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2021-03-31

77.カジノ行為:⑥ コンプはどう認められるのか(制度)

コンプ(Comp)とはComplimentaryの略で、カジノ施設側がカジノで遊興する顧客に対し、顧客が賭けた金額の多寡に対応して提供される無料サービスや賭けた金額に応じて提供するポイント等の還元サービスのことをいう。
通常カジノ施設は企業として顧客に対するロイヤリテイー・プログラムあるいはリワードプログラムを保持・維持しており、顧客を当該施設に呼び込むための一つのマーケテイングツールとして、当該施設で遊べば遊ぶほど、(勝ち負けに関係なく)ポイントが貯まり、飲食、物品、様々なサービスを無料提供することで、顧客に還元する。
航空会社のマイレージと同じものと思えば解かりやすい。
勝てば面白い。
負けてもそれなりのサービスを受けられるということになる。

もしコンプが不特定多数の顧客を対象に、公表される一定のルールの下に顧客に提供されるマイレージポイントみたいなものだけであるならば事は単純だ。
既に類似的行為が我が国の他産業では実践されているからでもある。
IRカジノの複雑さは、コンプの態様はこれだけではないことにある。
例えば、フリークーポン、プロモ―ショナルチップ、フリーギフト券等は潜在的顧客を誘致する宣伝目的で郵送配布するもので、持っているだけでは無価値の紙だが、これを持って施設に行った場合、無料で遊べるチップや食事券との交換、ノベルテイ等の取得等が可能になる。
安価なものもあれば、高額のものもある。
過剰なコンプの供与が顧客を賭博施設へと誘い、破滅や依存症へと導くことに繋がるのだから、このコンプこそが悪の根源と主張する識者がいるが、恐らく実際にコンプを受けたことがないのだろう。
顧客に来訪を促すプロモーションとしてのコンプは単純な広告宣伝費に近い。
お金をばらまくというよりも食事を無料にしたり、フリークーポンを供与したりしても、これを超える賭け金で顧客が一定時間遊べば、確実に胴元は元を取れる。
お客に一定の満足感を与え、お得感を創出するわけだ。
一方、より高額なコンプとなるのは、一定の時間あるいは一定滞在期間に、実際に遊んだ後で付与されるコンプになる。
勝ったゲームでももらえるため、満足感は更に高まる。
負けた場合には、顧客損失(負け)の一部還元となり、100損するところが98で済んだということになる。
但し、不思議なことに、既に大きく負け越しているにもかかわらず、一定金額のキャッシュバックや次回来るときのホテル無料、飛行機代無料等を提示されると、これも不思議なお得感が生まれ、また来てもいいということになるのだ。
コンプはカジノ事業者にとり一般顧客に対しても、高額VIP顧客に対しても、効果的なマーケッテイングのツールでもある。
楽しく遊ばせ、又来たくなると思わせること、顧客に満足感を与えることがその目的になる。

IR整備法上はコンプとは「カジノ行為関連景品類」(第108条)という位置づけになり、事業者に対し、カジノ管理委員会が定める内容・経済的価値または提供方法に関する基準を遵守すると共に、記録を作成(日時、顧客指名、内容・経済的価値等)する義務が課される。
またこのために職員訓練、行為準則、監査人の選定等が要求される。
一方カジノ行為関連景品類は不当景品類及び不当表示防止法第4条に規定のある(価額上限、種類、提供方法等の)制限及び禁止規定は適用されない。
高額の取引となる場合、高額のコンプやキャッシュバックも慣例としてありうるからである。

具体的なカジノ管理委員会による規則(案)が開示されていない段階では、何が、何処までどのように認められるのか、あるいは何がどのように規制の対象になるのかを理解することはできない。
一定の行為基準の共通的な枠組みをカジノ管理委員会が設け、これに準じて、各施設が詳細な行為準則を設けるのであろうが、下記諸点がどうなるか次第で全体の仕組みが機能できるのか否かが変わってくる。

✓ 顧客に対するコンプ付与基準、コンプの種類等の選択基準等を設け、顧客に対し、これを明らかにする必要がある。
恣意的な考えではなく、一定のルールの下でオープンに、かつ公平になされることが必要となろう。

✓ 顧客個人の賭け金行動を把握するため、ロイヤリテイーカード等を用いて、ポイントを加算していくこと等が考えらえる。
規制当局に対する報告は、予め顧客の同意を得てこのデータから作成することになる。
勿論個人情報の取り扱いに配慮することは必要だ。

✓ 高額取引VIP顧客は一般顧客とは異なる仕組みのコンプになる。
予め契約にて預託、貸付、コンプ等の条件を取り決め、一回の滞在・訪問毎に清算することになるのだろう。
この場合、コンプの価額は取引量に応じて、高額になりうること、アジアのVIP顧客は、キャッシュリベートとかキャッシュデイスカウントと呼ばれる賭け金総額に対し、一定率の現金給付を求めることが多い。
取引(賭け事)となる商品は現金でもあり、一定時間のプレイの後に提供されるかかるキャッシュリベートは一種の原価の割引みたいなものになる。
現金給付はあまり我が国では見られない慣行でもあり、税務会計上これを諸外国と同様に販売促進費用(Promotional Expense)として、その費用性が認められることが絶対要件として必要になる。
勿論かかる行為が禁止されているわけではないのだが、罰則的に高額な課税の対象となる場合、実質的にかかる慣行は我が国では実践できないということになってしまうからである。

この様に、カジノには我が国では過去存在していなかった類の商慣行や顧客との対応がある。
制度や規則とビジネス慣行が微妙にかつ複雑に絡み合う側面もあり、これをどう展開していくかに関しては、検討すべき側面はまだ沢山ある。

(美原 融)

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