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2021-02-17

65.カジノ・キャッシュレス化への課題①

カジノ業とは昔も今も基本は現金ビジネスがその特徴になる。
さる外資系巨大カジノ企業のオーナーとGGR各国比較の話しをさるホテルのスイートでしていたのだが、突然彼が「昨日と今日はどうなった?」と一言いうと、たちどころに取り巻きが世界中の昨日のカジノ施設毎のキャッシュポジションの一覧表をもってきたのはびっくりした。
施設毎に毎日集計させ、これを総計して、世界中どこにいようが毎日メールで報告させているわけだ。
巨大企業のオーナーでもこんなことをしているのかということに驚いたと共に、成程これは現金ビジネスなのだと感じいったことがある。
そもそもカジノ施設とは顧客が現金を持参し、持参した現金の枠内で遊ぶことが基本の遊びである。
20年前のカジノ施設とは硬貨やコインがスロットマシーンから落ちてくる音(即ち顧客の勝ち分だ)が一種独特の騒がしさを生み、この音が顧客の賭け金行動を誘因すると言われた位、キャッシュにあふれた施設でもあった。
これがため巨額の小銭・少額紙幣が施設内に貯まるわけで、これらを集計し、地下にある大金庫や銀行に運び込むわけだが、こうなるとカジノも飲み屋や飲食店あるいはパチンコ店と変わることはないキャッシュレスからは程遠い現金ベースのビジネスになる。
カジノでは顧客が現金に固執したことが、現金ビジネスが主流として定着した主な理由でもあった。
現金を持参しなくてよい遊び方が始まったのはカジノ施設から与信(クレジット)を受けることが可能となる仕組みができてからだ。
要は信頼おける顧客は遊ぶための資金をカジノ企業から短期的に融通してもらうことができるようになった。
もっとも勝てば現金をもらえ、その場で融通された資金を返済し、勝ち分のキャッシュを持って帰ることができる。
全額負ければ後刻借金として返済することになる。
これも直接現金を使わないといえばキャッシュレスと言えないこともないのだが、電子化されたツールを使うキャッシュレスではない。
尚、パチンコカードも一部セグメントは電子化されているとはいえ、パチンコのカード導入は金の流れと玉の流れの管理と規制が目的で、カードは現金と機械をつなぐツールみたいなもので、機械の電子化、機械が直接電子マネーを受領するという仕組みではない。

カジノの賭け事をキャッシュレス化する技術は既に様々なものが存在しているのだが、中々これが市場にて採用されてこなかったのは、顧客、カジノ企業者、機械・システム製造家、規制当局各々の思惑が存在し、同じ方向を向いていなかったという理由による。
これは下記事情になる。

  • 顧客の許容度:
    遊び方が変わってしまうことによる客離れはあるものだ。
    そもそも実際の賭け事を電子化した場合、信用できるのか、騙されているのではと思う顧客心理はかなり強い。
    公正な第三者が公正さを保証しない限り、電子化された賭け事は誰も信用しない。
    かつ電子化は顧客の賭け金行動のログを記録できることを意味し、個人情報が不当に利用されるかもしれないとする顧客の心理も根強い。
    一方、コロナ禍に伴い、現金やチップに触れることがリスクではという心理も生まれ、顧客の許容度も変化しつつあるのではないかとする意見も存在する。
  • カジノ事業者の課題:
    電子化、キャッシュレス化はカジノハウスにとり、機械・システム全てを変えることを意味し、大きな投資負担が前提になる。
    部分的に実行することも、非効率で顧客の混乱を招きかねない。
    キャッシュレス化は事業者にとり、内部管理手法(Internal control procedures)を根本的に変えることを意味し、業務遂行・管理手順、コンプライアンス手順・手法、関連する職員教育等も全面的な修正を余儀なくされる。
    不正やいかさまへの対応の考え方も変わり、新たに生まれてくる脅威~サイバー犯罪~への対応、セキュリテイ―に係るしっかりとした体制等が確実に必要になる(外からのサイバー攻撃により、ソフトやシステム等に侵害されたらひとたまりもないのだが、電子化はこの新たなリスク対応を加速化せざるを得ない状況を生む)。
  • 機械・システム製造家の課題:
    既存の機械や器具・用具・ツールは使えなくなり、新たな概念のものに代替されることになる。
    テーブル自体が電子化されたシステムとリンクする必要がある。
    スロットマシーンも単純キャッシュレスにする場合、機械毎の偽札識別機(ビルバリデーター)は不要になる。
    新たな電子化された器具・システムの導入と新たな事業者がこの業に参入してくる可能性が高くなり、技術の発展と共に企業の新陳代謝が起こりうる。
  • 規制当局の課題:
    カジノ行為の電子化、キャッシュレス化は、規制の考え方も実際の制度・規則等も変えざるを得ない側面がある。
    (本来この分野の規制とは、市場の実態や技術の発展を正確に把握し、これに合わせて規制や管理監督の在り方を変えていくというのが欧米の生き方なのだが、日本はまず規制ありき、かつ硬直的に変えにくいという性格になりそうな雰囲気がある)。
    遊びの電子化は、取引毎のログデータ管理や顧客単位毎の監視を可能とし、トレーサビリテイが高まるというメリットがある。
    勿論制度的に何を何処までできるのかという課題もあり、単純ではなくなる。
    規制、監視の基本は全く異なってしまう可能性が高い。

キャッシュレス化と一言でいうにはあまりにも複雑な利害関係者の絡み方になるが、顧客が人の手を渡るチップや現金に降れるのを忌避する傾向が今後ある程度継続するとすれば、キャッシュレス化は一挙に進む可能性がある。
一方、COCID-19は急速に事業者の考え方を変えつつあり、カジノ行為自体のキャッシュレス化を志向すべきという声が日増しに増えているのは事実だ。
技術はある。
問題は何時、何を、どうするかだ。

(美原 融)

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