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2021-03-22

74.カジノ行為:③ ジャンケットは認められるのか?

ジャンケットとはその言葉本来の意味は、カジノの顧客の誘致を図るサービス業で、マーケッテイングの一翼を担うカジノ事業者への協力行為あるいはその行為を担う主体を意味する。
例えば顧客誘致の目的でカジノ事業者が無料往復バス、無料チャーター飛行機、無料食事等を顧客に提供する意思があっても、顧客誘致を組織化し、実際に顧客を連れてきて、一定時間遊ばせなければビジネスとしてはゼロである。
この様にカジノ事業者の営業活動の外延機能として、顧客を募り、顧客に訪問させるアレンジ(宿泊や交通手段の手配)を全て担い、実際に顧客を連れてくるサービスをカジノ事業者に提供するわけである。
この報酬には、様々なパターンがある。
固定費、あるいは顧客の賭け金額の一定率、顧客の損失額の一定率等で、賭け金を良く張る優良客を多量に誘致することができれば、カジノ事業者にもジャンケットにも双方にメリットが生まれる。
このサービス自体はリスクのない単なる顧客誘致サービスにすぎないが、カジノ事業者にとっては自ら職員を雇用し、直接かかる顧客誘致をするよりも第三者に委託する方が固定費もなくなり、より効率的な業務になる事は間違いない。
本来のジャンケットとは、この様に、勘定(アカウント)責任はカジノ事業者が担うリスクのないサービスでしかない。

一方マカオで歴史的に発展してきたジャンケットも当初は米国と同様の機能やサービスを提供する個人業でもあった。
STDMの初期の時代は、香港や中国本土からカジノで遊びたがる富裕層を見つけ、個人的にかかる顧客をカジノ施設に連れてくることによりフィーをもらい受ける群小の代理人が生まれた。
この旧来存在したジャンケットはSTDMのVIP富裕層は現金をもって出国できない。
そこで仲介者としてのジャンケットがリスクをとり、顧客に資金を貸付ける前提でマカオに誘致、遊ばせ、後刻中国国内にてこの貸付金を回収するというビジネスが成立した。
カジノ事業者からしてみれば、短期的な資金の融通をジャンケットに担わせ、提携すべきジャンケット事業者を選別し、リスクとメリットを分担しあう形で、共存できる仕組みを考えたわけである。
顧客誘致、対顧客与信リスクと貸付金の回収は中国本土ではグレー若しくは違法行為でもあるが、巨額の資金が動くことになり、ここに着目したビジネスが現代マカオに存在するジャンケット企業になる。
尚リスクを分担しあう関係とは、これらマカオのジャンケットは単なるサービス業ではなく、ミニ・カジノとでもいうべき存在へと発展したことを意味する。
カジノ施設の中に独自のブランド名を附した部屋(VIPルーム)を借り、デイーラー・機械・テーブル・器具等はカジノ事業者が提供するが、実際のゲームの進行はジャンケットが仕切る。
ジャンケットは未払いリスクを抱えるため、カジノ事業者より取り分が多く、いびつな関係でカジノ事業者との補完関係を維持してきたといえる。
また資金回収のために中国マフィア(Triad)と表・裏の関係があるのではという噂は絶えず、欧米諸国ではグレーな存在として、必ずしもまともに認知された存在ではない。
このマカオのジャンケットが過剰に喧伝されたため、わが国ではジャンケットという言葉自体が否定的なイメージとしてマスコミに把握されたという経緯がある。
但し、カジノ事業者が自らの営業活動の一部をあくまでもサービスとして第三者に外部委託するということ自体が否定されているわけではない。

ところで我が国のIR整備法にはジャンケットという言葉の定義はない。
推進会議の議事録や報告書にはその付記があるが、マカオ的なジャンケットは我が国では認められることはない。
但しこれはカジノ事業者が自らの機能の一部外部委託として、顧客誘致等を図るマーケッテイングの一施策として考えること(即ち米国の本来的なジャンケットの機能)は許可が必要だが否定しないという前提に立脚してる。
この企業活動を過剰に規制する考えはIR整備法にはない。
マカオ的なジャンケットの本質的否定は、IR整備法上は別の規定にあり、(マカオのように)カジノ行為自体を第三者に委託することの禁止、顧客に対する金銭貸付行為は一定の条件の下で認可を得たカジノ事業者のみが可能、資金回収も条件・制限があり単純委託は禁止等カジノ行為自体ができるのは免許を取得したカジノ事業者のみとする様々な規定がある。
これにより、マカオ的なジャンケットは我が国ではありえないというのが我が国の制度的枠組みになる。

よってジャンケットという言葉に拘泥すると正確な理解は得られなくなる。
世界的に見てもマカオ・ジャンケットの在り方は特異であり、他の先進諸国では殆どかかる在り方は認められていないか、限定的な枠組みとでしか認可されていないことを留意すべきかもしれない。
複数のオーストラリア州州政府カジノ規制当局は、2019年来同国最大のカジノ事業者であるCrown Casinoと連携しているジャンケット企業がマネーロンダリングや中国Triadとの関係があるとして、マカオ・ジャンケット起用の禁止、関連企業役員の入国禁止措置迄実施している。
マカオにおけるジャンケットのピークは2015年頃で182社が登録されていたが、中国政府による腐敗汚職撲滅運動、これに伴う中国本土からの来訪VIP減少が生じ、2020年には95社となっている。
VIPへの貸付は貸付金回収迄の時間を考慮すると、かなりの規模の運転資金が必要で、キャッシュフローを管理できえないジャンケットは淘汰され、大企業化したジャンケット企業に寡占化されつつあるのが実態といえる。
我が国においても将来的に中国人VIPを招聘するためには、このジャンケット的な機能は必要ではとする意見も一部にはあるが、これはありえない可能性だ。
一方伝統的に米国に存在したジャンケットビジネスモデルは、ジャンケットとは呼称されないが、当然我が国においても実践できる業務類型になる。
機能的にはVIPコンシエルジュみたいなものだから、恐らく呼称を変えた方が、一般国民の理解は進むかもしれない。

(美原 融)

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