National Council on Gaming Legislation
コラム

2021-08-11

115.IRにおける政治リスク ①概論

常に賛否両論をもたらす政策事由は、政策の実践レベルにまで議論を引きずる側面を孕んでいる。
IRもその一つだ。
当初から想定されたことだが、実施が予定される特定の地域社会でもし反対運動がおこり、これが継続的に存在し、大きな力をもってくるようになると、如何なるIRの構想・計画もその実践段階で確実にうまくいかなくなる可能性が高まる。
やはり構想・計画段階から地域社会の合意形成があることが前提で、もしこれが無ければ、制度としてうまく機能しなくなるということが立法過程における当初の懸念事項でもあった。
しっかりとした地域社会における合意形成手順を制度の中に盛り込み、これを実践することが問題を解決する。
ではだれがどういう形で当該地点と地域を選定し、市民を含む利害関係者の合意形成を図ることができるのかという点が試行錯誤の焦点となった。
もし民間主体がかってに土地を手配し、その地点でIRを実現することを前提に構想・計画をたてるとすると、自治体の地域開発計画や構想との矛盾が生じる可能性がある。
かつ近隣地域住民の反対運動を誘発しかねない。
更には民間主体による土地利権等の囲い込みや行政府や立法府との癒着・汚職等が生じやすい仕組みになりうる。
この様な状況で区域数を限定するという前提を取った場合、全てを民間事業者による自由な提案に委ねることになり、これでは民によるあらゆる提案が乱立し、区域を選定するどころではなく、収拾がつかなくなってしまう。

相当の土地を必要とする開発事業の場合、地域社会の利害関係を調整し、合意形成を調整できる主体は、国でも民間主体でもない。
最適な主体はその当該地域の地方公共団体になる。
地方公共団体は地域再開発の許認可の要になると共に、全体計画や部門ごとの地域計画との整合性、また必要となるインフラ整備等に関しても積極的なイニシアチブを取りやすいという立ち位置にあるからである。
更には区域の申請・認定に地方公共団体を絡ませることにより、議会同意や公聴会、パブリックコメント等の行政手法を駆使し、地域社会の合意形成を企図することもできやすい。
IRの発意・区域整備計画の申請主体を都道府県等(都道府県ないしは政令指定都市)としたのは、かかる再開発事業のイニシアチブをとり、関係者や地域社会の合意形成を調整し、取得できる主体は、相当の行政力のある地方公共団体以外考えられなかったからでもある。
合意形成の手法は様々存在し、一番ハードルが高いのは住民による直接投票による過半数の賛意取得を条件とすることだが、わが国ではかかる直接民主主義的方法を取ることは制度や慣行としては例外的になる。
勿論地方公共団体レベルで、住民の請願が一定数レベルになればこれは可能となる。
合意形成の通常の考えとは、間接民主主義が制度の基本である以上、関連しうる市町村、都道府県等の議会承認であろう。
議会に議案を出し、過半数の賛意を得るためには、住民の賛意を確認することも必要になり、公聴会や説明会等により、行政府の意図の周知徹底、十分な説明等により、住民が議案を理解し、支持することが前提になると考えられるからでもある。
かかる配慮に基づき、地方公共団体を提案・申請主体とし、住民の支持を取り付け、地方議会の同意を得ることを条件として、国に対し、都道府県等が区域申請をするという制度的枠組みが創出された。
当初の段階で、国、都道府県等に期待されたのは、制度の趣旨に合致しうる土地・地域を都道府県等が地域計画の整合性を保持しつつ、特定化すること、この区域・地点をベースに民間主体によるIR投資・整備提案を募り、競争的な公募を経て、投融資・整備・運営を担う民間事業者を選定することでもあった。
都道府県等は地点を特定化し、地域社会の合意形成を担い、民間事業者がこの地点にIRを提案・整備し、運営するという役割分担が想定されていたことになる。
IR推進法はこの基本のみを定める。
では国が都道府県等の提案を評価し、区域をまず認定し、その後事業者を選定するのか、あるいは都道府県等がまず民間事業者を選定し、その後共同で国に申請し、区域認定を受けるのかに関しては推進法には記載なく、整備法にその制度的枠組み構築が委ねられたというのが過去の経緯になる。

この仕組みは結果的に日本的な政治リスクを内在化する仕組みをもたらした。
区域認定に同意を付与する地方議会は、一定期間毎に選挙によりその構成が変わる。
首長も選挙で変わりうる。
よって当初は賛同し、推進していたはずの地方議会や首長が、選挙により反対派に占められるようになった場合には、時間の問題でこれが事業の推進や継続を困難とさせるような事象に繋がりかねないリスクを内在する。
議会レベルで与野党の勢力が拮抗していたり、選挙に強い反対派候補が組長に当選したりすれば、かかるリスクが顕在化する。
横浜市の場合、市長選挙は2021年8月21日である。
当初はそのころ迄には公募の結果、事業者を選定する手順を想定していたのだが、IRの是非が選挙戦の主要論点になった以上、何もできず、全てが止まってしまっている。
もしIR反対派の候補者が市長になった場合、市長の権限で、案件推進を停止することはいとも簡単にできる。
これは推進派にとり最悪のシナリオになり、横浜市も民間主体も大きな開発費用の損失を抱えることになりかねない。
もしこれが、区域認定後の話で、IR施設が完成し、順調にその運営がなされている段階で、反対派首長が当選したり、反対派が議会の過半数を占めたりした場合には、状況は異なる。
IR自体が順調に運営され、地域社会にも大きな経済的社会的貢献を果たしているとすれば、政治的意思のみで、この経済実態を壊すことはそんなに単純にはできないからである。

(美原 融)

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