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2021-04-21

83.カジノ管理委員会規則案:③廉潔性の確認と認証(範囲と判断基準)

IR整備法はカジノ事業者が行う業務に係る契約に関し、法が定める一定の条件に抵触する場合、当該契約を認証ないしは届け出の対象とすることを規定する。
これと共に、当該契約主体に十分な社会的信用があることをカジノ管理委員会が確認することを求めている(整備法第6章)。
勿論少額・短期間の場合(3億円、1年以内)には対象外になることもある。
この目的は契約の内容がカジノ行為の安全性を脅かすものではないこと、当該契約主体がカジノ行為・カジノ業に否定的な影響を及ぼさない社会的信用を保持していること、暴力団組織や反社勢力と一切関係が無い者であること等を確認することにあるとされている。
要は、カジノ行為やカジノ業に犯罪組織が関与することを遮断すること、カジノが生み出す収益の一銭たりとも反社勢力の手に入ることを一切拒否する仕組みを作るということが制度の背景にある。
この原則は民営賭博制度の場合には、勿論貫徹すべき基本でもある。
このために、IR整備法はカジノ管理委員会に対し、(実質的に)無制限に自らの判断で審査の対象範囲を拡大することを認めている。
但し、カジノ事業者の全ての契約、全ての関連主体の廉潔性を審査することは作業量と費用が嵩むだけで、必ずしも意味のある行為ではない。
確かに契約当事者が怪しげな主体である場合、その適切性が疑問視されるような契約行為である場合には徹底的な審査と調査をすることが理に適っている。
一方、例え制度上は審査の対象であっても、相手が大手上場企業である場合等社会的に相応の信用があると合理的に想定される主体の場合には、疑わしい主体と同じ判断基準で詳細な調査をし、審査する必要もない。

IR整備法第94条は、上記契約の対象相手に関しては、法人としての当該企業、役員、契約締結権限を有する使用人、出資・融資・取引その他の関係を通じて相手方の事業活動に支配的な影響力を有する者等が「社会的信用を有する者であること」を求めている。
これを確認するために、カジノ管理委員会規則(案)は、法人の場合は8号書式(質問票)と9号書式(同意書)、自然人(個人)の場合は10号書式(質問票)と11号書式(同意書)の提出を要求できると規定している。
「できる」であって、必ず「する」と言っているわけではない。
内、8号書式は法人の廉潔性審査のための情報開示書式で外形的な情報要求に留まっている。
この対応は企業としては左程難しくない。
一方10号書式は、個人のネットワース(資産・負債等正味財産)を含む過去現在の個人情報開示書式になり、もしこれが法人の役員、使用人等に要求されることになった場合、どのレベル迄これが要求されるのかにもよるが、かなりの負担になりかねないと共に、企業や個人から様々な反発が生じかねない側面がある(カジノ免許申請の当事者にこれら質問票が要求されるのは当然だが、カジノ事業者との契約の相手方に何を何処まで求めるかは微妙だ)。
問題はどういう状況の時に、組織のどのレベル迄質問票の対象になるのかが必ずしも明確ではないことにある。
契約の内容にもよるが、上場企業との契約である場合、当該主体の社会的信用性は企業のみを対象とすれば事足りるという側面もあり、役員や権限のある使用人迄審査の対象にする必要があるのかということになる。
事実規則案を見ると、法人のみが対象と読めないこともない部分がある。
また「出資・融資・取引その他の関係」は企業の全ての活動を網羅しかねない広い定義になるが、「相手方の事業活動に支配的な影響力を有する」という定義は「支配的な影響力」をどう解釈するかにより、極めて恣意的な判断を許容しかねない考え方になってしまう。
競争的な環境にある市場において、「支配的な影響力」を行使できる契約的立場とは殆どありえないか、極めて限定的な事象でしかないはずだ。

当該法人(企業)ないしは自然人(個人)が、カジノ事業者とカジノ行為に対し、どの程度の影響力を行使できる立場にあるかは契約の内容や、当該事業者とカジノ事業者との関係の濃淡・距離感によっても大きく異なってくる。
カジノ行為やカジノ事業者との直接的関係が薄ければ当該主体は何らの影響力も行使できず、かつ契約を締結すること自体は何らの影響も及ぼさないと考えられるからである。
規制機関となるカジノ管理委員会も、このために潤沢なマンパワーを自由に使える程、甘い組織ではあるまい。
よって本来対象となるべき人・組織に対し、潜在的リスクを評価しながら、審査の必要性と判断基準・内容のレベルを対象ごとに変え、不必要な調査は避けることが本来あるべき姿であろう。
もっとも論理としては理解しても、その判断基準は規制機関として開示すべきものではないとする意見が国にはある模様だ。
確かに、制度上は厳格な制度としつつ、判断基準を開示せずに、内部的に判断基準を変え、少ない人員で効率的に審査・調査することは規制機関にとってはメリットがある。
判断基準を開示せず、対象を広く捉えれば、誰もが同等に慎重になると共に、問題を抱えた主体は参加できにくくなるという無言の抑止力が加わるからである。
現状を俯瞰すると、どうやらかかる考えが国の指針となっているようにも思える。
勿論これは民間主体の側からみれば、余計な労力、費用、負担を強いることに繋がり、負担が重い、参入障壁に繋がる仕組みになってしまう。
調査・審査の対象となるべき主体の判断基準は、大枠の規定はあるが、詳細ではない。
規制機関としては広く、大きく対象を捉え、恣意的に判断したいということなのであろうが、透明性に欠けることは間違いない。

業に参加する全ての主体に社会的信用や廉潔性を求めることにより、業自体を悪や犯罪から隔離することができるとする考えは論理的には正しい。
但し、不要なレベルまで範囲や深さを広げることは、社会的コストを増やすだけに繋がりかねない。
パブコメに付されたカジノ管理委員会の規則案では、何を何処までやろうとしているのかの意図を探ることはできない。
今後ともより明確な説明を求める議論が必要な項目になったともいえる。

(美原 融)

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