National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 66.カジノキャッシュレス化への課題②

2021-02-22

66.カジノキャッシュレス化への課題②

コロナ収束後のカジノ施設において果たしてソーシャルデイスタンスが守られるか否かは微妙だ。
今までの施設・機械設置レイアウトを根本的に変えざるを得ず、投資効率は悪化し、顧客のポジション数も減り、売り上げ減を確実にもたらしかねないからである。
当面の危機対応施策としては適切だが、これが永続的に固定化すれば、施設の事業性もなくなるリスクは高い。
こういう施策は長続きしないものだ。
一方、このコロナ騒動を契機に、今までも萌芽はあったが、今後加速しそうなトレンドもある。
カジノのキャッシュレス化である。
これにはレストランやショップと同様に、顧客が現金やチップに触り、やりとりすることをできれば忌避したいという衝動があるからだ。
顧客から見ればこれは当たり前の考えで、クレジットカードやデビットカード、様々な電子マネーやスマホを使った決済等多様な支払手段が日常生活には使用されている。
現金を持ち歩かない、あるいは現金決済を避けるというこの動きは、様々な社会活動において今後飛躍的に拡大することは確実だ。
もっとも日本は先進諸外国と比較すると、巨大な現金社会で、現金以外の支払い手段が例えばコンビニ等少額消費に関して迄、末端まで利用されるという状況にはない。
スマホ決済や電子マネー利用はようやく、発展しつつあるというのが現状であろう。

カジノでの遊びの決済にも、同様に現金以外の決済手段がもっと沢山あっていいという事情が、顧客側にもまた事業者側にも生まれてきたのがコロナ騒動の一つの興味深い帰結になる。
勿論、如何なる決済手段をどう使うか、使えるか等は制度的制約要因や規制当局による考え方や認証の必要性等もあり、必ずしも全てが可能になるというわけではない。
一方、米国等では規制当局が積極的にその導入を認めたりする州が生じつつある(例:ニュージャージー州)。
現状では、未だに一部の州、一部の施設でしかないし、規制当局の判断にもよるが例えば、デビットカード・クレジットカード、あるいはアップルペイ、グーグルペイ、ペイパル等のスマホ決済等による支払いが試行的になされているという状況にある様だ。

現金以外の非接触型決済手段の導入とは、顧客にとり、
① 現金以外の支払い手段の選択肢を増やし、顧客の利便性、支払いの安全性を高めること、
② 公衆衛生上の顧客の関心事・よりレベルが高まった安全に対する顧客要求への適切な対応を図ること、
③ 顧客にとってのデジタル支払いによる安心・安全性の確保、信頼性を提供すること
等をもたらすことがその狙いになる。
勿論これは事業者にとってみれば、電子機械、テーブル、チップ等の機械・器具、顧客ローヤリテイ―カード等の仕組みやシステムを変えざるを得ないことを意味する。
同時に、ケージや実際のゲーム進行の慣行の全てを組みなおせざるを得ないことを意味し、既存の事業者にとっては、カネもかかるためおそらく段階的・部分的にしか実現できそうもない。
もっともこれから制度を作り、新たな事業者が施設整備を図り、投資をするような国の場合には、制度を含めてゼロからかかる仕組みを前提にしようとすればその実現性はかなり高くなる。

一方、規制当局から見ると、当該国の既存の制度や規制の考え方(硬直性あるいは柔軟性)にもよるが、様々な対応や課題等が生じてくる。
例えば下記諸問題等が生じうることが既に指摘されている。
① カジノに係る過去や現在の制度や規制・監視の基本はあくまでも現金決済、ゲームにおけるチップの使用、機械ゲームにおけるTITO(Ticket In Ticket Out)の利用等の慣行に基づいており、電子マネーを含む、電子決済手段の許諾は、規制と実務慣行の在り方双方を根本的に変える必要性がある。
② 事業者毎に手段の採用や実務慣行が異なることも問題となる。
個別事業者の裁量を認めつつも、共通的な側面に関しては、規制や慣行・手法はある程度業界統一的に環境を整える必要性もある。
何を何処まで規制の対象にするかは微妙な側面もある。
③ 新たなサイバーリスクへの対応や、電子化に伴う法の執行をどうするか、違反者をどう摘発できるか等の工夫が必要になる。
④ 手持ちの現金内で遊ぶという上限がなくなる場合、効果的な依存症防止対策を別途考慮する必要があるか否かを検討する必要がある。
利用上限設定を個人の責任でするか、規制でするか、あるいは予め現金を電子的に預託させ、その枠内で電子マネーの利用を認めさせることにするか等何等かの対応を迫られる可能性もある。

尚、わが国のIR整備法だが、全てのゲームの決済・進行は現金を前提とし、現金と交換される物理的なチップ等が基本の制度となっており、国会での質疑にもあったが、電子マネーを使うことは全く想定していない。
一方顧客ローヤリテイ・カードに一部決済機能をもたせ、一定の預託金の枠内で、顧客の利便性を向上させる仕組み等を想定している民間事業者もいる模様で、単純な白黒ではなく、別の観点から決済の一部電子化を志向する動きもある模様だ。
将来的には遊びとしての賭け事も、技術の発展に伴いその全てないしは一部が確実にデジタル化・電子化するのだろう。
一方、デジタル化は、カジノにおける顧客の取引記録・行動記録を正確に把握できる仕組みを提供することに繋がり、場合によっては個人情報保護の問題が生じうると共に、逆にこの特性を利用し、顧客の依存症性向の判断に用い、顧客の消費行動を抑制するツールとすることもできる。
何を何処までやるべきかには政策的にも様々な選択肢があることになる。
制度も規制も、固定的なものとは考えず、法が本来志向した目的と理念を維持しつつ社会経済の変化に応じて、柔軟に変えていくことも必要だろう。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top