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2021-08-30

120.IRにおける政治リスク ⑥政治リスクの現代的な在り方

一般的な政治リスクとは戦争、内乱、暴動や公権力による資産の接収、収容、土地の利用や許認可等の取り消しや更新拒否、恣意的な法令変更等になる。
広義の意味では、公的な契約主体による違法行為や一方的契約解除等をも含む。
これは個別の商業活動や環境変化、事業の取引先等に起因する商業的リスクの反対概念になる。
民間主体は、商業的リスクは取れるが、政治的リスクは取りにくい。
リスクの発生を管理できず、リスクが発生した場合の措置や影響の縮減等も選択肢が限られるためである。
公と民との行政契約においては、何らかの事情を起因とし、公民の信頼関係や市民による信頼等が喪失する事由が生じた場合や、公的主体が袋小路に追い込まれる場合、立法府や行政府が既存契約の遂行は公益に反すると判断する等の場合は、政治リスクが具現化してしまう。
あからさまな国家や公権力による契約行為に対する干渉、あるいは暴力的行為は、昔は存在したのだが、現代社会ではまずありえない事象になった。
その変わりに生じているのは、一見合法的な装い、アプローチを見せながら、複雑な手法、手順により民間主体に圧力をかけたり、法廷闘争に持ち込んだりして、退出を迫ったりする行為である。
あるいは一国の政府や制度は賛意を示し、支持したりしていても、実際のビジネスが行われる地方政府レベルでかかる行為が生じることもある。

数は少ないが、現在の日本でもかかる事象は発生している。
例えば行政による大きな開発行為推進の是非が選挙上の論点となり、反対派が首長となったり、議会において過半数の議席をとったりした場合には、過去の政策やその実践を取り消したり、民との行政契約を解除したりするという事象は現実に生じている。
東京都においても過去を遡ると美濃部知事による公営競技廃止、青島知事による東京万博廃止、小池知事による築地市場移転中断等政治的意思が過去の政策を覆したり、政治的干渉が政策の遂行に大混乱をもたらした事例は結構存在する。
いずれも何が公益かという政策判断がもたらした政策変更事由になる。

政治的、社会的に必ずしも全ての市民の賛同を得られにくい施策であったり、賛意を得るためには一定の実績が必要となったりする施策等はかかる政治リスクを常に抱えているといっても過言ではない。
ことIRに関しても他人事ではない。
選挙を通じた選挙民の意思やこれに伴う首長や議会議員の交替がかかる行動をもたらすことは民主主義社会の常道になる。
問題は、今まで支援してきた地域社会の議会や首長を含めた行政府が何等かの事象を契機に、段階的に、時間をかけてIR批判に回ってしまうリスクで、ありえない話ではない。
この場合、単純にIRを否定せず、解らないように、少しずつ問題を拡散させ、民間事業者を追い詰めていく手法を取ることが多い。
では如何なる事象が起こりうるのであろうか?

  • 大衆の怒りを煽る(Public Rage):
    マスコミを動員し、大衆の怒りや反発を意識的に創出する行為になる。
    一部野党の得意とする手法でもあり、通常は反対派が一定の政策を潰すために取る行動である。
    この行動を地方公共団体が首長の意思により堂々とこれを実践することがある。
    例えば行政府が正式に第三者専門家を委員とした検証委員会を創設し、オープンに、マスコミを動員して、否定的な情報を組織的、意図的に議論させる。
    大衆の怒りが裏にある場合、民間事業者の立場は極めて弱くなる。
    これにより、住民の反対感情に繋げ、事業者との交渉・協議により、合法的に契約解除や市場退出を迫るわけである。
  • 法的な嫌がらせをする(Legal Harassment):
    公的主体が直接関与することなしに、間接的に企業グループやNPO等の市民団体あるいは労働組合等を動かし、IR事業者を対象に民事訴訟をおこし、合法的な嫌がらせにより事業者の退出を迫る考え方になる。
    住民が行政府に要求する請願や住民請求と異なり、何等かの不利益を被ったことを理由に、事業者自身を法定闘争に巻き込み、一種の合法的な嫌がらせを行う行為になる。
    これには様々な手法や考え方がある。
  • 政治的社会的な圧力をかける(Political/social pressure):
    事業者に対する政治的・社会的圧力を行使し、操業や運営ができにくい状況を創出する。
    例えば、報告事項・モニター等の頻度を高めたり、不必要・非合理的な要求を協議会の場で利害関係者と共に要したりする、顧客の賭け金行動を抑止する条例等の制定等になる。
    既存の制度や契約の枠組みを遵守しつつ、監視や規制のレベルを上げることにより合法的に圧力をかける行為になる。

これら事象の共通的な特徴は、立法府や行政府が例え後ろに存在していても、直接的な相手ではないことが多く、契約主体としての意図や悪意を立証できないことにある。
相手の不当な行為を指摘できにくい状況にある場合、中々反論はできなくなってしまう。
公的主体はこのように、間接的な手法により、市場からの事業者の自主的な退出を迫るあらゆる手段を駆使することがある。
正当な嫌がらせを行使された場合、これを救済できるツールは殆どない。
もっともかかる事象が現実に生じているとしたならば、事業の継続にはかなりの不安要素が生じてしまうことになりかねない。
我が国では契約行為はお互いの信頼性に依拠して成立するという慣行があり、特に契約主体が公的主体である場合には、かかる政治リスクに関しては民間部門は鈍感であることが多い。
現実的にはありえないかもしれないが、もしありえた場合、民間主体として如何なる対処措置を取れるか、救済はありうるか等は頭で考えておく必要があろう。

(美原 融)

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