2021-08-09
114.IR:10条問題 ➉事業継続不能時への対処手法
議会や行政府が将来のある時点において区域認定更新に同意しないことが明確になった場合には、これが如何なるインパクトをもたらすか、またどうこれに対処すべきかを利害関係者と検討し、対処手法と措置を考える必要がある。
この場合、利害関係者で構成する法定協議会を招集し、この枠組みで議論することになるのであろう。
その際、前提として下記を考慮する必要がある。
* 議会や行政府の意思の確認、検討すべき項目とタイムラインをまず確定する:
将来区域認定更新をしないということは、実施協定を解除し、IR整備法の下におけるIR事業を取りやめることを意味する。
都道府県等として、事業者の撤退(土地を賃借させている場合は、更地に戻し、現状復帰)を要求するのか、あるいはカジノ外の中核施設群(ホテル、展示場、会議場、劇場等)は地域社会との関係性より、通常の民設民営施設として残すことを前提に検討するのかで議論の在り方と方向性は異なってくる。
いずれにせよ精緻に構築された事業の枠組みを壊すことを意味し、単純ではない。
想定される次回の区域認定更新時までの期間に何を何時までに決め、何をすべきかにつき、項目とタイムラインをまず合意する必要がある。
事業者内部で議論すべき方針決定・株主間合意、様々な委託契約業務相手との交渉等があると共に、外部主体となる都道府県等との退出補償条件交渉、金融機関との交渉、実施契約解除協定の策定・調印、解除に伴う必要資金調達/支払い等の実施、(一部存続させる場合)事業等の一部継承等という手順が取られるはずである。
* 契約解除に伴う債権債務関連の措置・処理等につき合意を図る:
都道府県等に起因する実施協定解除に伴う事業者の実損、様々な契約中途解約に基づく違約金、損害賠償等の範囲、金額等につき合意する必要がある。
もっとも実際の損害がいくらになるかは、どういう枠組みで事業から撤退するのか、一部資産等を第三者に売却したり、既存の債務をも第三者に一部継承させたりすること等が可能か否か次第でもあり、状況や考え方次第では、実際の損害を縮減することができる。
方針を決め、関係者との交渉により、条件を合意するまで損害額は確定できない。
よって相当の時間がかかる。
金融機関の残存債務がある場合、債務を出資者が弁済するのか、あるいは資産を継承する第三者に一部負債をも継承させるのかという選択肢も上記と同様に早い段階で決める必要がある。
* 内部的な処理と外部的な処理があり、平行的に進めるが、項目処理の優先度に配慮する:
カジノ免許は失効し、カジノ業は廃止となるため、カジノ関連出資者は事業から退出するかもしれないし、カジノ外事業で生き残りを図るかもしれない。
あるいは他の出資者が残存事業を継承するということもありうるし、新たな第三者へ事業を売却することもありうる。
内部的な方針決定がまず優先され、この方針に伴い撤退戦略をたて、利害関係者との交渉に入る。
この際、優先項目を特定し、交渉の順序を定めないと確実に混乱する。
区域認定行為が失効すると、IR整備法は関係なくなり、整備法の枠外で自由に問題解決を志向することができる。
この意味では、問題の処理方法は通常の事業撤退、事業再生、事業再構築の手法と何ら変わらない。
民間事業者にとっての選択は、撤退、事業の分割、主要株主あるいは第三者への中核施設等の一部事業譲渡等になる。
一方、地域における雇用や社会的な施設の価値を維持するために、IRの中核施設の営業を継続させたり、既存事業者の構成株主あるいは新規第三者投資家が施設の譲渡を受け、単独事業として継続したりするということもありうる。
事業を再構築・再生することができれば、一部事業の新規事業者への売却、一部残存債務継承等により当初の出資者や金融機関が被る実損をできる限り極小化することも可能になる。
この結果、都道府県等が支払う補償金も低く抑えることもできよう。
この場合、都道府県等と関連する新たな中核施設の事業者との契約(例えば土地の継続的賃貸借、地域振興等への貢献や都道府県等による支援等)を新たに設けたりすることで、都道府県等も新規事業者を支援し、地域社会に与えるインパクトを軽減することもできる。
これらの手段を尽くして、費用や損害を最小化しつつ、事業を再生することに努力するが、それでも実損が生じた場合には当該実損を損害として賠償することが合理的な措置になる。
これらの基本的な考え方は予め実施協定に必要な要素として規定することが望ましい。
尚、極端な解決策として、公益的性格のある展示場や会議場を公的主体が買い取る(Buy Out)、あるいは当該施設に関し、事業者が抱える債務の一部を都道府県等が継承する(Debt Assumption)可能性を指摘する意見もある。
公設民営の施設として指定管理者やコンセッションPFIの仕組みを考えるわけだ。
但し、IRは公共工事でもPFIでもない。
本来民設民営でも事業継続が可能となる商業的施設に関する負債を税金で賄うことに市民が納得するとは到底判断できない。
(美原 融)