2021-06-16
99.都道府県等による事業者適格性審査
国土交通大臣が定めた基本方針(3公募及び選定(2)選定基準及び選定手続き(カ))は都道府県等が事業者を選定する際に、「カジノ免許の基準を踏まえ、可能な範囲で民間事業者の適格性につき確認を行うことが必要である」とし、「IR事業者がカジノ事業の免許を受ける上での欠格事由が存在しないことを基準の一つとして含むこと」、「その旨の民間事業者による表明・確約書を提出させること」、「暴力団員等の排除の観点から、都道府県警察への照会を行うほか、必要に応じ、民間の調査会社等への調査の委託等を行うこと」等を選定基準の留意点として列挙している。
またIR事業者の適格性を担保するため、「表明・確約書」、「警察への照会確認書」、「調査会社に調査を委託した場合の報告書」の提出を求めている(同4「区域整備計画の記載事項、申請手続き」(2)添付書類ウ)。
上記は都道府県等が事業者を選定する場合、当該事業者の適格性(suitability)を確認することを都道府県等の責務としていることを意味する。
国としての事業者廉潔性を確認する行為はカジノ管理委員会で、カジノ免許申請を通じ、これを実践するが、委員会による審査の前提として、都道府県等の区域認定が先行するため、区域認定申請の前提として都道府県等に対し、適格性の確認義務を課したのであろう。
もっとも「可能な範囲で」としたのは、完璧な適格性の確認を都道府県等ができるかどうか解からないという現実を理解したものとも思える。
できないものを要求しても本当は意味ないのだが、可能な限り努力せよというわけだ。
尚、「表明・確約書」は異なる事実が判明した場合、帰結と責任を民に押し付けるための書類でしかない。
都道府県警察への照会は本邦法人・個人の場合には効果があるが、申請法人ないしはその親会社が外国法に基づく法人である場合、都道府県警察レベルでは手も足もでない。
カジノ管理委員会は整備法に基づき直接海外規制当局と情報交換できる権能を付与されているが、この段階で委員会が都道府県等を助けてくれるとは思えない。
海外では公安・警察OB等により構成された適格性調査のための民間調査会社は確かにあるが、果たしてこの段階での調査ニーズに合うかどうか懸念もあるし、日本の通常のコンサルに調べさせても新聞・ネット情報以上のものが出てくるとも思えない。
信用調査も海外の特殊な業になると本邦調査会社では対応は不可能と考えるべきである。
外見的なチェックは都道府県等でもできるかもしれないが、整備法や規則案が要求するレベルの廉潔性の確認となると、おそらく都道府県等の能力を超えてしまうことは明らかだ。
IR誘致に手を挙げた都道府県等の実施方針・募集要項を見ると、都道府県ごとに微妙に上記基本方針の規定に対する対応は異なっている。
大規模IR施設を志向する大阪府・市、横浜市は、廉潔性は制度上の応募者の欠格要件の一つとして構成し、通常の公共調達に伴う手順等を踏襲しており、特段の留意事項や規定は設けていない。
一方、地方でIRを目指す長崎県は一次審査後、「廉潔性調査の実施」という県による審査期間を独自に設け、県が指定する廉潔性審査実施事業者の審査を事業者による費用負担で実施することを規定している(これが実施されたか否かは公表されていない)。
和歌山県は、公募の過程で県が「予備調査」を実施し、潜在的事業者の適格性(欠格事由がないことの調査)を最終資格審査提出後、提案審査終了迄実施することを規定している(調査中に対象主体が辞退する事象が生じたが、理由は不明。
これもどこまで何を審査したのか不明である)。
尚、どの自治体も適格性審査は欠格事由か否かの判断である以上、評価委員会の審査項目に廉潔性という評価項目をいれていない。
また全ての都道府県等において、応札者は外国企業と日本企業のコンソーシアムであって、本邦企業のみのグループ等は存在しない。
例え応札者が外国企業であっても、わが国と同程度の厳格な制度の国におけるカジノ免許保持者である場合、その廉潔性はまず問題ないと合理的に想定できる。
大都市大型案件にはかかる企業が応札している。
一方、地方IRの場合には、中規模故、単純にその廉潔性を予測できにくい外国企業が参加することになったため、こうなったのだろうと推察できる。
そうとすれば、余程しっかりとした調査がなされない限り、本来不適格な主体を選定してしまい、後刻問題を国の機関から指摘されるという可能性はゼロではない。
もっとも応札者の数が極めて限られる状態で、外見的、総体的には提案そのものが評価できる場合、都道府県等にとり当該企業の廉潔性を確認できないという理由のみで欠格とすることは極めて難しい判断になりかねない。
不適格な主体を選定し、区域整備計画を国に提出しても、国土交通省は、廉潔性に関しては、形式的な審査のみしかしないだろう。
当該事業者の廉潔性の確認は、そ都道府県等が担うべきで、国土交通省が審査する対象ではないというスタンスだからだ。
もしこのまま区域認定を得て、認定設置運営事業者としてカジノ免許をカジノ管理委員会に申請し、将来的にカジノ管理委員会が否定的な判断を下すことになれば、都道府県等にとっても大きなダメージになってしまう。
もっともカジノ管理委員会が都道府県等が廉潔性を確認し、国土交通省が区域認定を付与した認定設置運営事業者のカジノ免許申請を、事業者の主たる構成員の廉潔性に問題があるという理由により欠格にできるかは微妙だ。
既に事業は開始されているからである。
廉潔性に問題ある主体を事業者株主間で代替させればいいという程単純な話ではなくなる公算が強い。
もしカジノ管理員会の審査が、都道府県等や国土交通省の甘い判断を追認するだけであるならば、厳格な規制を自らが妥協することになってしまう。
制度としては記載がないが、やはり都道府県等の事業者選定の段階から、カジノ管理委員会が何等かの形で(たとえ非公式にでも)公的部門内の関係者を支援し、関与すべきなのであろう。
但し、カジノ管理委員会にとっても、かかる権限もなく、申請行為も必要書式も何もない状況では、何もできないということなのかもしれない。
(美原 融)