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2021-08-02

112.IR:10条問題 ⑧都道府県等の対応 2)

では手上げ方式に参加する都道府県等は10条問題へどういう対応をするのであろうか。
公表された実施方針・募集要項ではその片鱗しか理解できないが、基本的な方向性のみは把握できる。
但し、全ての都道府県等は、詳細を実施協定案・条件規定書の中で追って記載するとしており、これらは一般には開示の対象とはしていないため、詳細を理解することはできない。
自治体間で競争状態にある以上、時間と金をかけて纏めた考えを他の自治体には見せたくないという考えもあるのだろうが、やや偏狭なアプローチだ。

大阪府・市の対応は、更新付議同意を行わず認定失効に至った理由が事業者による重大債務不履行事由や事業者の責めに帰す場合には府市は一切責任を負わないとある。
事業者の違法行為が社会や議会の反発を招き、IR事業の否定にまでエスカレートする状況等を意味しているのであろう。
一方、事業者の責に帰すことができない事由の場合で、議会や行政府の事情により、更新付議同意を行わず認定失効にいたった場合には、「逸失利益を除く設置運営事業者が現実に被った通常生ずべき損害を補償する」とある。
これが何を意味するかは微妙である。
「現実に被った損害」とは何で、何を何処まで「現実に被った」と判断できるのかという問題が生じる。
また、「通常生ずべき損害」という表現も微妙だ。
何をもって「通常生じる」とするのかの判断基準は極めて曖昧だ。
いずれも全ての「損害」ではなく、前提として一定の制限を設けていることになり、なんでもありではないことを示唆しているに過ぎない。
尚、これに関しては、大阪府・市による実施方針並びにそのQ&A(第10.2(3). b 解除の効果)に若干の説明がある。
これによると、損害額の算定とは、「設置運営事業者の設置運営事業等の整備に投下した合理的な範囲の事業費(資本及び費用)」から「その他回収状況等の諸般の事情」を斟酌し、算出するとある。
言わんとすることは、解からないでもない。
確かにIR区域認定は失効し、カジノ事業は廃止されても、MICE施設や宿泊施設、その他の中核施設は、単純な民設民営の施設として営業継続は可能であろうし、第三者への資産・施設売却による事業継承も可能なはずで、債務の過半もこの新しい枠組みが継承することもできる。
売却収益や負債の継承等は、当然差し引くのだろう。
実際のローンやスワップ等のブレケージコストや契約解除に必要な諸費用等は純然たる損失額となり、これが「現実に被った損害」ということなのかもしれない。
実施協定案で何をどう詰めるのかは不明だが、これは大阪府・市は交渉により、限りなく実際の補償額を極小化できるということを示唆している。
もっとも民間の方は契約の文章規定次第だが、別の解釈を考えるかもしれない。
契約当事者がお互いに曖昧な定義を甘受し、各々が勝手に契約条文を解釈したままで良しとする場合、もし、これが問題となった場合には、必ず係争事由になりかねない。
極めて日本的だが、これでは過去の第三セクターと同じ問題を抱えることになってしまうリスクはある。

横浜市は基本的には上記大阪府・市の案を一部踏襲しつつも、若干柔軟性のある独自の考えを採用した。
認定更新申請等に際しては、長期の事業期間を前提とすることが必須である故、設置運営事業が継続されることを基本的な考え方とし、「区域整備計画の認定更新申請又は認定取消申請を行うか否かを判断するに際しては、事前にIR事業評価委員会に諮問することとし、かつ認定更新申請を行わない場合、又は区域整備計画の認定取り消し申請を行う場合、地域経済への影響を鑑み、その5年前に設置運営事業者に対しその旨を通知する」とある。
よって、横浜市が認定行為に何らかの否定的な行為をする場合には、5年間という事前通告を与えることにより、この間に対処のための時間的余裕を与えるという考え方になる。
その効果は、「非カジノ事業の継続の許諾」、「資産の取り扱いに関する協議」、「解除に起因し、設置運営事業者が現実に被った通常生ずべき損害(逸失利益を除く)の補償」、「特段定めるもののほか、解除に起因して市及び設置運営事業者に生じた損害は各自が負担し、相互に損害賠償は行わない」としている。

長崎県は、「区域整備計画の継続の判断」という項目を設け、この中で、継続困難事由が区域認定更新申請をしなかったり、取消申請の理由であったりする場合、県は一切の責任(損害賠償責任、補償責任を含む)を負わないとし、継続困難事由がない場合には、県及び設置運営事業者は更新に必要な最大限の協力を行うものとするとしつつ、かかる協力にも拘わらず、認定更新が行われなかった場合、県は一切の責任(損害賠償責任、補償責任等を含む)を負わないとしている。
尚、判断に際しては、事前に行政内部に設けられるIR事業評価委員会に諮問するとある。
よって単純な形で将来的に財政負担が生じうる考えを予め公募の前提として認めたくはないという意思表示になる。
大阪府・市や横浜市とは全く異なる対応になるが、更新申請が議会の同意を得られないことは地域的にありえないと判断する立場を取れば、かかる考え方もありうるのかもしれない。
勿論投融資を担う民間主体がこれをどう評価し、判断するかは全く別の議論でもあろう。
和歌山県の実施方針・募集要項は、認定の更新がなされない場合等に関しては県とIR事業者はその状態の修復を図ること、修復が不可能である場合には、協議、相互に最大限協力する義務を負うとしているが、詳細については実施協定案において示すとし、如何なるポジションを取るのかを示していない。
意図的に意見開示を避けているのだが、他県の動向を見て決めるのであろうか。

都道府県等がバラバラに異なる考えを志向したり、類似的な議論を零から検討したりすることは、社会的コストを大きくすることに繋がり、必ずしも好ましくない。
本来国が指導しつつ、もっとオープンな形で、議論し、社会全体で合理的な情報や考え方、解決策を共有することが、より良い契約慣行や利害関係者の好ましい関係性を導くことにも繋がる。
あるいは都道府県等の判断により、情報公開を徹底すれば、考え方が市場で共有され、ベストプラクテイスにも繋がるのだが、残念ながらこれを期待することはできそうもないのが現実の様だ。

(美原 融)

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