National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 90.カジノ管理委員会規則案:⑩依存の防止のための措置

2021-05-17

90.カジノ管理委員会規則案:⑩依存の防止のための措置

法第六十八条1項一はカジノ行為に対する依存を防止するため「入場者又はその家族その他の関係者の申し出により当該入場者のカジノ施設の利用を制限する措置」を講じることを事業者に義務づけている。
入場者の申し出による施設利用制限は「自己排除」(Self- Exclusion)と呼ばれ、家族等の申し出による施設利用制限は「家族排除」(Family Exclusion)とも呼ばれる。
本人の申し出による自己排除の仕組みは欧米諸国ではかなり昔から事業者による慣行としてなされてきたという経緯がある。
自己排除の仕組みは典型的な任意の仕組みになり、自ら依存症を自覚し、何とか賭博行為を抑制したいと相談してくる顧客を対象とし、本人の同意を得て一定期間カジノ施設への立ち入りを禁止する措置を事業者が実践する考えでもある。
任意を前提とした仕組みである以上、その効果を疑問視する意見もあるが、様々な調査研究もこの間なされており、それなりの抑止効果があるという結果もある。
一方、最近の制度事例ではこれに加えて家族からの申請を認める家族排除という概念が豪州、シンガポール、一部の米州等で制度化されたり、実践されたりしつつある。
自己排除と異なるのは、本人ではなく、本人が依存症に陥っており迷惑や被害を受けている家族からの申請によることで、(本人が説得により排除に同意すれば問題ないが)本人が必ずしも納得していない場合にも、強制的に入場禁止措置をするという仕組みになる。
家族排除を制度的に措置したのはシンガポール等があるが、依存症専門家を交えた本人との対話を通じ、規制当局(CRA)の判断と権限で強制排除ができる仕組みとなっている。
欧米では例え家族による排除申請でも、排除は私権の制限に繋がる以上あくまでも本人同意が必要で強制的にこれを実施することは難しい。
よって家族排除は仕組みとしては必ずしも実効性が担保されたものとはなっていない。
一方シンガポールでは生計を共にする家族の被害をより重要視する考えを取り、本人と医師を含む規制機関との面談を経ての話になるが、強制的排除や入場回数制限を規制機関の責任と判断で行うことが規則として明文化されており、実行性を確保した仕組みとなっている。

我が国の規則案四十四条第1項は自己排除申請、家族排除申請の場合の各々に必要であると(カジノ事業者が)認める場合には入場禁止措置あるいは入場回数制限を措置するとある。
必要であると認めるのはカジノ事業者であり、カジノ事業者判断で強制排除を決めることになる。
本人の申請による自己排除の場合は、面談でその意思を確認し、書面で確認を取ればことたりるので単純、簡単で何ら問題もない。
一方家族排除申請の場合には問題は複雑だ。
本人の意思を確認するために、家族と共に呼び出し、専門家とも面談させ、その意見を踏まえて判断することになるのであろうが、本人が最初から面談を拒否したり、面談しても回数制限や入場禁止措置を拒否したりするケースもあるからである。
この場合、カジノ事業者の判断で一方的に強制排除をすることは法的に可能だろうか。
米国ならば当該主体からカジノ事業者が訴えられるかもしれないが、ここは日本だ。
但し、排除に際し、本人同意も得ずに個人情報を利用した等と言われるかもしれない。
本人が同意しない場合、要注意人物として把握はできるが、確実に排除するのは難しいかもしれない。
もっともこの事実は記録としてカジノ管理委員会に報告されることになるのだが、この情報をもって将来カジノ管理委員会が何かをできるわけでもない。
統計資料を増やすだけだろう。
考えられるのもう一つの対策は利用約款にカジノ事業者が専門家の意見を得て顧客がカジノ行為を継続することの危険性を指摘した場合、当該顧客の入場回数を制限したり、入場禁止を措置をしたりすることがあることを明示的に規定し、施設を利用することの前提として顧客の理解を得ておくことだ。
利用約款に抵触ということで入場を拒否する前提を作っておけば事業者にとっての法的責任は免れるかもしれない。
規則案はこの点何も記載しておらず、民の工夫で適切に処理しろということなのだろう。
とにかく規制機関が関与する問題ではないとする立ち位置とみられるが、組織の中に部署も構えている以上、果たしてこれが責任ある国の機関の対応といえるかに関しては懸念も残る。
規則案第2項はこの措置を的確に実施するために、①従業者の教育訓練の実施、②(統括管理者、監査人の選任を含む)体制の整備、③評価の実施を求めている。
現場での対応は全てカジノ事業者が仕切り、管理せよということだ。
これはこれで割り切ってしまえばいいのかもしれない。
実務的には都道府県等や地域医療関係専門家を含めた支援主体がカジノ事業者と協働することはありうるのかもしれないが、制度的な根拠はない。
カジノ管理委員会がこの問題には積極的に関与したくないという背景・理由は解らないでもないが、これだけの仕組みの構築に積極的に関与しながら、責任を問われそうなところは忌避するという態度が見え隠れするのは果たして適切といえるのかどうか。

一方興味深いのは、日本の制度事情は欧米諸国と大きく異なることにある。
本人同意が得られれば、依存症自己排除も家族排除もかつ回数制限も恐らく100%確実に実現できるのだ。
MNCによる本人確認、写真を含む生体認証データにより入場時点で、対象者を100%確実に捕捉し、排除することが可能になる。
一端本人が同意し、入場禁止の体制が取れれば確実に問題は収束する。
もっとも3つできるかもしれない各地域の事業者が個人情報の共有につき連携協力することが前提になる。
一般論としての施設間による連携協力はあるが、個人情報のやりとりとなると話は別だ。
この点に関しても本人の同意が予め必要になり、ハードルは高いかもしれない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top