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2021-03-10

71.カジノのチップとは何か⑤ ローリングチップとは?

欧米では一般的ではないが、アジアを中心とするVIP市場では、ローリングチップ(デッドチップあるいはノンネゴシアブルチップ)と呼ばれる特殊なチップがカジノ場のVIPエリア(高額賭け金上顧客エリア)と呼称される場所で、このVIP顧客のためにのみ用いられている。
デッドチップとはライブチップないしはキャッシュチップの反対概念で、チップそれ自体は自由に現金交換できないチップになり、VIPルームと呼ばれるカジノ場の特定区域のみにおけるゲームにしか使用できない。
その目的は顧客の賭け金総額(Volume)を正確に捕捉し、これをベースに顧客に対するインセンテイブとなるキャッシュバックやキャッシュリベートを計算することにある。

と言われても、実際にやってみないとどういうことか理解できにくい。
VIPルームの顧客は、来場前に一定の金額をカジノ事業者に預託(デポジット)する。
ここから現金を引き出し、チップに交換して遊ぶことになる。
VIPルームでは、預託金から一定金額を引き出す場合、このルームでしか使えないデッドチップが供与され、これを使ってのみカジノ行為に参加できる。
このデットチップは当該ルームで遊ぶために使うもので、VIPルーム外では換金できえない無価値のチップになる。
ゲームで負ければ当然カジノ側にチップは取られる。
一方、顧客が勝った場合、勝ち分はデットチップではなく(通常の)キャッシュチップで支払われる。
これはデットチップと異なり、施設内のどこへ行っても使え、かつ現金交換可能なチップとなる。
但し、VIPルームで継続して遊ぶならば、このキャッシュチップは利用できず、その場で再度これをデットチップと交換し、遊ぶことになる。
即ちデットチップは顧客とカジノハウスの間をぐるぐる回ることになり、この事象をローリングという。
顧客が最終的にVIPルームを離れる時に、もし手持ちにデットチップが残れば、これはその場でキャッシュチップないしは現金として清算できる。
キャッシュチップならば、VIPルーム外の当該カジノ場では使えるし、ケージ(キャッシャー)で現金に換えることもできる。
これら一連の行為により、カジノ側は、顧客の賭け金総額を正確に把握することができる。
顧客は預託金を支払う際に、カジノハウスが、実際のローリングボリュームに対し、一定%のキャッシュバックをすることを予め合意しており、カジノ場を退出する際に、これに基づき顧客に対するキャッシュバックを実行することになる。
なぜこの仕組みが顧客に支持されるのかというと、キャッシュバックを最大化しようとする衝動が働くからだ。
カジノ側から見るとこれはよそに生かさず、滞在中顧客を囲いこむことができることを意味する。

ラスベガスではかかる手法によるキャッシュバックはあまり用いられておらず、カジノ側の理論的なポテンシャルウイン(カジノ側の理論的期待勝ち率)に基づきキャッシュバックやコンプを計算し、提供することが通例の様である。
一方マカオ等のアジア諸国では、VIP顧客の殆ど全てがローリングに基づく一定率のキャッシュバックを得る前提で遊ぶことが通例で、各カジノ施設による競争が生じている。
この競争があまりにも過激になったため、現状ではマカオの規制当局はこの率に一定の上限設定をするに至っている。
VIP顧客によるカジノ事業者の選択は、競争環境においては、当然のことながらキャッシュバック率が大きい施設に集中する。
顧客の囲い込みをするためにはより高いキャッシュバック率を提案すればいいということから施設間の競争が生じたものである。

さてこのローリングとは、(換金性のない)デットチップと(換金性のある通常の)キャッシュチップの両方を用い、カジノ場の特定の場所においてのみ、カジノ行為を認め、顧客の賭け金額を正確に捕捉するための行為になる。
さて、わが国で同じことを試みようとすると、このために用いられるローリングチップ(デットチップ)とは制度上のチップといえるのか否か、またかかるチップの使用はカジノ管理委員会により認知され、認められるのか等という課題が生じる。
当然のことながら、IR整備法はかかるチップが存在することを前提に作られたものではない。
デットチップとは通常のチップの一部機能・属性に欠けるチップになる。
もっとも欠けている属性とは、特定のVIPルームにおいてのみ使え、かつその場において、ゲームを終了する場合は、は現金ないしはキャッシュチップに変えられるが、他のカジノ施設の場所(平場)では利用できない(Deadになる)ということに尽きる。
いわばカジノチップの一部の機能が欠けているチップになるが、キャッシュチップと併用して使われることが基本になり、顧客の勝ち分はキャッシュチップで支払われ、このキャッシュチップはいつでも現金化できるという事実を考慮すれば、IR整備法上、チップに要求されている基本的属性を逸脱するものではないと考えることができる。
このチップはあくまでもカジノ施設内の特定のVIPルームにおいてのみ使用できるという使用が限定されたチップになり、VIPルーム内においては当然キャッシュチップを通じて現金と交換可能であり、この意味では機能としては通常のキャッシュチップと変わらないと判断できる。

デットチップ(ローリングチップ)のみを見て、単純に現金交換できないから制度上のチップの定義には入らないと判断することは、あまりにも形式的すぎる。
チップの機能とは何か、チップがどのように用いられているかの実態を考慮し、制度上の適合性を判断すべきと考える。
実態面で致命的な問題が生じる可能性が無い以上、特定の場所においてのみ、チップの一部属性が欠けることになっても、チップ自体の本来属性は何ら変わることはないと考えるべきであろう。
勿論この解釈はカジノ管理委員会に委ねられることになる。

(美原 融)

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