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2021-09-06

122.日本のIR政策は失敗か? ①投資環境の変化

IR推進法制定が制定されたのは2016年12月である。
その後IR整備法が制定され、今日に至っているが、6年を経過しようやく制度の大枠は固まったが、何処で、誰がIRを実現するのかはまだ決まっていない。
これが明確になるのは2022年春~初夏以降ということになる。
なんともはや、これではナメクジ並みのスローペース、法の施行になぜこんなに時間がかかるのかといぶかしがる海外の識者や事業者の意見も多い。
これは我が国には過去存在しなかった新しい制度と仕組みを構築せざるをえず、IR整備法自体がかなり精緻な大法律でもあり、これを踏まえた基本方針やカジノ管理委員会諸規則等も膨大な作業量になり、かなりの時間を要したというのが現実である。
コロナ禍により実質的に1年間動きが停滞した時期もあったが、やはり慎重な検討と準備をせざるを得ず時間がかかったということだ。
おかしな話ではないということに尽きる。
この間、国は段階的に制度構築を進め、都道府県等は基本方針に基づき、実施方針・公募により事業者選定手続きを開始、一方民間事業者は実施方針・募集要項等を踏まえ、企業間でコンソーシアムを構成し、事業提案を練り、これを提出、ようやく事業者選定レベルにある。
もっともこれはスタートにすぎず、今後都道府県等と選定事業者間で基本協定の締結、国に提案する区域整備計画の共同策定と2022年4月28日迄に国にこれを提出し、国の審査を経て、区域認定を受けることになる。
民間事業者からすれば、案件をフォローし始めてから極めて長いリードタイムになってしまっており、コロナ禍という市場環境の激変もこれあり、大規模投資を前提とするIRへの興味自体を見直すという動きも散見されるようになってきている。

この状況を見て、かつこのコロナ禍がまだ継続している最中に、IRを推進することに政策的価値はあるのか、既にIRの推進、IR政策自体が失敗しているのではないかとする意見が一部メデイアや市場関係者の間で囁かれている。
果たして日本のIR政策は失敗したといえるのだろうか。
確かに、この間、市場環境は大きく変化したという事実はある。
IR推進法制定の時点とは、訪日来訪外国人客が年々増加し、都市の魅力を増大する象徴的な施設群や我が国には存在しない大型展示場や会議施設等をIRの一要素として実現するという強い政策的意図があった。
市場の実態が強く、今後も持続的な発展や成長が見込まれる場合には、意欲的、チャレンジングな施策もうまく機能する。
IR推進法制定当時は、日本はカジノ賭博が認められていない最後の残された先進国市場として様々な外資カジノオペレーターが日本への投資に積極的な興味を示したという事実があった。
興味を示したカジノオペレーターは大小含め20社を下らない。
もっとも我が国のIR制度の仕組みは投資家による意欲だけでは何も進まない。
IRを誘致したいとする都道府県等(都道府県ないしは政令指定都市)がまずその意思を明確にし、誘致活動をすることが前提であり、都道府県等が提示する候補となる区域や地点の戦略性や事業性を民間事業者が評価して、参画に興味を示すという手順をとる。
即ち国や都道府県等は制度の枠組みを構築したり、対象となる地域を特定化し、そこへのIRの誘致を図ったりするが、投資の意思決定は国でも都道府県等でもなく、あくまでも民間事業者になる。
提案された地点が持っている地政学的な優位性、集客力、交通アクセスの利便性、都道府県等の特定的な要求・要請事項、地域特有の制約要因、当該都道府県等の強い政治的意思等を勘案し、事業者は参画の判断をすることになる。
もっとも制度や規制の詳細や都道府県等の要請事項が固まっていない段階での興味は所詮潜在的な興味はあるというリップサービスでもあったのだろう。

国の基本方針案や政令案が出そろい、都道府県等の実施方針案が略把握できるようになった段階で、事業者の地域選好の考え方が明らかになった。
米国及びアジアの大手カジノ事業者は市場規模が確実に大きい大都市IRを志向し、地方案件には見向きもしない。
一方外資の中堅カジノ事業者は地方観光都市が誘致するIRに集中して興味を示した。
都道府県等の事情が不明瞭な段階では、海外カジノ事業者はかなり活発なマーケッテイング活動を実施したことは事実である。
パイロット的な事務所ないしは法人を組成し、邦人職員を雇用し、様々な情報収集・ロビイーング活動を担うわけだ。
地域社会との共生も結構な額の寄付金や慈善活動等金のバラマキは極めて上手だ。
もっとも巨額の投資となる中核施設の要件や附帯インフラ事業費負担等実態が明らかになるにつれ、大手カジノ事業者はこれでは投資コスト回収ができない、ペイしない等を理由に徐々に日本市場からフェードアウトすることが段階的に増えてきた。
2020年から現状に至るコロナ禍は、エンターテイメント需要の一時的蒸発をもたらし、各国による海外渡航制限、本体企業のEBITDAの悪化は海外カジノ事業者の開発行為を難しくし、かつ投資意欲を極度に劣化する事象をもたらした。
2021年後半になり、市場の状況はかなり改善されたが、残念ながら投資環境が著しく劣化したという事実は明らかだ。
但し、回復の兆しはあり、時間の問題で元に戻るのであろう。

日本の潜在的市場規模は人口規模や個人の可処分所得の大きさ、類似的なエンターテイメントへの消費性向等より勘案しても、かなり大きいと想定され、新たな賭博種・賭博施設が導入されても、これを許容できるはずである。
チャレンジし、新たな事業に投資する商業的メリットは明らかにある。
ましてや競争が限定される地域独占的施設である場合、集客力・魅力のある施設群・コンテンツを提供できれば成功は間違いないように思える。
一方、都道府県等のコールに市場が反応せず、1社入札、結果的1社入札等、応札者が激減し、競争環境が劣化したことも事実だ。
強気の制度的内容は、市場が強気の時には機能する。
もし、市場が弱気になった場合、制度の考え方と市場とに大きなギャップができてしまう。
勿論これも時間の経過と共に元に戻るのであろう。
これによりIRの政策が失敗したとは言えないと思うが、政策の価値が減少する効果をもたらしかねない側面もあることは事実だ。

(美原 融)

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