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2021-03-29

76.カジノ行為:⑤ VIPマーケッテイングはどう認められるのか?

VIPマーケッテイングとは高額賭け金顧客(VIP)をカジノに誘致する業務でカジノ事業者にとり、重要な営業戦略の一つである。
世の中にはカジノを訪問し、高額の単価でかなりの総額を賭け事に費やす富裕層が存在する。
彼らを潜在的顧客として特定し、何らかのインセンテイブプログラムを提示し、カジノ施設に来訪させるようにする営業行為になる。
既存の米国のカジノ事業者等は主要地域・国毎にVIPマーケッテイング専用のスタッフを配置し、当該国における新たなVIP発掘や固定VIP顧客とのリレーション維持、施設訪問支援並びにアテンド、貸付の為のDue diligence、貸付回収支援等を行っている。
この様に既存のカジノ事業者は組織として自らの上得意VIPリスト・データを持っている。
あるいはこの部門の職員は担当地域・国においてVIP情報・リストを個人として保持しているのが通例である。
VIPフロアー・VIPルームは一般客を入れないため、黙って何もしなければ顧客は来ない。
富裕層に焦点をあて積極的に顧客層を開拓し、施設を訪問してもらうようにするのがカジノのVIPマーケッテイングになる。
あるいはカジノ施設に来て一般フロアーで高額支出をする顧客をピンポイントで確認・把握し、インセンテイブを提案し、VIPフロアーへと誘導・リクルートすること等も行われている。

ではカジノ業等に全く経験のない民間企業がかかる業に新たに参入するとしたら、VIPマーケッテイング等できるのであろうか。
ある程度の知見や経験がないと、VIPフロアーやVIPルームを施設的にどう構成し、どの程度のインセンテイブをサービスとして提供し、どのようなVIPをどう誘致するかの戦略を描くことはできない。
既存の事業会社からヘッドハンテイングにより経験のある管理職や職員を雇うという方法もある。
しかし一定のVIP顧客データが無い限り、ゼロからスタートすることは単純にできるものではない。
もっともこの世界は狭い。
VIPとの関係は属人的な側面もあり、ヘッドハンテイングする個人がかかるリストやリレーションを持っているということもある。
VIP誘致に際しては、このように施設の構成を考え、経験のある管理職や職員を雇用し、体制を整えることがまず第一歩の手順になる。
もっともこれだけではハコを準備するだけにすぎず、ソフトとしてはゼロだ。
実務的に必要なステップとは、まずは制度や規制上の制約要因は何かを把握し、VIPマーケッテイングにはどのような制約要因があるか、マーケッテイングに使えるツールはどこまで、何が認められるのかを判断する。
この状況次第で、マーケッテイングの範囲や何ができるかの裁量性が大きく異なってくるからである。
これは国毎に制度的背景があり、事情は大きく異なることも理解する必要がある。
例えば、中国本土で中国人富裕層を相手に我が国のカジノ施設に来るように中国国内で営業活動をした場合、この事実が露見すると中国刑法違反で即逮捕される。
かかる行為はまず不可能。
代理人を起用して活動することも認められていない。
この様に外国人VIPの場合には、顧客の国の制度として外貨持ち出し規制や送金規制があったり、外国に出て賭博行為をしたりすることに対し当該国の法令で顧客が罰せられる場合もある。
勿論かかる顧客が個人のリスクで出国し、わが国カジノ施設をかってに来訪し、遊ぶ分には問題ないだろうが、ことVIPに関する限り、他国施設と同様に何等かの誘因を設けないと外国人VIPはまず日本等に来ない。
一方、わが国のIR整備法の枠組みや規制の枠組みも、内容次第ではマーケッテイングの要素となる活動に関し、個別の制約要因や規制が存在し、必ずしも自由ではないという側面が存在する。
この内容次第で何を、何処までできるのか決まるのだが、現状は必ずしも明確ではない。

例えば下記の如き様々な側面の問題がある。

  • 対VIP Due Diligence:
    高額の預託金、与信、コンプ等の対象になりうるため、当該VIPの社会的地位・信用度・資産状況、過去のゲーム歴等、第三者興信所チェックを含めた顧客たりうるかのDue diligenceが必要となる。
    一定の法的要件の前提として組織のルール(内部管理規定)として取り決める必要もある。
    勿論何を何処まで調べるかは制度的次第となる。
  • 対VIP与信・預託の枠組み:
    フロントマネー預託、短期資金の融通等に関しては、顧客との一定の契約的枠組みにて貸付・返済に関する手順、条件等を取り決める必要がある。
    またIR整備法・関連規則が要求する手続き・報告等も合理的かつ許容できる内容であることが必要であろう。
  • 対VIPインセンテイブ付与とその管理、税務会計処理:
    上記の枠組みの中でコンプ、キャッシュバック、リベート等VIP顧客に対するインセンテイブは何を、どの程度迄可能か、またどのような事務手順や報告が要求されるか、かつまた税務会計上の措置(内容・手順)は諸外国と比較し、遜色のないものとなるか否か等は大きな判断基準になる。
    これらインセンテイブの費用性が税務上認められないとすれば、禁止的な費用がかかることになりかねないからである。
  • 対VIP行動規制(マネーロンダリング対策):
    マネーロンダリング防止の観点から顧客による預託、送金、残額や価値金等の送金等も所定の口座、所定の手順を踏む必要があり、顧客の行動に規制が課せられ、事業者もこれを遵守することが求められる。

上記は我が国にはVIPという定義も、VIPマーケッテイング規制という定義も言葉もないが、複数の個別の制度的枠組み(顧客勘定の設定、預託・与信等特定金融行為の枠組み、対顧客コンプ規制、税務会計上の枠組み、マネーロンダリング法制等)が一体となって実質的なVIPマーケッテイング規制を構成していると理解することができる。
よって、これら全てが合理的に措置されて初めてVIPに対するマーケッテイングの枠組みを考え、実践することができる。

(美原 融)

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