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2021-03-08

70.カジノのチップとは何か④ 電子化2)

世界各国のゲーミング展示会等に参加するとプロトタイプの電子化されたテーブルやチップの実物を体験することができる。
究極のモデルとなるのはテーブル自体が長方形のモニター画面になり、ここに映像としてバカラ等のテーブルが存在し、デイーラーと顧客がテーブルをはさんで対峙する。
賭け金はカードやスマフォをテーブルの所定場所にかざし、預託した個人勘定から引き落とす形で一定金額の電子チップに交換する。
もっともチップといっても画面上に現れるだけで、モノとして存在するわけではない。
バカラだとこの画面上のチップをタップ、スワイプし、例えばバンカーのポジションに移すことが賭ける行為になる。
ではトランプは?これも実物ではなく、デイーラーが画面上のカードを一枚こちらにスワイプして手渡してくれる。
このカードはふせられているのだが、トランプの端をほんの少し触ると、若干めくれて、誰にも解らない形で数字を把握することができる。
これをカードを絞るというのだが、画面を触り、絞るようにして数字をちらっと見れる。
この辺のスリル感は極めてリアルに近いのだ。
負ければ電子チップは取られ、勝てばデイーラーが電子チップをスワイプしてこちらに送ってくる。
一つの画面上でデイーラーと顧客が画面をスワイプしながらゲームの進行がなされるのだが、こうなるとカードもチップも存在せず、カードのシャッフラーもなくなる。
顧客から見ると全てが電子化、システム化されているわけで、果たしてこれで不正やいかさまが無いかどうか、気になる所だ。
一方、カジノ側からすれば、顧客によるカードの違法操作やいかさま・不正はまず100%不可能、デイーラーもシステムにはアクセスできない故、不正はできなくなる。
物理的用具としてのトランプもチップも電子化された映像でしかすぎず、これらの製造、移動、保管、使用、破棄等は一切不要になってしまう。
もっとも複数の人間が常に画面を触ることになるため、これじゃ非接触からは程遠く、顧客が変わるごとに画面を消毒する手間が結構大変な作業になりかねないという意見もある。

現実からあまりにも離れた究極的なシステムは、顧客から見ると障壁はかなり高く感じてしまう。
一方、表だけができる限り一部現実(リアル)に近い形をとりながら、残りは電子化してしまうという考え方もある。
リアルに近い方が顧客の心理的許容度は高まるからだ。
テーブルでチップ交換することは上記と同じだがそのテーブルのみで使えるRFIDの入ったチップを供与し、何処に張ったかを電子的にテーブルからトレースし、勝ちも負けも電子的に捕捉するという仕組みになる。
誰がいくら勝ったかを電子的に捕捉し、デイーラーはこの結果を見てチップを顧客に手渡し、テーブルがこのチップを認識し、顧客勘定にクレジットする。
このチップは、このテーブルのみで使える単なる指標にすぎず、勝ち負けは電子的に記録されているため、例えこのチップを外に持ち出しても、無価値、使おうにも使えない単なるプラスチックの塊でしかない。
顧客から見ると、トランプやサイコロ、チップ等は賭け事の道具としてそれなりに愛着があり、ある程度これらを意図的に残した方が、遊ぶことの臨場感やスリルを残すことに繋がる。
全てを電子化してしまうと、顧客にとっての面白さがなくなり、顧客の離反を招くという側面もある模様だ。

カジノの賭け事行為の電子化は、他にも様々なインパクトをもたらす側面がある。例えば、

  • 伝統的なカジノでは、チップと現金が様々な所に分散しており、一日一定時に全てこれらのインベントリーをチェックして、初めてその日の売り上げを確定できる手順になっている。
    賭け事の電子化はこれら作業を一切不要にし、紙幣を数えるためのソフトカウントルーム、コインを数えるためのハードカウントルーム等も施設的には不要になってしまう。
  • デイーラーの業務は賭け事のスムーズな進行にあり、特に複数の顧客に対し、正確に勝ち分をカウントし、顧客毎にこれを振り分けるのは結構神経が疲れる作業になる。
    一方、システム化されたテーブルでは、顧客毎の勝ち金の計算はコンピューターが処理するため、誤りはゼロ、かつ処理も瞬時に終わる。
    ゲームの一回のサイクル時間を短縮できることになり、これが短ければ短い程、ゲームの運営は効率が良くなり、売り上げ向上に寄与することになる。
  • またデイーラーの教育訓練の在り方も変わってくるかもしれない。
    ゲームの着実な進行のみである場合、機械的・単純な行為となり、あまり訓練されていないデイーラーでもミスを犯すリスクは限りなく少なくなる可能性が高い。
  • モノとしてのツール(チップやトランプ)を電子化してしまうと、顧客やデイーラーが何等かの不正行為をすることはまず不可能になり、監視の対象や監視の在り方も根本的に変わる可能性がある。
    人間の行動やリスクの在り方が根本的に変わるからである。
  • 電子化は顧客の賭け金行為をトレースできることを可能とする。
    AIを用いて観察すれば、顧客のおかしい賭け金行動をシステムが捕捉できることに繋がる。
    これもリスク軽減に繋がる側面がある。

デジタル化、電子化の動きは今後益々進展するのであろう。
もっとも、現実に起こるのは段階的、部分的展開で顧客の許容度を勘案しながら、少しずつ展開していくのではないかと想定される。
トランプの紙の中にRFIDを組み込んで紙をすき、トランプの束の個体認識をテーブルの下からする技術も現実に存在するようだ。
となると、かかる電子的ツールを顧客からは解らないように利用できることになる。
顧客にとってみれば、限りなく現在の遊び方に近い方が、確実に許容度が高まるに違いない。

(美原 融)

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