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2021-09-20

124.日本のIR政策は失敗か? ③制度の硬直性と参入障壁

規制者と規制を受ける許諾民間設置運営事業者(カジノ事業者)との関係はどうあるべきかという課題は既に指摘されているが、今後とも継続的に議論の対象になりそうである。
現状は規制当局であるカジノ管理委員会が創設され(2020年1月)、1年半の検討を経て、規則の骨格が制定された(2021年7月)段階にある。
一方誘致を企図している都道府県等は2021年夏レベルで実質的に優先交渉者を選定し、実施協定案の交渉や区域整備計画案策定に入ろうとしている。
区域認定の審査は区域整備計画案を提出しなければ始まらないため、どの候補区域が認定され、どの関連事業者がカジノ免許を申請することになるかも現状では定かではない。
よって区域認定に係る競争は存在しているわけで、国の機関の接触ルールからすると、カジノ管理委員会と潜在的カジノ事業者候補が自由に対話をできる状況にはなさそうだ。
この様な状況下で規制当局が一方的に規制の詳細を詰めている。
本来詳細規則とは、実態を正確に把握し、実際の運営を担う事業者の意向や慣行等を精査した上で、合理的に定めることが理想となる。
市場の実態から乖離した考え方では規則自体が機能せず、効果も薄くなるからだ。
果たして現在迄に制定された規則は現実を踏まえた制度になっているのか否か、わが国の規制のシステムは先進諸外国の規則や慣行と比較し、大きく乖離したものになっていないか等に関しては、様々なレベルで議論が起こりつつある。

問題となるのは、諸外国と比較した場合のわが国の規則の厳格度の程度(レベル)にある。
賭博規制とは本来厳格であるべきなのだが、事業者の息の根を止めるような行き過ぎた内容だと本末転倒になってしまう。
規制が厳格すぎて、これが事業性を損ねる内容であるとしたならば、事業者も当該市場には興味を示さず、参入をあきらめることになりかねないからである。
参加者がいなくなるとすれば、これでは何のための制度か規制なのか解らなくなってしまう。
もっとももし、規制自体が甘い場合、規制があっても法の執行がなされない緩い環境がある場合等には、規制を逸脱する行為が横行することになりかねない。
これでは何のための規制かという議論が生じることになる。

一方、規則を定めるカジノ管理委員会はあくまでも規制機関であって、カジノを推進する機関ではないという意見がある。
厳格な規制を設け、それを執行することこそが法が定める規制機関の役割であって、事業者の市場参入を支援するために規制機関があるわけでは無いとする考えになる。
確かに一理はある考え方だ。
但し、厳格な規制を設けるだけでは、IR整備法が本来志向した滞在型観光の振興や地域経済の振興、国・地方の財政の改善等はまず実現できなくなってしまう。
事業者の市場参入意欲を著しく縮小化してしまえば、IRは実現できないし、集客もなく、かつ税収も経済活性化も期待できない。
もっとも制度として解かり難いのは、IRの推進は主務官庁である国土交通省が所管し、カジノ管理委員会はカジノの規制をすることのみが所管となっており、推進と規制がバラバラに行われていることにあるのかもしれない。
調整ができにくい縦割りの制度的仕組みなのだ。
諸外国にはかかる事例はあまりなく、一つの法律、一つの規制機関が全体を監督する制度の国が多く、推進と規制のバランスをうまく取れる仕組みになっている。
勿論我が国でも、法の理念としては、IRの実現・推進が存在し、IRという枠組みで民間事業者による投資事業の誘致を図ることにあるのは明らかだ。
他方、公益を維持するために、大型MICE施設を必置する等民間主体の投資負担を増やす政令上の義務やカジノの施行に関し、カジノがもたらしうる危害を縮減する施策が制度的に盛り込まれている。
この厳格度のレベル次第では、推進と規制の微妙なバランスが崩れ、民間から見た場合、誘致には積極的な制度ではないと見られてしまうのだろう。
確かにカジノ管理委員会の法目的は厳格な規制の制定とその施行であって、投資家の意向を斟酌し、投資家にとりFriendlyな枠組みを設けることではない。
一方これでは、全体の投資環境を見る投資家に取り、立法政策の意図が何処にあるのか解りづらい構図になってしまっていることは間違い無い。
過剰と思える厳格な規制は、投資家を委縮させ、投資を忌避する行動をもたらしているのではないかとする意見が既に市場にはある。
巨額の投資を確約し、リスクを取る以上、投資コストの回収がある程度見通せる規制や制度であるべきとする主張がその裏にはある。

本来賭博を認める法制度の基本的な考え方は、民間事業者をして、健全、安全、安心な環境において収益性のよいカジノ行為を厳格な規制の下に特例的に認め、その収益をもって納付金、納税、地域振興、観光振興等の公益に資する貢献をなすことにある。
「推進」か「規制・制限」かという二者択一ではないわけで、規制の厳格度と事業者による運営の裁量性と事業性は、どこかでバランスよく両方を考えざるを得ないことになる。
どちらかに偏りすぎると、制度の実践はうまくいかなくなる。
規制が厳格すぎて、誰も投資しないという状態では元も子もない。
また、民の負担が大きく、市場も委縮してしまうとすれば、事業採算が合わず、倒産や事業撤退に民間事業者を追い込む可能性すらありうる。
規制の本来の目的とは、法の趣旨に則り、IRやカジノの運営が、清廉潔癖性(integrity)を保持し、関連する全ての法人・自然人が法の基準に則った適格性(suitability)を維持していること、この制度と規制を市民が信頼 (credibility)し、その的確さを確信し(confidence)、信頼していること(trust)を期すことにあるのであろう。
これは必ずしも厳格な規制だけを設ければ良いということだけではないということをも含意する。

(美原 融)

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