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2021-08-04

113.IR:10条問題 ⑨実施協定上の抑止規定

事業継続不能事由が、認定設置運営事業者に起因する場合には、明らかに、事業者側に損害賠償や違約金支払い義務等が生じる。
この場合、都道府県等が何等かの責任を担ったり、補償をしたりすることは当然ありえない。
一方、事業者には何らの瑕疵も問題が無いのにも拘らず、都道府県等に起因する何等かの事情により事業継続不能事由となる場合には、都道府県等も損害賠償や補償を含む一定の責任を担うべき、この旨を契約的に確約すべきとする考えは、公平性の観点からも当然の合理性がある。
かつ実施協定の枠組みの中で損害賠償や補償等の財政負担が生じる規定を設けることは、都道府県等による安易なかつ恣意的な判断による作為、不作為を回避する、あるいは抑止する効果をもたらすことが期待できるという効果もある。
大きなデメリットが生じることが明らかな場合、誰もが安易な行動はできないものだ。

10条問題の最悪の帰結は、事業が順調に推移し、事業者に何ら問題が無いにも拘らず、地方議会が区域認定更新手続きに同意せず、時間切れで区域認定が失効し、実施協定解除、カジノ免許失効となり、事業の枠組みが崩れることにある。
勿論余程の背景や理由がなければ通常そこまでには至らないのだが、事業者側の不祥事等が住民によるIR反発への運動に繋がり、これが政治運動へと変化し、選挙を通じ、IR反対派が議会の多数派を構成したりした場合には、ありえない可能性ではなくなる。
もっとも、かかる事態に至らない様に、様々な抑止効果をもたらす契約上の規定を予め実施協定の枠組みで取り決めておくことは有効である。
これには例えば下記等が考えられる。
 

(都道府県等関連規定)
協定上、都道府県等に課す単純義務規定を設けることは恐らく難しい。
但し、都道府県等による協力、支援、努力義務等を工夫し、問題の発生を抑止する様々な考えを含ませるというアプローチを取ることは可能であろう。

  • ✓ 議会によるIR支援決議:
    当初の議会による区域整備計画申請同意付与審議の際に、議会としてのIR支援決議を要請する。
    計画申請時の議会として、IRを支援するとした姿勢を議会の決議として残しておくことを意味する。
    後刻議会が問題とした場合、当初の議会の意図はこうであったと反論する論拠の一つになる。
  • ✓ 誠意ある協議開始、リスクの発生を極力避ける努力義務規定:
    議会がIRの存続に否定的な考えを示す兆候が顕在化した場合、利害関係者と協議を開始すると共に、問題が顕在化しないように最大限努力する義務を都道府県等に課す規定になる。
  • ✓ 区域認定が失効することが明らかになった場合、事業者の損害を軽減する努力義務規定:
    例えば、区域認定が失効することが明らかな場合、民間商業的事業として継続して運営できうる中核施設等の存続のための協力・支援(土地賃貸借の継承を含む)、事業再構築支援等の義務を都道府県等に課す規定になる。
    継続して地域社会に貢献できる施設群は当然残した方が官民双方にとってもメリットになる

(認定設置運営事業者関連規定)
上記規定とバランスを取るために、設置運営事業者自体が、安定的、継続的なIR事業の運営を図るという努力義務がある方が好ましい。
都道府県等と事業者が協力して、IR事業の安定的な継続を実現することが実施協定の目的だからでもある。

  • ✓ 安定的、継続的な事業を営む義務規定:
    地域社会構成員からの信頼・信用・支持を獲得し、安定的、継続的な事業を営む努力義務をいう。
  • ✓ 地域からの雇用、購入、納税等の地域貢献義務規定:
    地域住民の雇用、地域中小企業からのモノやサービス購入、納税等不断の地域貢献を果たす規定。
    数値目標を設定することもありうる。
  • ✓ 区域認定失効に際し、地域社会へのインパクトを最小化する誠実努力義務規定:
    区域認定が失効した場合の事業退出、あるいは再構築・再生に係る都道府県等、融資金融機関、設置運営事業者株主安堵との協議への参加義務。
    雇用を守り、地域社会への人手的な影響をできる限り排除し、縮減する努力義務等になる。

極めて日本的な対応策でもあるのだが、利害関係者とのしがらみをお互いに構築することにより、安易にIR事業者を事業退出に追い込みかねない施策を抑止することができる。
地域社会において雇用、消費、納税、様々な地域支援の社会貢献等でしっかりとした地位を占めている事業者を安易な形で退出へと迫ることができにくい仕組みを作っておくことが効果的であることは間違いない。
あるいは、運営開始後、早い時期にIPO(株式公開)を実施し、多数の一般市民に一部株式を分散させて所有してもらうことも有益な抑止策になる。
一般市民がIRの出資行為を支え、株式を保持する場合、単純、恣意的な政治的意思でIR事業を地域社会から無くし、廃止することはできにくくなるからである。

(美原 融)

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