National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 92.カジノ管理委員会規則案:⑫特定金融業務:貸付可能となる預託下限1000万円

2021-05-24

92.カジノ管理委員会規則案:⑫特定金融業務:貸付可能となる預託下限1000万円

IR整備法第85条(特定資金貸付業務の規制)はカジノ管理委員会が定める一定の額の資金をカジノ事業者に預託をした顧客に対し、カジノ事業者が貸付をすることを認めている。
この貸付の本来の目的は高額賭け金顧客(VIP)の利便性を図るための措置になり、この預託金を提供する信頼おける顧客のみに一定金額を当該顧客に貸し付けることになる。
勿論この貸付は無金利、無担保、あくまでも短期的な資金の融通であり、予め契約行為において詳細条件を取り決め、カジノを訪問した時点で資金の貸し出しを実行し、退出するとき、あるいは後刻別途貸し借りを清算するという前提になる。
かかるオペレーションが必要となるのは、金持ちは高額の現金を持ち歩きカジノに来ること等ありえないからだ。
諸外国ではVIP対応の措置として通常の慣行なのだが、わが国では特定金融業務としてちょっと複雑な規制の対象になり、供託金や報告義務等諸外国にはない様々な義務が事業者に課される仕組みになっている。
どうしても誤解を受けやすいのは、この特定資金貸付制度は一般大衆には関係無く、高額賭け金のVIPのみを対象とすることにある。
遊ぶ金の無い顧客に無理やり資金を貸付け、賭けを煽って個人を破綻させる仕組みではない。
そのために一定額の預託金提供を貸付の条件とし、一般顧客は対象とならないように、相当高いレベルにこれが設定されるべきということが法の趣旨でもあった。

規則案第78条は、この前提となる預託金の最低額を一千万円と規定している。
VIPとしての待遇の前提条件みたいなもので、諸外国と類似的、ま、こんなもんかと思ったのだが、意外なことに、カジノ賛成派とカジノ反対派の双方が異なった角度から反対の意見を表明していることを目にした。
いずれもどうも規則の本質と実体を正確に理解していない模様なのだ。
両者の意見を見てみよう。

カジノ賛成派の一部の人の意見の中に、何とこの一千万円の預託金のレベルを引き下げ、VIPのみならず、Premier Massレベルの顧客が貸付の対象になるようにすべきという意見があった。
Premier MassとはVIPと一般顧客(Mass)との中間に位置する顧客層でもあり、言わんとする所は、預託金のレベルを半額以下に引き下げろということなのだろう。
確かに、貸付を要望する対象顧客層は増えるだろうが、これは無金利、無担保のリスクの高い貸付だ。
賭け事の借金等例え金持ちでも返済等したくないもので、事実返済不能として処理せざるを得ない確率も極めて高い貸付になる。
だからこそ、対象を絞り、しっかりと顧客への与信可能性を調査し、確実に返済できる資力があることを確認し、返せる範囲内で初めて貸付を認めることになる。
かつ日本の制度では供託金や規制当局への報告事項等複雑な業務手順が必要だ。
甘い判断基準で貸付対象顧客層を増やすことを考えているとしたならば、企業として大きなリスクを無防備で抱えることになる。
無担保無金利でかつコストが高くなる貸付は、与信力の高い、限られた主体にのみ認めるということが本来のビジネスの鉄則であるべきだ。
通常の一般顧客を対象とするものではない。
尚米国ではMassに対しても貸付行為は一般化しているが、これは顧客の銀行勘定を調べ、残額が確実にあることを確認の上、かつ貸付実行の際は小切手と同様の価値があるマーカーを顧客にサインさせるため、単純な担保貸付にすぎず、一定期間内に支払いが無い場合には小切手として回収に回すため、確実な返済を期待できる。
日本が置かれている環境とは似ても似つかぬことを理解する必要がある。

一方反対派の意見だが、ピントがずれていることは類似的だ。
高額の預託金に加え更に貸付する等過剰なギャンブル利用を誘発する。
預託金を高くすれば、賭博消費という弊害を増やすだけ、低くしても、資金の無い主体に資金を貸付け、過大なギャンブル利用と課題な借金が増えるだけ。
よって、そもそも貸付け等廃止すべきという論拠になる。
ピントのずれはここでもVIP顧客と通常の顧客(Mass)を一緒くたにしてしまっていることだろう。
貸付金を返済できえない一般顧客に賭博の為の資金を貸し付けること等まともな企業はしない。
貸し倒れになることは確実だからだ。
特定金融業務における貸付はサラ金の貸付とは異なる。
貸金業法のように年収の1/3、あるいは貸付金迄等貸付金に上限を設けるべきとする議論は、借金は返済負担ができるレベルに留めるべきということなのだが、これは金持ちには当てはまらないだろう。
彼らの場合の許容負担レベルは一般人とは大きく異なる。
貸付金がVIPにとり確実に返済可能な範囲であることは、貸付の根本原則でもある。
野放図にVIPに資金を貸付け、彼らを限りなく破産や多重債務者に追い込む事等ありえないし、おこるわけがない。
VIPにとりこれは負担許容範囲での遊興、カジノ事業者にしてみても顧客にとってAffordableな負担で遊んでもらうことが全ての前提なのだ。

日本的な平等の発想に立った場合、そもそも金持ち(VIP)と普通の庶民(Mass)とを分けて考える制度的仕組みは馴染みにくいのかもしれない。
だからこそ様々な誤解や混乱が生じるのであろう。
IR整備法並びにカジノ管理委員会規則案で明らかになった特定金融業務はその手順や様々な関連義務等を考慮しても、事業者にとり決して単純な業務ではなく、リスクも大きいことを理解すべきだ。
VIP、高額賭け金となると、どうしてもカジノ関連行為の手順、規制と監視・監督は各段に厳格になる。
もっとも一般顧客(Mass)の場合と比し、透明性が高まるというメリットも生まれ、悪いことばかりではない。
大きな枠組みと方向性はこの規則案で明らかになったが、この議論はまだ入り口だ。
実践の仕組みは今後より詳細の内容を詰めないとこの規則案だけでは動けない。
考慮すべき細かい側面はまだある。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top