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2021-05-10

88.カジノ管理委員会規則案:⑧情報開示書式と背面調査

背面調査とは、カジノ管理委員会が定める質問票(法人の場合には8号様式、自然人の場合には10号様式)に申請者が記入、この情報をもとにカジノ管理委員会が当該申請主体の社会的信用性を内々調査・審査し、その申請の適否を判断するという行政行為になる。
この社会的信用とは、①暴力団との関係の有無、②法令遵守状況に関する不適切な経歴・活動の有無、③社会生活における活動の状況に関する不適切な経歴・活動の有無、④経済的状況に関する不適切な経歴・活動の有無、⑤他者との不適切な社会的経済的な関係の有無等を総合的に勘案して、不正又は不誠実な行為を行う恐れが無いと認められる者と定義される模様だ(カジノ関連機器等製造業等の認可審査基準案、第1項)。
何をもって不適切と判断するのかはかなり主観的な判断になる。
これに加えて法人・自然人いずれもが同意書を提出する必要があるが、これは①審査に必要なあらゆる情報の提供、全面的な協力、②必要な場合には委員会が関連情報を必要と認める者に提供すること、③必要な場合には情報を有する者が委員会に当該情報を提供することを認めさせる内容になる。
例えば規制機関は個人情報となる銀行口座の残高や株式や資産の保持状況等を銀行や証券会社から自由に資料を取得し、チェックできる。
何から何まで調べようと思えばできてしまうことを意味する。
質問票の内容とカジノ管理委員会に付与された権限により、嘘はつけないし、あらゆる個人情報をチェックされかねない。
パブコメに付されたカジノ管理委員会規則案、特にその質問票案により、概略如何なる情報を求められるのか、どういう調査をするのかの大枠は推測できる。
但し、未だ詳細が不明な点もある。
問題となるのは書式を要求される対象主体の範囲に一部不明確な点があること、この書式で要求される一部情報の範囲と要求される内容の深さが今一つ理解できにくいことにある。

対象主体の判断とは、誰が如何なる質問票を要求されるのかという課題でもある。
カジノ行為やカジノ業の中核にいる法人(例えばカジノ免許申請企業、5%以上の有効議決権を保持する認定主要株主等)は当然8号様式の対象であり、これら法人が申請することに伴い当該法人等の役員も10号様式をカジノ免許申請の一つの要件として提出することが求められる。
当該カジノ事業者は免許取得後、組織内の一定カジノ行為の業務統括責任者に関しては10号様式を準備させ、カジノ管理委員会の確認を受ける必要もある。
尚、カジノ関連電磁的機械・器具等の製造家、その役員もこの範疇に入る。
これら主体(法人・個人)はカジノ業の中核にいるわけでその廉潔性が要求されるのはある程度仕方がないのかもしれない。
一方、この中核から少し離れた主体・関係者になるが、当該カジノ事業者と出資、融資、取引その他の関係を通じて申請者の事業活動に支配的な影響力を有する者に対しては、カジノ管理委員会は質問票(法人の場合は8号様式、自然人にあっては10号様式)と同意書の提出を求めることができるという規定がある(規則第案8条7項)。
かなりの事業者、カジノ企業の協力企業等がこの範疇に入りかねないが、如何なる判断基準で「支配的な影響力を有する」となるのか不明である。
また法人の場合、法人として8号書式のみで事足りるのか、あるいはその役員迄10号書式を求められることになるかについても明確な記載はない。
この状況次第では当該企業やその役員等に関し大きな負担がかかりかねない。
果たして対象となるのか否か、対象となる場合、法人だけなのか、あるいは役員迄対象になるのかが不安定場合、案件を手掛けるか否かの判断にも繋がってしまうかもしれない。
尚、別途カジノ管理委員会が締結する3億円以上の契約などは認可の対象となっており、上記と組み合わせて、様々な調査・審査ができる仕組みとなっている(案第九十六条、九十七条)。

これに対し、内容の深さの問題とは、各質問票にある個別の質問や要求される情報内容の深さ、詳細さになる。
単純にはこんな詳細情報をとってどうするのかということなのだが、社会的信用を審査するために本当にここまで必要なのかという課題になる。
例えば法人に要求される8号書式に関して、過去5年間の取締役会の全記録の提出という要求がある。
カジノ企業がSPCで設立間もない企業であるとか、当初設立したパイロット開発企業を増資してカジノ事業者とする場合はおそらく問題はない(記録自体が少ないからだ)。
一方、認定主要株主の場合は大問題になる。
とてつもない量、事業経営上外部に出したくない資料もあれば、IRやカジノに全く関係のない内容が過半になるからだ。
ここから企業の社会的信用性を判断することは恐らく難しい。
必要なのはIRやカジノに関する企業としての決議事項なのだろう。
過去5年間の取締役全議事録提出要求は負担のみが残るだけだ。
あるいは個人に関する10号様式質問票は、本人のみならず家族(配偶者、子供)の詳細な資産状況報告(銀行口座現金状況、株式土地等保持資産、負債)等極めて機微な個人情報を要求する。
カジノの中核にいる法人・個人は致し方ないかもしれないが、それ以外の協力企業や委託契約主体の役員迄かかる書式を要求することは明らかに過剰な要求になりかねない。

かかる背面調査は我が国では前例の無い行為になる。
申請者にとり加重の負担や機微な個人情報等の開示を求められる場合、事業への参画を躊躇う主体もでてきてしまう可能性も否定できない。

(美原 融)

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