National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-11-18

41.IR:運営上のKPIがもたらす課題

都道府県等が国土交通大臣に提出する区域整備計画(案)とは、事業計画、施設整備計画、運営計画、資金計画等を網羅し、かなり精緻かつ確実にIRの整備と運営を実行できる内容の計画であることが求められている。
計画自体の実行性、実現可能性、確実性が求められることになり、この計画を評価し、区域認定がなされる。
よって、もしこの評価の前提が大きく逸脱するような事象が将来生じた場合には、認定行為そのものが疑問視されることになりかねない。
この様な事情から、できうる限り精緻な計画でかつ確実に実行できる計画が求められることになる。
もっとも区域整備計画作成時点で、認定期間、即ち、認定後10年間に亘る基本事業計画や運営計画を精緻に組み立てることは民間事業者にとり単純なことではない。
企業の中長期事業計画で先が見通せるのはせいぜい5年間程度で、事業環境の変化等により、中期計画は機動的・柔軟に変えていかなければ、事業活動そのものがうまくいかなくなる。
建設も始まっていない段階で、将来の市場実態や運営の在り方を想定することは単純にはできない。
計画は大枠の目標であって、変化しうるものであり、常に現実の環境変化に伴い、修正(True-Up)していくというのが企業経営の在り方でもある。

ところが区域整備計画は、区域認定の根拠となることより、その確実な達成が要請されている。
もし前提が大幅に狂ってくれば評価自体がおかしかったということになり、何のための認定であったのかということになる。
例えば1兆円の投資計画を前提にした区域整備計画で、認定後、環境の変化が生じ、事業性を維持するために投資規模を5000億円に縮小化したとすれば、当初から認定を受けるために意図的に認定時の計画をかさ上げしていたのではないかと疑われる可能性もある。
法並びに基本方針は計画の「変更」並びに「軽微な変更」を許容し、規定するが、何が変更の対象で、どのレベルの変更が「軽微」なのかとする判断基準の記載はない。
整備計画からの逸脱を根拠とし、是正措置を受けたり、区域認定を取り消されたりするリスクは現実問題として想定できにくいが、ゼロではない。
認定取り消しにまで至らなくとも、施設整備や運営の在り方につき、何等かの是正措置を受け、民間の経営自由度が束縛される可能性は否定できない。
この点、IR整備法は、国土交通大臣に裁量性の強い判断権限を与えている。

初期投資規模や設置すべき施設に関し、区域整備計画上の要件が設定されること、これを充足することが区域認定の要件であることは解かりやすい。
解かり難いのは、類似的な要件規定やその達成が運営等の側面に跨ることにある。
例えば(政令II,2(6) 来訪する観光客数の見込み、国際会議の開催回数・展示会見本市等の開催回数、観光客支出金額見込み、初期投資金額の見込み、雇用者数の見込み等を運営上のKPI(key performance indicator)として、区域整備計画の中で、これらの具体的数値を提案し、かつ実現可能なKPIとしてその実現をコミットすることが民間事業者に求められるようである。
2019年レベルでの公開の席での内閣官房の説明は、運営上のKPIは必達目標として達成してもらわなければ困る。
その前提で計画案を提案してほしい。
かつ提案自体が認定に係る達成KPI目標となるとの説明が何度もなされたという経緯がある。

もっとも、IR整備法、基本方針、国土交通省政令には、明確な定義としてKPIを設定し、この遵守が国土交通大臣による運営評価の判断基準になるとの記載はない。
但し、極めて間接的な形で、目標を設定せしめ、この達成が求められるとする記述はある。
基本方針2(12)「評価」の項目に「都道府県等及びIR事業者は、取り組みの状況や目標の達成状況を測るための指標(KPI)について、その実績を示すデータを継続的に把握した上で、毎年度の評価を受ける際に、取り組みの状況や目標の達成状況について、データで示して説明できるようにする必要」とある。
面白いことにKPIという言葉はこの部分に初めてでてくるのだが、運営評価の指標として数値を設定することになるのは明らかであろう。

区域整備計画が着実かつ、確実に達成することをモニターし、年度毎にこれを評価し、必要な場合是正措置を考慮するということなのであろうが、問題は:

  1. 区域整備計画とその構成要素となる事業基本計画、運営計画等との関係、これと事業年度毎に策定される年度事業計画及び年度期末に提出される年度事業報告との関係が必ずしも、明確ではないことにある。
    如何なる判断基準でこれを動かしていくのか(目標設定、実施、達成評価、是正措置)。
    あまりにも詳細すぎる規律である場合、民間事業者の活力を削ぐことに繋がりかねない。
  2. 区域整備計画の時点では、あくまでも大きな目標設定はありうるだろうが、実際の経営計画や事業計画は、施設完工直前の時点で、全体を見直し、現実に合わせてTrue Upしていくことが本来好ましい。
    勿論区域整備計画認定の根幹を揺るがすような目標の大幅な逸脱は問題になるであろうが、合理的な説明による事業環境変化等の場合には、あまり問題視すべきではない。
    施設整備計画に基づき民間事業者が大きな投融資を実行している以上、どう資本コストを回収するかは、事業者自身の問題でもあり、主務官庁が是正措置を考慮するという考えは明らかに行政によるMicro Managementであろう。
  3. 現状は、将来に亘る事業環境や事業計画を、確実性をもって判断できないコロナ禍の状況が続いている。
    遅くとも来年春―初夏にはIRのRFPが公募の段階に入るとすれば、来年の秋頃には5-6年先の事業環境を踏まえた区域整備計画案を準備せざるを得なくなる。
    事業者にとってはかなり高いハードルになり、都道府県等が期待するしっかりとした提案が提出できるのか否か、懸念が残る。

(美原 融)

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