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2021-04-14

81.カジノ管理委員会規則案:①チップ場外持ち出し規制(第103条)

IR整備法第104条は顧客による(カジノ場外への)チップ持ち出しを禁止し、事業者にこの監督監視義務を委ねている。
公表された規則(案)第103条はチップを持ち出そうとする顧客を発見するため、事業者は「巡回及び監視カメラによる監視を行うこと」、「退場時に顧客に持ち出しの有無につき申告させること」、「先端的技術の開発の状況を踏まえつつ、その導入に努めなければならない」とある。
退場時の顧客のポケットにチップがあるか否かを巡回や監視カメラでチェックできるはずがない。
テーブルを離れる顧客は全員がチップをポケットに入れ、場内を徘徊するのだ。
一体何処で何を監視しろというのだろうか。
退場時にはMNCによる退出時間のチェックがあるが、この時点で係員がチップ持ち出しの有無の確認をしても申告である以上、顧客が嘘をついた場合、カジノ事業者にこれを検証する術はない。
電子的チップを採用し、物理的なチップの持ち歩きを無くせば、確かに「チップを持つ」行為そのものが無くなるが、今の制度の在り方自体を一部変える必要もありそうだ。
チップの場外持ち出しを禁止しても、少額チップの場外持ち出し自体を禁止することは極度に難しい。
一端外にでる用事があり、再度戻ってくる場合、あるいは昼食をとりに外にいき、再度戻ってくる場合等一定のチップをポケットに入れたまま外にでて、また戻ってくるということはどんな人でもありうる行動で、少額チップをわざわざ換金したり、預託したりすることは嫌がられるからだ。
ましてや退場時点でうっかり保持していた少額チップをケージに戻り換金してこいと言われれば係争になりかねない。

法はカジノ場外への持ち出しを禁止しているだけであり、他の方法によっても対応できるではないかという意見をカジノ管理委員会は持っているようだ。
クロークでモノを預かるようにカジノ施設側がかかる顧客に便宜を図り、チップの一時預かりの様な仕組みを考えれば事足りると考えている。
確かにIR整備法はかかる可能性を否定しているわけではなく、これは実現できる。
但し、実行性のある仕組みとなるか否かははなはだ疑問だ。
電子式スロットマシーンの場合には、換金バウチャーをプリントさせれば、これはチップではないため(おかしな話だが)持ち出せるし、譲渡もできる。
そもそも紙であるため、保持しているか否かもチェックできない。
一方、テーブルではこうはいかない。
VIPルームには高額賭け金顧客のために顧客勘定やチップ預かり等の様々な仕組みが存在し、ここで高額チップをカジノ側が預かるということは合理的な仕組みともいえる。
一方マス(一般)顧客向けの場合、顧客のほとんどがチップをある程度保持したまま、施設内に滞留することが多く、これを使い切る顧客もいるだろうが、途中でやめて帰る顧客もいる。
チップを持ち出せない場合、これを現金交換するとなると、ケージ(キャッシャー)しか交換行為は認められないため、ケージに並ばざるを得ないことになりかねない。
ケージは場所が限られ、最初にきて現金をチップに換える顧客や、勝ち分のチップを現金に換える顧客等で列をなすことが多い。
チップを持ち出せないならば、換金するか、預けるかだが、外にでる全ての顧客のチップを預かる行為をもしケージで実施する場合、おそらく長い列が恒常的にできそうで、顧客に忌避されるに違いない。
カジノ側がチップを預かるにしても、預かり証はどうするのだろうか。
高額の場合、本人確認の上、個人名とリンクさせなければ、それこそマネーロンダリングのツールを提供することになりかねない。
例え短期間でも、チップではないが、チップに代替しうる証書を発行することになる。
あるいは、膨大な数の小さなコインロッカー等で預かることを想定しているのであろうか。
この場合、もちだせるのは鍵だけだが、鍵を外部で第三者に渡せば、マネーロンダリングのツールを提供しかねないため、これも個人と紐付ける仕組みを考えなければ使えない。
顧客のロイヤルテイ―カードに記録させるという手法もあるが、これはこのカードに決済機能をもたせることに繋がってしまうため、別の課題を引き起こしてしまう。
少額の場合、おそらくこれをわざわざケージに出向き、そこで並び、現金化する顧客等いるわけがなく、全額消費してしまうという衝動が起きる。
何のことはない。
チップを持ち出し禁止とすることで、消費を抑制せずに、換金したチップを全額使わせることを誘因することに繋がってしまう。
いずれにせよ、カジノ施設側がチップを預かる行為は、カジノ施設と顧客との金銭を巡るトランザクションを一つ追加することを意味し、①手順・時間の両面で顧客の利便性を著しく損ねる、②カジノ施設側としても新たな管理項目と実務が増え、やり方次第では混乱を招く、③顧客の離反行為を招きかねない、④チップ預託のルールを新たに追加せざるを得なくなる等という問題が生じる。

様々な手段を講じても、退場時に顧客の身体検査をするわけにもいかず、顧客が意図的か否かを問わず、少額のチップをカジノ場外に持ち出してしまう可能性を効果的に阻止することは難しい。
法の執行は限りなく難しくなってしまう。
尚、カジノ事業者にとり最大の問題は現金チップポジションが合わなくなってしまうことにある。
カジノ施設は銀行と同様に一定時(通常は顧客が少ない夜明け前)に全てのケージ、スロットマシーン、テーブルにおける現金とチップのインベントリーを毎日チェックし、その日の売り上げ(粗収益)を確定する。
現金やチップは全てのテーブルやケージに分散しているため、全てのカジノ行為を取りやめ、ポジションをチェックするのだが、通常のカジノ施設では毎日チップの増減が確認され、必ずしも一致するとは限らない。
チップが足りなければ顧客が持ち去ったことを意味し、逆に増えてれば、過去の持ち去りチップを再度来場し、使用したということになる。
全てのWinを電子的に捕捉し、積算すれば勝ち分は解かるが、現金・チップのポジションと合わないという状況が生まれる。
デイスクレはどうしてもおきてしまうのだが、わが国ではカジノ事業者にとり制度上の違法行為が連日生じることになりかねない。
全ては事業者の監督責任の問題と単純に言い切ることができるのかに関しては大きな懸念が残る。
頭だけで形式的整合性を考えるだけでは、問題を理解できなくなる。
まず現実を直視し、実務的に動くような仕組みを考えないとどこかにヒッチが生じることになりかねない。

(美原 融)

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