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2021-06-21

100.都道府県等による事業者選定評価

都道府県等がIR事業者を選定する方法は、制度上は設計コンペと同様となる公募プロポーザル方式になる。
公的主体は一定の公募上の枠組みや要件を提示するが、これに基づき如何なる提案をするか、その提案に如何なる創意工夫をするか等は全て、提案者に委ねられる。
公的主体にとり財政負担があるわけでもなく、基本的には価格の多寡や事業規模の大小を判断基準とすることのない提案競技になり、法律上は競争的な随意契約という分類になる。
都道府県等が準備する募集要項等により、最低満たすべき要件や前提が開示され、これに基づき競争的公募がなされることになる。
かつ事業者選定基準や実施協定(案)等の枠組みが公募と同時に開示される。
もっとも実施協定案や条件規定書等詳細な条件等は一般には開示されず、入札に要求される費用を支払い、守秘義務契約を締結した応札を欲する民間事業者にしか開示されない慣行が根付いてしまったようである。
コンサルタントや弁護士等を雇い、億単位の資金を作り作成した書類を競争相手となりかねないその他の都道府県等や関係者に無料で見せるわけにはいかないということだ。
確かに、もし情報が公開されれば、後から参加を表明する都道府県等は先行する自治体の成果をベースに基本的枠組みをコピーし、時間と費用を大幅に節約することが可能になる。
自治体間が競争環境にある以上、オープンな形で事が進まないのはしょうがないのかもしれない。
但し、この結果、一部の情報がブラックボックス化しかねず、適切な法の施行が行われてるか否かを外部からは検証できなくなる。
ここには市民に対し、適切な情報開示を実行するという姿勢は見受けられない。
市民は詳細を知らない方が適切ということなのであろうか。
 
国の基本方針に準拠した実施方針の下で、公募プロポーザル方式で事業者を選定する場合、異なる都道府県等であっても、その手順や評価判断基準は極めて類似的になる。
全ての都道府県等は、一定の事業者選定判断基準を設け、有識者による第三者審査委員会を設立し、その公平・公正な審議を経て、異なる提案を評価し、最優秀提案を優先交渉権者として選定し、交渉により実施協定の条件を詰めるという手順を採用する。
都道府県等の民間事業者選定判断基準は、国の基本方針に記載された、区域選定判断基準に準拠し、これを投影する形で、作成され、これを下に民間事業者を評価・判断・選定することになる。
事業者選定判断基準は公開の対象になるため、先行した自治体(大阪府・大阪市2019年12月24日)の考え方がベンチマークとして採用され、その後参加手順を踏んだ都道府県等はこれと類似的な考え方をとったことが解かる。
表からは見えないが、詳細の内容や文言について各都道府県等が国土交通省・観光庁とある程度の調整をしている様子はうかがわれる。

民間事業者がコミットする投資金額の多寡や何等かの自治体-民間事業者間の金銭的なやりとり(例えば土地賃借料、インフラ負担金、入札費用分担金等)の多寡が競争の対象になるわけではない。
提案の内容、国の要件や自治体が課す要件の具備、独創性、競争性、実行性等が評価の対象になるわけで、先行する自治体はいずれも、総得点を1000点とし、これを4つから5つの評価カテゴリー毎に配分し、更にそのカテゴリーを細分化し、詳細項目毎に濃淡(ウエイト)をつけて配点を配分し、総得点の多い提案者を採用するという総合評価方式の考えをとっている。
この評価カテゴリーだが、1)コンセプト・全体計画、2)実施体制、運営能力、事業の継続性・安定性、財務体力・資金調達確実性、3)魅力ある滞在型観光の実現(中核施設たる1号施設~6号施設までの各施設につき、法令や募集要項が掲げている狙いをどう提案し、実現しようとしてるかの内容を評価する)、4)依存症対策・治安・危機管理・防災対策、5)街づくり、雇用・人材確保育成、地域貢献施策等をこのまま5つ、あるいは4つ程度に纏め、1)~3)で750点(全体の75%)レベルとするのが凡その「相場」になる模様だ。
勿論自治体毎にカテゴリーの重みづけに強弱があると共に、詳細項目も同じではない。
但し、評価項目を細分化し、配点を考慮すると、項目が多くなればなるほど、評価点がバラバラになるため、全体としては類似的になる傾向がある。
またこれは評価の強弱がはっきりしない構図になることを示唆している。
この場合、事業者としては、(競争環境にいる限り)できる限りバランスよく評価点を稼ぐ応札戦略を行動として取る。

採用されている手法は勿論それなりの合理性と説得力はある。
但し、100以上あるいは細分化すれば数百ある評価項目は同一の重さではなく、全ての前提となるべき項目はより重たい評価がなされなければならないのにどうもそうはなっていない。
重要なのは立派な施設や世界一のサービスに係る提案ではなく、それを実行できるか、本当に実現できるのか、そのための資金調達は本当に充分あるのか、全ての提案はその意味で信用できるかにある。
いくら良い提案でも、実行性が無ければその評価はゼロでしかない。
巨額の資金を確実に調達できるという確約・保証が無い限り、提案自体に実効性がないということになり、大幅に評価を減少しなければ評価の意味がなくなってしまう。
「良い提案」とは実効性、実行性がなければ評価に値しないとするのが本来の公募プロポーザル方式に基づく評価の在り方だ。
行政が財政負担により資金を拠出し、サービスを購入する通常の公共調達の枠組みであるならば、まず問題は起こりえない。
問題は行政が一切資金も負担せず、全てが民のリスク、民の資金となる案件の場合である。
実現しようがしまいが、実行性があろうがなかろうが、所詮民間事業者のリスクと費用負担。
行政の責任ではないとする思考パターンに陥る公算が高くなるからである。
公開されている評価判断基準を見る限り、残念ながらこの懸念は払拭できそうにもない。

(美原 融)

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