National Council on Gaming Legislation
コラム

2021-07-21

109.IR:10条問題 ⑤シクエンス2)

賛成反対が拮抗しやすい政策課題を抱える案件は、その政策が実現するまでの期間に案件自体が潰れる政治リスクを抱える。
潰れやすいのは、例え都道府県等のコミットメントがあっても、退出(Exit)のコストが安いからだ。
だからこそ、反対運動も活性化しやすいし、行動に移しやすく、やり方次第では効果的になる。
IRの場合には、都道府県等による選定事業者との基本協定締結前迄の開発期間の政治リスクはかなり高い。
双六の振り出しに戻せるからだ。
一方、基本協定を締結した後になると、官民双方にとり、これを破棄するコストが高くなり、簡単に退出できなくなる。
また一端国土交通大臣による区域認定を得て、都道府県等と選定事業者が実施協定を締結すると、退出のコストは更に高まる。
実現のための枠組みが固まり、資金調達も実現すると、施設整備の建設工事が胎動し、完工・運営開始に向けて一挙に全てが動き出す。
こうなると、余程の致命的な事象が生じていない限り、単純に政治リスクは生じないし、退出のコストは高く、簡単には潰せなくなる。
単純には潰せないという抑止効果が働くのだ。
IRも成功裏に開業し、市民社会に溶け込んでしまうと、恒常的な反対運動は起こりにくいし、時間の問題でIRの存在も自然の風景になってしまうことになるのかもしれない(駅前のパチンコ屋、交通混雑の原因となる公営賭博競技場等も施設を設置するときは反対運動が激化するが、一端できてしまうと、大きな反対もおこらず、市民はその存在を受容し、単純にこれら施設を排除できないこととに類似的だ)。

IRを潰そうとする政治リスクは、ある日突然起こるリスク事象ではない。
必ず予兆となる事象が先行するため、問題の存在を早めに察知できる。
トリガーとなる事象とは、都道府県等による首長や議会の選挙等に伴う首長交替や議会構成員の変化等になる。
都道府県等の首長の任期は議会の不信任議決,住民のリコールによって解職されなければ4年である。
首長の選挙は一定の政策主張、公約をもとになされるのだから、当然かなり早い時点で政策変更の可能性を察知できる。
もっとも行政がコミットし、既に運営段階に入り、順調に推移しているIR施設の反対・廃止を公約に掲げ、政治運動をする場合には、余程の環境変化や致命的な問題をIR施設が抱えていない限り、極めて非現実的な政策になりかねない。
そうなるとまず争点にならず、集票に繋がらない。
住民による反対への支持が無い限り、効果的な施策にはなりえないのだ。
地方議会の議員の任期も解散が無ければ基本は4年だが、与野党が拮抗している場合を除き、ある日突然与野党交替が生じるわけではない。
政策上の選択肢が選挙上の争点になり、かつこれが与野党の政党選択に結び付くケースは本来稀だ。
これが起こるとすれば、やはり何らかの理由背景があり、段階的に大きな声になっていくことがトリガーになるのだろう。

尚、予兆が現れ、問題が認知されても、これが現実に至るまでには恐らく紆余曲折があり、かつかなりの時間的余裕があると想定できる。
区域認定更新のタイミングは、初回は10年、以後5年毎だ。
実際にIRの整備運営がどの段階から始まるかによっても、どの位の時間的余裕があるかが決まるが、予兆を確認してから問題が現実の問題になる迄半年から数年の余裕はありうる。
この時間的余裕を最大限利用し、対応策を考えることも可能になる。
サデンデスはありえないのだ。

この場合、

  • ✓ 考慮すべき前提は、問題の予兆が生じても行政府自体は変わらないはずということだ。
    運営段階では実施協定に基づき行政府は粛々と運営に協力するスタンスを変えることはない。
    但し、政治的な選択肢として、将来確実に問題が生じることが明らかになった場合、この段階から行政府を巻き込み、利害関係者の意図を再確認するとともに、様々な議論を開始し、地域社会としての対応はどうあるべきかをオープンに議論できる。
  • ✓ 尚予兆があっても、問題はすぐ顕在化せず、当面の間事業は通常通り継続され、健全なキャッシュフローを生み出すはずである。
    但し、政治的判断として数年後あるいは将来の一定時にかかるリスクが現実のものとして生じる可能性がある以上、対応すべき措置を予め時間をかけて検討せざるを得ないことを上記は示唆している。
  • ✓ 予兆が明らかになった場合、利害関係者が集まる法定協議会を招集し、実態把握、意向確認、問題が顕在化した場合のインパクト調査・評価、考えられる選択肢等を地域としてのあるべき姿として議論を開始すべきだろう。
    この段階で実施協定の契約主体である行政府の意図と方向性を確認できる。
  • ✓ 一定期間迄に、事業継続を前提とし、解決の方向性が合意できるならば、それはそれで結構なことだ。
    解決の方向性が見えず、区域認定再更新が不可能な状態になりうると判断される場合には、退出戦略を考慮し、実施協定解除の条件等を交渉せざるを得なくなる。
    この場合、事業者としては撤退・事業譲渡・何等かの手法による再生等様々な選択肢がある。
  • ✓ 横浜市が提案したように、明確に予兆が明らかになった段階で、一定期間後(5年後)にIR区域認定取り消し・実施協定解除を前提に、時間をかけて、関連利害関係者とも調整を図り、事業の撤退・一部再生等の可能性を議論し、解決を図るという手法もある。
    立場を曖昧にせず、IR廃止を前提に調整を図るという考え方になるが、確かに時間をかければ合理的な解決策も冷静に考慮できるようになるのかもしれない。
    インパクトを最小化することを前提にし、何ができるのか、できないのか、合理的な解決策はありうるのかを議論し、妥協案を見つけるということになる。

上記は問題の予兆が顕在化した場合、利害関係者との真摯な対話を通じ、時間をかけ、問題の解決を考慮せざるを得なくなることを示唆している。
政治リスクへの対応とはそういうものなのだろう。

(美原 融)

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