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2021-04-19

82.カジノ管理委員会規則案:②廉潔性確認と認証(質問票と背面調査)

IR整備法はカジノ業を行う前提として認定設置運営事業者に対し、カジノ事業免許取得を義務づけている。
その免許申請行為の一つの要件として法人(認定設置運営事業者)及びその構成員(役員、主要株主等個人、法人等)が社会的信用を有する者であることを要求する。
これら構成員は米国の様に個別に免許が要求されるわけではないが、事業免許審査の一環として個人・法人いずれもが質問票・同意書を記入し提出することが申請行為の条件となっている。
カジノ業務に従事する職員に関しても別途その廉潔性・社会的信用を審査し、確認する手順が設けられているが(第144条~122条)、上記と全く同じで(免許ではないが)、その適格性をカジノ事業者経由カジノ管理委員会が審査し、確認するという手順になる。
免許申請段階では職員数は限られるため、これは免許取得後必要に応じ、段階的に申請・確認という手順を踏むのだろう。
その他「出資、融資、取引、その他の関係を通じて申請者の事業活動に支配的影響力を有する者(法人ないしは個人)」に対しても、同様の質問票・同意書を要求できるとしている。
カジノ供用事業者、施設土地権利者はカジノ事業者と同様の手順が要求され、カジノ関連機器等製造業等も同様の質問票・同意書の対象になる。
この内、解かり難いのは「出資、融資、取引その他の関係を通じ、カジノ事業者の事業活動に支配的影響力を有する者」の対象範囲になる。
出資、融資、取引の範囲は広い。
一方何をもって支配的影響力を有するといえるのか、その判断基準の記載はない。
規則案を見ると、文章上は企業のみを対象とし、その個別の構成員たる役員迄質問票を要求しているようには解釈できない。
もっともカジノ管理委員会はあらゆる主体を詳細な審査の対象とできる権限を持っており、特段規定せずとも、必要に応じ何処までも質問票の提出を要求できるということなのであろう。
カジノ事業に係りうる利害関係者を網羅的にチェックの対象とする理由は、これを担う主体(組織・個人)が過去・現在共に犯罪や組織暴力団・反社会勢力との関係が無いことを確認することにより、カジノ行為やカジノ事業の健全性・安全性・廉潔性を担保できると考えられるからである。
反社勢力を企業の活動から排除する試みは、既に民間レベルでは自主的に実践されているが、個別の法律上の規定に基づき、国の機関となる規制機関がこれを、事業免許付与の条件、事業に関与する条件として実践するケースは我が国では極めて異例な事象になる。

具体的な手順としては、申請時点で質問表・同意書と呼ばれる書式が法人・個人の適用対象毎に定義されており、これを申請者が記入・提出し、この申請内容に偽りが無いかという観点からカジノ管理委員会が公安警察当局等と連携・調査・分析し、当該主体を審査することになる。
これを背面調査(background investigation)という。
行政機関による個人の背面調査は、例えば税務調査等従来からないことはないのだが、がカジノ関連背面調査の特色はその対象となる範囲の広さ、内容の深さにあり、これが過去に例のない程幅広く、かつ深い内容になる点にある。
悪いことはしていなくとも、行政機関が個人の過去・現在を調査することは気持ちの良いものではない。
IR整備法はカジノ管理委員会の恣意的な判断により、背面調査の範囲、程度、深さを取り決めることができる立て付けとなっている。
カジノ管理委員会の規則(案)パブコメにより、この質問票の内容は開示されたが、要求される利害関係者の範囲や調査・審査の程度、深さに関しては必ずしも触れられておらず、今後の議論の対象になる模様だ。
何等かの形でカジノ事業者と関係を保持しうる利害関係者の中にはこの不確実性を不安視する意見が強い。

では一体何をどう調査調査するのであろうか。
公開された質問票は先進諸外国における標準とされている国際ゲーミング規制者協会が作成したMultijurisdictional Personal Information Disclosure Form(個人情報開示書式)と比較し、質問の対象・内容が極めて当該申請主体に限定され、外形的要件が主体であることがその特徴の様だ。
個人情報保護の壁があるのであろうが、諸外国のように過去に遡り詳細な情報を要求していない。
勿論カジノ管理委員会は必要と判断した場合、あらゆる追加情報を要求できる立場にあり、申請者はこれを拒否できない。
但し、当初の認可や確認に必要とされる質問票の中身は国際標準から見ると、ハードルは若干低い。
もっともこの質問票をもってカジノ管理委員会は何をどこまで当該主体の調査・審査をするのか、あるいはできるのであろうか。
質問票の中身が詳細でなければ、外形的な要件以外は、実態を検証できないからである。
あるいは外形的要件を満たす申請者に対しては、詳細な調査・審査を省略し、問題となりうる事実を特定化できた主体のみを詳細な調査・審査の対象とするのであろうか。

IR整備法に規定されたこれら審査・背面調査の目的は、申請主体が「十分な社会的信用」を保持していることを確認することにある。
法令上のキーワードとして、この言葉はIR整備法上も何度も現れるのだが、社会的信用と言われても極めて概念的な言葉であり、解かり難い。
パブコメに付された資料の中に、この判断基準として、①業務を的確に遂行できる能力があること、②暴力団と関係が無い者であること、③法令遵守・社会生活・経済的状況等の過去の経歴・活動よりして不正・不誠実な行為を行う恐れが無いと認められる者であること等が列挙されている。
米国等では単純に、「良い性格(good character)、正直さ(honesty)、清廉潔癖性(Integrity)」を確認できた主体のみが、カジノ業に参加できる特権を享受できるとし、これを精査するために詳細な質問表による個人情報開示を要求するという立て付けになっている。
勿論米国においても、何をもって社会的名声・信用があるを判断し、清廉潔癖性をどう客観的に評価できるのかという議論は今でもある。
主観的、恣意的な判断が入りやすい概念でもあるからだ。
我が国においても、カジノ管理委員会の考え・行動次第では、同様な議論が生じる素地はある。

(美原 融)

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