National Council on Gaming Legislation
コラム

2021-04-12

80.Advocacyと政治ロビーイング

英語でAdvocacy等という言葉を使うとなんやらカッコよく見えるが、米国では政治的なロビーイングも行政内部の用語としてはAdvocacyという言葉を用いる。より一般的な定義としては政治・経済・社会の在り方や制度に対し、何等かの意思決定に影響を与えることを目的とした、民間の個人またはグループによる活動や運動を意味する。個人でもできるし、また組織としてもできる。様々な政治キャンペーンや市民団体の活動等もこの一つになる。業界団体や利益集団が行う政治的ロビー活動は、特定の立法政策や新たな施策に基づく立法の策定、法の施行の在り方等を立法府ないしは行政府に対し、直接のアプローチをとるアドボカシーの一形態とみなされている。民間事業者が個人ないしは組織として、特定の目的をもって立法府や行政府の構成員にアクセスし、陳情・ロビーイングすることは、違法ではないし、どこの国でも行われている通常のビジネス行為である。立法府や行政府からしてみれば、民間主体の陳情を通して、経済実態を把握し、市場のニーズを正確に反映し、これを政策の立案や適切な執行に反映することができる。民間主体から見れば、個人、組織、業の意向を政策や法の執行に反映することができると共に、自らも経済的利益を得ることができる新たな立法・行政施策を構築することに貢献できることになる。

日本では単なる陳情にすぎず、立法府や行政府にしてみれば、「とりあえず聞いておく」程度の効果しか期待できないことも多い。対象は外交、内政、補助金、規制緩和等多種多様だが、財政負担が必要な事案になるとどの国でも単純ではなくなる。一方、財政負担が不要な政策課題に関しては、米国等では連邦政府は意外に柔軟に対応してくれる。例えば他国との通商等に係るもめごとや政策推進に関し、米国企業としての主張を政府高官から相手国の首脳へ伝えたい場合等のAdvocacyは国務省の関連部局に要請すると、国益、公益性、重要度、緊急度等から判断し、合理的な理由があり、一定の判断基準に合致すると判断される場合には、段階的に国務省内で下から上にあがり、誰が、如何なる行動を起こすかを決める仕組みが制度化されている。勿論これに一銭もかからないことは当たり前だが、状況次第では、米国大統領、副大統領クラスを動かすことも不可能ではない(もっともロビイスト起用には金がかかる!)。小生も若いころ、パートナーたる米国企業を表に出し、米国副大統領を動かし、第三国の首班に働きかけをしたことがある。これをどうどうと書面でやり取りしながら実行するのだから、米国とは如何に透明性の高い国かと感嘆したことがある。適切なアプローチ、適切な手段により政治家を動かすことも、ビジネスの一つのツールでもあろうし、おかしなこととは言えないのだが、国によっては、あるいは手段の使い方によっては、おかしなことになることもある。

日本を知らない外国企業が初めて日本市場に来て、新たな政策を推進するための活動をしようとする場合、あるいは新たな立法施策を働きかけようとする場合、手っ取り早いのは日本において信頼おけるパートナー、あるいはエージェントをまず見つけ、彼らを通じて政治ないしは行政に対し、接触を試みたり、一定の知遇を得たりして、リレーションを形成、これを用いて何等かの影響力を行使することである。現代社会ではこれらは日常的に行われている。勿論これらは当然合法的な活動なのだが、関連する日本企業や日本企業たるエージェント企業を通じて、パーテイ券の購入、政治献金、接待や饗応等金目の話が絡んでくると、ことは微妙になる。米国企業はFCPA法(Foreign Corrupt Practice Act)との関連もあり、外国政治家や行政府役人との付き合いにはかなり慎重な行動を取り、直接カネを動かすことはまずありえない。一方アジア系の企業は、そもそも本国の規制自体が弱い環境にある場合、彼らの国の判断基準や慣行で動いてしまうこともありうる。尚、日本の企業も昔は制度的制約がそもそもなかった為、かなり自由な行動をしていたが、現在では我が国の法規制により外国公務員等に対する賄賂饗応等は禁止の対象であり、何もできなくなっている(外国公務員贈賄罪。1997年12月にパリのOECD本部において、締結された国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(外国公務員贈賄防止条約)がその背景にあり、殆どの先進国では全て禁止行為となっている。尚、条約締結国は現状33ケ国のみ)。

ところで海外カジノ事業者は、顧客誘致のためのマーケッテイングツールをかなり保持しており、販売促進費の予算も大きいため、海外にある自らの施設に顧客たる要人を招待したり、饗応・接待したりすることには慣れている。勿論政治家や政府要人が訪問する場合には慎重な対応をとり、過剰な饗応等はしないのが通例となるのだが、そうでもないケースが昨年末から本年にかけて我が国国会議員の事案として露見したということは記憶に新しい。パ―テイ券購入やセミナーの講演料等であるならば、政治資金として記載・報告すればいいだけの話になる。一方、これがプライベートジェットによる送迎となると、明らかに過剰接待・贈収賄等と指摘されかねない。遊ぶためのチップをカジノ場でもらい、これを使ったとすれば、これは限りなく贈収賄行為に近い。何処までが許容範囲で、何をすれば違法になるのかは微妙な側面を含むということなのだろう。政治家を政策的に支援し、立法政策の立案や制度構築に向けてのロビー活動をすることは本来適法な行為のはずである。但し、政治家も民間企業も、一歩踏み外すとかなり危険な領域に入ることをお互いに理解すべきなのかもしれない。官と民との対話に接触ルールを設けて、接触自体をコントロールすれば問題は無くなるということが現在の我が国の方針となるが、接触自体を回避する衝動が公的部門に強く働くことになり、中長期で見た場合、必ずしもいい方針とはいえない側面もある。より重要なのは何が違法で、何が合法なのかの判断基準を明確にさせ、これを遵守させることなのだが、対話は無ければ無い程問題は起こりえないという方向にいってしまうと、別の問題が生じることもありうる。

(美原 融)

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