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2021-04-26

84.カジノ管理委員会規則:④廉潔性の確認と認証(融資金融機関の社会的信用?)

IR整備法第94条3号はカジノ事業者が行う業務の資金調達に係る契約を認可の対象とし、かつその関連規定は、融資行為の契約当事者が十分な社会的信用があることを要求している。
企業にとっての金融機関との取引は日常的には様々なものがあるが、当初のIRの施設整備に係る融資契約は、事業を実現するための施設整備資金の調達であり、巨額の金額になると共に、かなりの数の商業銀行による協調融資となる事が想定されている。
融資の条件・使途等は明確に予め定められており、金融機関がカジノ事業者との取引を通じて何等かの不当な利益を得るわけでもなく、かつ通常の運営行為においてカジノ行為やカジノ事業に支配的な影響力を行使するわけでもない。
このカジノ事業者に融資する金融機関は、契約の重要性と対象金額の大きさにより、制度の表面的な解釈によると、契約は認証の対象、かつその組織・役員は十分な社会的信用があることを確認するため、質問票・同意書の提出が要求され、カジノ管理委員会の背面調査の対象になりうるとされている。

果たしてこれは合理的な判断といえるだろうか。

  • 金融機関は、銀行法という業法によりその行為が厳格に規制当局の対象になる認可業でもある。
    かつその全てが上場企業でもあり、常識的には社会的信用があると想定され、その清廉潔癖性が問われるということはまずありえない。
    借り手(認定設置運営事業者)が厳格な背面調査の対象になる以上、資金の貸し借りにおかしな関係が生じうることも考えられにくい。
    金融機関にとり融資契約の目的は一定の条件で資金を貸付け、金利と共に返済させることにあり、貸付実行後は、着実な返済を期することのみがその主業務になる。
    米国等ではカジノ企業に融資する金融機関に対しては、その機能が限定されていることより、規制当局が廉潔性審査や背面調査等の権利を放棄しているのが実態である。
  • 実際の融資行為は、融資銀行団を組成することになり、40~50の内外金融機関が連なることになる。
    これらすべての参加金融機関、その役員全員を十分な社会的信用を保持しているか否かの審査の対象にするのであろうか。
    実務面で膨大な時間と作業量が必要になる。
    これでは融資行為自体の制約要因になりかねない。
    尚、融資契約が継続している期間に亘り、役員等の背面調査を定期的に実施する場合、数年単位で数百名以上が交替するため、一体何のためにかかる無駄な行為をするのか理解できなくなる。
    質問票の提出は不要と判断するか、あるいは法人としての質問票・同意書を要求するに留め、役員個人の質問票・同意書は不要とすべきであろう。
  • 融資銀行が債権流動化の手段として貸出債権に係る権利義務を移転させずに原貸出債権の利益と経済的リスクを移転させる仕組み(ローンパーテイシぺ―ション)を志向する場合、法人並びにその役員いずれも、社会的信用があるか否かを確認する必要はないと思われる。
    カジノ事業者と直接的な権利義務関係を構成しているわけでもなく、影響力も行使できえないからである。
  • 認定設置運営事業者が公募、私募等の手法により直接金融市場で債券を発行し、資金調達をする場合、債券には市場流動性があるため、不特定多数の(対象を特定できえない)債券保持者が債権者となりうる。
    同様に、カジノ事業者が株式公開(IPO)により、資金調達を実施したとすれば、群小の不特定多数の株主が存在してしまう。
    さすがにこの場合には、全体の債券や株式の一定率以上の債券や株式を保持しようとする主体を廉潔性確認・背面調査の対象とし、それ以外は対象としないとしなければ、恐らく実務的な解決策はない。
    カジノ事業者に対し、影響力を行使できる立場にはない以上、個別の群小の債権者や株主の廉潔性を問うた所で、殆ど意味のない行為になる。
    もっとも例え一株や少額の債券でも反社勢力がこれを保持した場合、何が起こるか解らないリスクもないわけではなく、この場合反社勢力であることが判明した時点で、発行体による強制買取ができる制限的な債券や株式を発行すべきという意見もある。
    影響力はないにしても、その存在自体がIR事業者にとってはリスクになりかねないからである。
  • カジノ免許の交付は、申請後数年かかるともいわれており、融資契約は(免許交付を受けていない)認定設置運営事業者が締結する。
    この場合、認定設置運営事業者がカジノ免許申請前に締結する契約に関する規定はIR整備法・カジノ管理委員会規則には特段存在しない。
    一方、免許申請書類中に過去に締結した債務の明細という項目があり、これに記載すれば済むのであろう。
    勿論融資契約は、免許取得後も一定期間継続するため、カジノ管理委員会がその契約の写しを求め、内容を確認することはありうるかもしれないが、事後認可の対象にすることはおかしいのではないかと思える。
    社会的信用も支配的な影響力も問題となる側面は限りなく少ないからである。

対象主体が銀行法上の銀行、あるいは同等の他の業法による規制の対象である場合、相応の社会的信用性を保持していることが当該業の認可を得ている条件である場合等は(諸外国でも実践されているように)カジノ管理機関が特例的にこれらに対する社会的信用の確認審査することを免除し、審査の対象外にするという考え方がより合理的ではないと思える。
あるいは法人としての審査は実施しても、役員迄質問票を提出させ、審査する必要はないのではないか。
何を何処まで審査・背面調査の対象にするかは、カジノ行為、カジノ事業者との関係性、関連する利害関係者との契約の枠組みの内容次第で判断すべきで、全てを同じ判断基準で判断すべきではない。
その負担より潜在的な参加者を抑止してしまう可能性があるからである。

(美原 融)

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