が長年かけて緻密に検討してきたIR構想は一夜にして無に帰した。
横浜市の場合も同様であろう。
それにしても横浜市につきあい、詳細な提案を準備し、提出した二つの企業コンソーシアムは、最後の段階で横浜市自体が誘致から脱落するという悪夢でしかない事態を迎えたことになる。
今更新たな都道府県等へのセールスをすること等不可能だ。
かつ新たな都道府県等が来年4月28日迄に事業者を選定し、区域整備計画案を国土交通省に提出することなど時間的にできるわけがない。
国が政策的に区域整備計画提出期限を延ばし、新たな参加者を募ればいいなどという意見があるが、これでは今まで参加してきた都道府県等にとってみればルールを変えることになり、不公平、とんでもないということになるのは当たり前だ。
政令も変えざるをえず、政府としても単純にできるわけがない。
横浜市への参加を企図した企業群団は残念ながら、行き場がなくなったということになる。
二グループとも立派な提案の様に思えたのだが、タイミングがあまりにも悪すぎたということなのかもしれない。
行政側の事情は連日マスコミにのるのだが、汗をかかされた人達のニュースは皆無だ。
IR推進は問題という人達から見れば、企業が担う当然のリスク、一切無視ということなのであろう。

IRの是非が市民の注目を集め、市民の投票行動に影響を与えたことは間違いない。
一方横浜市民の行動はどう考えてもIRの是非のみが選挙の勝敗のポイントであったというわけではなさそうだ。
コロナ対応施策の失敗・政権の失策、住民の現在・将来に対する不満・不安、市に影を落とす与党政権トップに対する極度の不信感等は確実に反与党票になる。
前市長の過去の方針転換も大きなマイナス要因になったことは間違いない。
前回選挙の際、IRは従来から推進としていた方針を白紙と主張し、争点をずらし、選挙に勝ち、後刻これを翻して、IR誘致に回ったことは、公約が違うとして、少なからず市民の不評をかった。
高齢、健康上の問題、多選を拒否する政権与党の支持を得られなかったこと、住民請願も必要無しとして議会で拒否するように仕向けたこと等も全て前市長のマイナスイメージとしてしか映らない。
これに加え、政権与党の選挙戦に向けての迷走も極めてまずかった。
本来一丸となるべきかなりの数の与党票を細分化して、調整もできず内部分裂する方向にもっていったからだ。
前市長がダメというならば早めに市民が納得する立候補者を選び、与党票を固め、前市長に選挙を辞退させるということが最良の選択だったのだが、どこかでボタンの掛け違いが生じ、反発のみが関係者に残ってしまった。
もっとも与党は火中の栗を拾う有力な候補を見つけられなかった。
IRの是非に関しスタンスを明確にせざるを得ず、明確にした時点で明らかに一定数の離反する市民が出てくることは明らかであったからである。
これでは誰も候補になりたがらない。

前市長の最大の問題は方針のブレだろう。
誘致方針を決める前にかなりの逡巡と時間を要したという事実もある。
誘致を表明した後でも、かなりの数の住民投票に関する請願が出てきたとき、取るべき選択肢は議会をして拒否する方向に誘導することではなく、住民請願を受け入れ、議員を説得し、住民投票条例を可決させ、その是非の論理を詳細に展開し、住民投票による市民の判断を仰ぐべきであった。
これをもしやっていれば市民の前市長への信頼と信用は崩れなかったかもしれない。
住民投票でIR可となれば、そこで反対派の活動は終息する。
もしIR否となれば、対住民説得のやり方がまずかった、できなかったということでしかなく、諦めもつくというものだ。
この方がリスクはあるとはいえ、政策の一貫性を主張できる。
この問題と市長選挙を明らかに峻別することができたはずだ。
IRの是非はあくまでも都道府県等並びにその市民が判断すべきもので、永田町の思惑が絡むことは本来ない制度的立て付けになっている。
もっともこれを結び付けたがるのがマスコミなのかもしれない。
この選挙戦で事態を更に混迷化したのは現首相の兄弟分ともいうべき現職大臣が辞職し、IR反対を旗印に選挙戦にうって出たことだ。
市議会と市政を支えた民間団体はこれにより誰を支持するかで分裂、固めるべき票を分散させてしまう結果をもたらした。
一方、市民の中にはまたぞろ選挙後に方針変更をするかも?という懸念も生まれたことは事実だ。
更には著名な過去の知事たちも泡沫候補であることを認識しつつ、手を挙げることになったのだから保守系の人達の分裂も極まれり、といったところだ。

行政による緻密な準備検討と従前の知事の前向き姿勢にも拘わらず、選挙による新たな首長の当選がIR推進を断念させた事例は、沖縄県、北海道、横浜市と三つになった。
IR政策の推進の可否に地域住民の意見を反映させようという考えは当初の立法府の意思でもあったのだが、自治法の仕組みとしての首長選挙に絡ませて、IR中立派・反対派の候補を当選させる方が、IRを潰すためにはもっとも効率的という皮肉な結果になってしまったことになる。
もっともタイミング的には構想・計画を実践にうつす直前で選挙になり、その実践の是非が選挙の争点の一つになったわけで、絶妙のタイミングでもあったことになる。
自治体は様々な政策課題を抱えており、この全体の枠組みの中では、IRの是非等はどうしてもSecondary Issueになりかねない。
政策の中身の議論は限りなく薄くなるわけだ。
こうなると、「空気」、「感情」が票の流れを変えてしまうということも起こることになる。
本来もっとしかるべき議論があってもよかったのだが・・

(美原 融)

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