National Council on Gaming Legislation
コラム

2021-07-26

110.IR:10条問題 ⑥国の対応

10条問題とは、制度に内在する脆弱性とでもいうべきものだが、必ずしもIR整備法だけの問題ではなく、IRの招致を担う都道府県等を律する法的規範との関係で生じる問題になる。
この意味では問題は都道府県等固有の事情に基づくものという考えになり、国が何等かの形で介在すべきではないし、介在できるものでは無いという整理になる。
一方、IR整備法は「設置運営事業等の継続が困難となった場合における措置に関する事項」を予め考慮し、実施協定で定めることを要求している(整備法第13条第1項第2号)。

上記を踏まえて策定された基本方針では、何等かの具体的考えを記述すべしとする民間の意見を反映し、大きな考え方と方向性のみを規定した。
(第1、8実施協定の締結、(2)「設置運営事業等の継続が困難となった場合における措置に関する事項」)。
例示として「カジノ事業の免許の取得又は更新ができない場合、国土交通大臣による区域整備計画の認定が取り消される場合又は認定の更新がなされない場合、災害の発生等」を列挙し、「想定される事由をできる限り具体的、かつ網羅的に列挙した上でそれぞれの場合に、都道府県等及びIR事業者が採るべき措置を定めておくことが求められる」としている。
あくまでも修復を図ることが基本としつつ、三つの対処措置の可能性につき言及している。
即ち

  1. 修復・継続:
    事業者の交替等によりIR事業を継続・修復する可能性(事業売却等による新たな 事業者による事業承継に係る規定の必要性等)、
  2. 事業廃止:
    修復が不可能である場合、IR事業の廃止(その場合土地・IR施設等の資産処理の 規定と廃止迄の手続き等に関する計画提出の規定の必要性等)、
  3. 一部施設承継・継続:
    認定取り消し後、IR事業者であった者ないしはその他の事業者がカジノ施設以外の施設の一部ないしは全てを継続して運営する可能性(円滑な引継ぎについての具体的、明確な規定の必要性等)、
    である。

この内、①はIR事業がペイせず、財務的に破綻、あるいは過剰投資・事業不振等によりキャッシュフローが足りなくなる場合等、既存事業者が損失を覚悟で第三者に事業譲渡し、事業の継続を図るような場合をいうのであろう。
ありえないことはないが、区域認定を維持しながら、新規事業者によるカジノ免許申請が必要となり、手続き・手間いずれも未定の側面があり、実際は単純な業務手順とはなりにくい。
IR事業者の枠組みを残し、一部株主撤退として、株主変更申請等で枠組みを壊さずに実質的な承継を図る手順の方がより合理的であろう。
②はあまりにも非現実的な選択肢になる。
ホテルやMICE施設、ショッピングモール等の集客施設、地域社会において集客、消費、雇用等それなりの貢献と役割を果たしてきたはずで、IR事業者の事業継続不能が何に起因するかにもよるが、事業者の責ではない起因要因の場合、これらカジノ外の中核施設の継続性が全ての前提であることがより適切になる(これは即ち③の考え方になる)。

尚、損害補償の可能性については、「IR事業が適切に運営されているにも拘わらず、都道府県等又はIR事業者のいずれかが必要な手続きを行わないことにより認定の更新がなされない場合(都道府県等の行政府の判断による場合、 IR事業者の判断による場合のほか、都道府県等の議会の同意が行われないことによる場合を含む)における補償について規定することも可能である」としている。
「補償について規定することも可能」という記述は、民間事業者等が被った損害等を補償することは違法ではないと言っているだけであって、補償規定を入れるか否か、何を規定すべきかは(国は関知せず)、原則都道府県等の裁量ということに終始した考え方を取っている。
即ち、この点に関し、国は深く立ち入らず、全てを都道府県等の判断に委ねていることになる。
補償規定を入れることは合理的な考え方でもあるが、問題はその対象、内容になる。
区域認定の取り消し、実施協定の解除により当該施設群は制度上のIRではなくなるが、上記で見た通り、全ての事業を廃止し、撤退するという考えは現実的であるとは思えない。
カジノの無い中核施設群は施設としての機能や魅力、集客力は保持できているとしたならば、新たな主体がこれら施設群を購入し、その対価を金融債務残債に充当するなりして、事業の一部を継続することも可能になる。
これによりIR事業者の実損を縮減することもできる。
この場合、なにが実損になるかを予め決め置くことは極度に難しくなる。
資産処理方法と想定費用項目を列挙することになるかもしれないが、日本的な約定の慣行では曖昧になってしまう可能性も十分ある。
この結果、都道府県等によっては異なる判断基準により独自の規定を設けるところがでてくるかもしれず、必ずしも共通的な考え方にならない可能性も高い。

基本方針の上記規定は、一部自治体が先行し、実施方針案、募集要綱案等で自らの方向性を示唆した後に公表されたもので、この間、国土交通省担当部局と一部都道府県等との間で非公式な意見交換があったのかもしれない。
この意味では一部都道府県等の意向も反映しているのであろう。
国の確認が取れた考え方とは、損失補償は「違法ではない」「やらなくても良いし、やっても良い」。
但し、「責任もその帰結も都道府県等が担うべし」ということか。
都道府県等にとり、将来の財政負担を偶発債務として抱えるということは、相当の説明責任が要求されることになり、それなりの公平性、透明性が求められる。
果たしてこれは満たされているのか懸念は残る。

(美原 融)

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