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2021-05-19

91.カジノ管理委員会規則案:⑪10号書式と11号書式、どう対応する?

カジノ業の免許を取得する企業やその認定主要株主等の役員にとり、10号書式と呼ばれる個人情報開示報告書の作成・提出は大きな悩みの種になりそうだ。
役員といっても単純に担当役員だけではなく、企業全体の役員となり、その定義はかなり広い。
整備法第二十三条第2項はこれを「業務を執行する社員、取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは監査人、代表者又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人等に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは監査人、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む」と定義している。
こうなると社外取締役、社外監査役も対象だ。
また実質支配力基準で判断することになると、人事に影響力を行使できうる名誉会長や元実力派顧問すらもその対象になりかねない。
役員ではない、対象ではないと叫んだ所で、カジノ管理委員会が一方的に必要と判断した場合には、確実に対象にされてしまう。
11号書式は一種の白紙委任状みたいなもので第三者(例えば口座のある金融機関)から委員会が個人情報を徴求することの許諾、追加的なあらゆる情報を提供することの確約になる。
これは怪しいと疑われれば丸裸になるまで徹底的に調査されかねないことを意味する。
勿論そんなことは通常上場企業の役員の場合ありえないのだが、本人もしくはその家族が欠格となりうる事情を過去現在抱える御仁はかかる企業の役員にはならない方が無難ということに尽きる。

ところでこの10号様式だが実際書式を準備しようとすると、様々な問題や課題に直面しそうだ。
問題は何処にあるのか?

  • ✓ 提供が要求される個人情報の範囲はかなり広範囲、かつ詳細に亘る。
    例えばネットワース申告は、銀行口座残高、土地家屋株式等資産保持状況、負債状況を含めあらゆる個人の資産状況の申告が必要となるが、本人のみではなくその家族(妻、子供)までもその対象とする。
    妻・子どもは「別人格」とはいかないわけで、生計を一にする家族の資産状況を全て報告せざるを得なくなる。
    本人ならまだしも、家族迄となると当然嫌がる主体もでてきそうだ。
    社外取締役や社外監査人にも要求されるとなると、人選にも留意が必要になる。
    選任に関しては、予めかかる要求がありうることの了解が必要になろう。
    これでは断る人も多く、なり手がいなくなるかもしれない。
  • ✓ 個人情報開示報告の目的は関係する役員の社会的信用度を調査・審査することにあるのだが、申請者の過去現在の資産状況の詳細を調べてみたところで一体何が解かるのであろうか。
    情報として取得するのはあくまでも外形的事実にしかすぎず、その理由・背景等はまず解らない。
    相応の資産を保持していても、相続かもしれないし、本人の才覚による蓄財かもしれない。
    暴力団や反社との関係を個人の財務状況から判断できるわけがない。
    しっかりと納税し、特段の違法行為等が無い上場企業の役員ならば、外形上の要件としては、相応の社会的信用度があると判断すべきであろう。
  • ✓ 本当に全ての関連する法人の役員にかかる書式が必要なのだろうか。
    カジノ免許事業者の役員がかかる対象になるのは当然だが、認定主要株主等実際の事業には間接的にしか関与しえない法人の役員の全てを対象にするというのも解かり難い所だ。
    所掌担当役員のみが対象になるというのならばまだ解かる。
    但し、殆ど案件には直接タッチせず、役員会の構成員であるという事実のみで、調査の対象になるというのは、合点がいかないかもしれない。
    関係性が薄くなればなるほど、当該企業の役員にとって、殆ど関わりが無いにも拘らず、不当に負担が大きすぎるからである。
  • ✓ 情報を取得し、申告するのは基本的には対象となる役員個人となるのであろうが、家族を含む機微なる個人情報を含むため、秘書に委ねることも憚られる。
    企業として全役員の書式を纏めるにしても、恐らく守秘義務の堅い社外弁護士に企業としての全体事務を纏めさせ、代理提出等の手段をふまない限り、個人情報の遺漏が生じかねない。
    もし認定主要株主が上場企業である場合、役員数は数十名に達する可能性もあり、一括して弁護士に事務を代行させるにしても、時間と金がかかることは間違いなく、悩ましい。
  • ✓ 規則案は社外取締役を含め役員を選任する前にカジノ管理委員会に申請し、事前同意を取得することが必要であるように読める。
    もしこれが事実であるとすれば、企業の行動はかなり大きな影響を受ける。
    認可にどの位の時間がかかるのかがはっきりわからない儘、役員選任手続きを進めるわけにもいかなくなってしまうからだ。
    本来あるべき手順とは米国等で実践されているように、事前申請・認可ではなく、(カジノ管理委員会による認証を得られることを前提に)企業が(あくまでも条件付で)役員を選任し、選任後カジノ管理委員会に事後認可手続きとして10号書式を提出する様にすべきだ。
    もし、カジノ管理委員会が当該役員につき問題有りと判断した場合、その段階で当該役員を解任し、代替的役員を選任するという手順の方が企業にとってはより合理的になる。
    企業としても当該役員の調査を独自に実施し、後刻問題が起こらないように慎重な人選をすることになるだろうし、余程の事情が無い限り問題となるようなケースはまず起こりえないと考えられるからである。
    問題が生じてもこれなら治癒もやりやすい。

利害関係者の背面調査を徹底的に実施することで、組織悪をカジノ業から駆逐するという考えは米国の70年~80年代マフィア放逐との闘いの中で経験的に生まれた手法でもある。
これが功を奏したことは歴史が証明しているが、現代社会では大きく環境も異なり、かつ国毎に状況も異なる。
我が国の状況は米国とは異なる文化・歴史・社会的背景の下にある。
この意味では外国の単純な模倣ではなく、日本の現実によりフィットした社会的信用度の検証アプローチや手法が模索されてもよいのかもしれない。
必要なものは必要なのだが、簡素化できるものは簡素化し、不要なものは省く等の配慮も必要だろう。

(美原 融)

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