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2021-09-27

125.日本のIR政策は失敗か? ④競争脱落要因

8月22日に行われた横浜市長選挙の結果として、IRの横浜誘致は消え、競争市場から横浜市は脱落することになった。既に公募実施中で、事業者選定の最終段階にあったこと、日本最大の地方自治体において、地点としては理想的な山下埠頭に1兆円以上を投資する計画であったこと、首長、行政府が指導したIR誘致施策に対し、市民の反感・反対の声が市長選挙の票を割り、反対派候補が選ばれたということで、極めてインパクトの高い終結となったことは間違いない。類似的な事象は過去、沖縄県、北海道でも生じている。いずれも旧首長は賛成派、新首長は反対派(沖縄県)、もしくは熟慮した上で断念(北海道)と長年行政府が準備検討してきた誘致運動が首長の交替により覆された事例になる。都道府県等の誘致活動は、行政府や地元民間団体、潜在的事業者等が声を挙げ、都道府県等の首長の同意を得て、構想や地点候補選定、基礎的自治体との調整、市民や議会の合意形成等を経て時間をかけ、段階的に構築される。しっかりとした議論の積み重ねがある場合、単純な形でこれが壊れることはまずないと考えられてきた。一方都道府県等でも首長は無党派だったり、与野党相乗りであったりすることも多く、賛否の解かれる政策の場合には、首長の政策選択がどっちになるのかは極めて解かり難くなってしまう。例えば地域社会に根を張る地方新聞や地方メデイアがIR反対のキャンペーンを始めたり、住民が反対運動を組織化したり、地域社会の商工会や団体等でも意見が割れたりする事象がおこると、状況次第では首長の意見も変わってしまう。これらを契機として首長選挙での政策選択が割れ、首長が変わることにより政策も変わってしまうことが生じたわけだ。都道府県等の区域認定競争からの脱落は、このような政治的要因に左右されることが多い。

別の要因として存在するのは、民間事業者がついてこれず、都道府県等が案件推進を断念する場合だ。都道府県等が実施方針を策定し、事業者選定公募に至る場合には、当然事前に調査検討やRFI等の手順を経て、潜在的事業者の意向を確認した上で手順を進めるのが通例である。確実に競争環境を確保することが好ましいからである。もし応札者がいなければ、その段階で都道府県等は誘致を断念せざるを得なくなる。さすがに今までかかる事例は無い。ところが競争が見込まれると当初考えられていたにも拘わらず、結果的に1社のみの応札となった都道府県等も複数あった。勿論これでも公募は成立するが、この事業者が要件を満たさない提案をした場合や、事業者を選定してもその後の手順や区域整備計画策定、実施協定交渉等で合意できなかった場合には、当該都道府県等は区域認定競争から脱落することになる。選定された事業者は優先交渉権者という立場にあり、交渉が不調となれば、次点の事業者を再度選び、交渉すればいいではないかとする一部行政府の意見があるが、これは簡単にはできるものではない。IRは単純な通常の提案公募ではないからだ。かつ時間も足りず、この場合も確実に都道府県等は脱落する。

一方、民間事業者が自らの理由により、競争から脱落する場合もある。都道府県等による誘致は、行政府による緻密かつ周到な準備・検討の上でなされるが、潜在的民間事業者の対応は、新たな市場参画への興味が先行し、精緻な市場分析や検討等は後回しにされることが多い。よって当初は極めて積極的なスタンスを取るが、正確な状況や制度や規制の在り方を段階的に理解することにより、及び腰になった企業あるいは市場へのインタレストが懐疑的になった企業、結果的に市場からの撤退を決断した企業も多い。撤退を決断した外資企業等の主要な理由は、巨額な投資費用と運営上の制約要因、潜在的市場規模を勘案した場合、期待EBITDAを得られない、リターンが低く、想定対象期間内に投資コストを回収できない、あるいは投資コスト回収に時間がかかる等になる。これに加え、コロナ禍という投資環境としては極めて将来に対する不確実性が高い環境になったことを主張する事業者もいた。更に、日本の制度に内在する制度的不安定性、不確実性から、投資コストの回収に不安材料があること、規制や制約の厳格性等ハードルが高すぎることを指摘する声もあった。もっとも事業者自身の問題として海外におけるマネーロンダリング疑惑等廉潔性の問題を指摘され、自主的に辞退した事業者もいれば、都道府県等に退出を促された事業者もいる。また当該企業本社の海外投資戦略の転換等から撤退した企業等もある。決め打ちにして選択した都道府県等が推進を断念したことにより、投資意欲はあるが、中途半端に具体の案件が無くなり、そのまま待ちの姿勢を保持している企業もいる。民間事業者の競争脱落には様々な要因があるということになる。

官と民の間における上記事情は、わが国の制度と実践の在り方には必ずしもうまく機能していない側面があることを示唆している。日本の制度は、民間事業者による投資誘致を図り、そのための誘因を設けるという考えは一部あるにせよ、副次的な位置づけでしかない。この意味では事業者を積極的に支援するという考えは殆ど無いか、極めて弱い。これに対し、米国等の場合は投資誘致がその目的にあり、企業に儲けさせ、確実に税収を挙げることが公益という考えをとる。制度の在り方もまず民間が意欲的に参加することが全ての前提で、この考えを下にカジノ免許や規制の考え方が成立している。この意味では公と民のインタレストは同一方向を向いている(Alignしている)。一方日本の場合には、官と民のインタレストは必ずしも同一方向にAlignしているわけではない。こういう仕組みは官と民との間で離反が生じやすい構図になっているともいえる。これも事業者脱落の一つの要因となっている感がある。

(美原 融)

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