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2023-07-31

219.マネーロンダリング・テロ資金対策(AML/CTF)(4)

マネロン・テロ資金対策(AML/CTF)規制の大枠はFATF関連の推奨事項やこれに伴い各国で制度化された制度・規制により、先進各国では類似的な制度や慣行が根付きつつあるのが現実だろう。
我が国のマネロン・テロ資金対策も類似的な考え方を採用しているのだが、新しいビジネス領域(例えば民設民営による賭博施行)が今後制度的に生じた場合、これに伴い政令・規則等が改正されることになる。
もっともどう実務として具体的に対応するかに関しては、個別法令の規定や関連する規制機関の意図等によっても事情は異なってくる。
スポーツブッキングの施行を担う事業者側の立場に立ってみた場合、おそらく下記対応策等が求められるのではないかと考える。

  • → 法規制を踏まえた企業としての全体ビジネスリスク評価(Business Risk Assessment)と対応方針策定:
    前回概略を提示したが、Risk Based Approachに基づき、個別企業が置かれた環境を踏まえ、如何なるAML/CTFリスクがあるかを特定し、全体ビジネスリスク評価(Business Risk Assessment)を策定する。
    これをもとにまずAML/CTF対応施策・方針を策定する。
    どういう方針で如何なる管理手法によりリスクの発生を抑止し、リスクが生じた場合のインパクトをどう軽減するかの基本的指針になる。
  • → 管理体制(ガバナンス)の構築:
    内部管理組織・体制を構築し、経験・権限のあるコンプライアンス担当役員をAML/CTF対策責任者として指名する。
    この下に日常的業務を担う管理組織・監視組織を設ける。
    取締役会、管理職や職員が制度や規制要件を正しく認識し、コンプライアンスにコミットしていることが全ての前提になる。
    また別途第三者による監査委員会を設けAML/CTFコンプライアンスの監査体制を設けることも効果がある。
  • → 内部管理実施手順等の策定:
    AML/CTF管理手順を誰が、どう実施するかの手順書を定め、運営行為の定常的モニタリングと管理を実施する。
    定性的分析に基づく主要なパーフォーマンスを検証し、主要なリスクを評価すると共に、一定金額以上の取引、疑わしい取引等を特定し、顧客の本人確認手順を徹底すると共に、規制当局への一定金額以上の取引報告(CTR),疑わしい取引報告(STR)の適時実践等の一連の手順・報告要綱等を定める。
  • 顧客勘定開設に関わる本人確認手順等の策定:
    顧客勘定設定に際し、一定の顧客個人情報を取得し、公的書類の確認等による本人確認手順を定める。
    必要に応じ追加的情報を要求する等の措置が必要な場合もある(顔認証、公的本人確認書類による確認、アクセス手段のGeolocation確認、IPアドレスその他トレース可能な利用者データ等の指標の確認、預託金支払い先・支払い手段等の適法性の確認等Know Your Client (KYC)Policyを策定し、実践する。
    尚、勘定開設時と共に、後刻再度同じ顧客がアクセスする場合には顔認証等によりアクセス毎に(顧客に過度の負担をかけずに)本人確認手順が必要となることもある。
  • → 顧客デユーデリジェンス(Customer Due Diligence)手順の策定:
    高額取引客や通常以上にリスク要素が高いと判断される顧客に関しては、より詳細なリスクベースによる顧客Due Diligenceプログラムを策定し、これを実践する。
    疑わしい取引の場合にはEnhanced Due Diligenceとして更に詳細な調査を実施する。
    かつ一端特定した主体は、定期的に状況をアップデートする。
  • → 取引の電子的モニタリングの実施:
    不正やいかさま等の違法行為がマネーロンダリングに絡むこともあり、通常の行為とはいえない異常な取引や巨額の取引、継続する高額取引等疑いの可能性のある取引をプラットフォームの枠内でシステム的に捕捉、特定し、問題となるか否かの検証を行う。
    問題となる場合には、直ちに当該取引を停止し、規制機関等への通告を行う。
    In-Gamingでは電子的になされるオッズの設定変更や顧客の賭け金行動は瞬時に行われるため、システム的な監視をすることが必須の要件となってしまう。
    このために、コンプライアンスに有効な技術やシステムを設置ないしは強化する必要がある。
  • → 定期的職員教育の実践:
    運営部門にまたがる職員責務に基づく定期的なAML/CTF教育を実践し、コンプライアンスのカルチャを組織内に醸成する。
  • → 電子取引記録の保存:
    後刻トレースできるように最低5年間程度の取引記録データ等を保持する義務が法令により要求されることがある(顧客勘定の入出金記録、一定金額以上のクレジット、外国への送金、CTR/STR報告並びに関連バウチャー等)。

尚、電子取引が前提となる場合、顧客が賭け金行動を開始するに際し、経過時間、日、週、月単位での賭け金上限設定を要求する規定を設けている国や地域もある。
過度の賭博依存行為を避けることが目的だが、個人に紐づけられる場合、マネロンのPlacementはできにくくなるという効果もある。
電子システムや技術の発展は、顧客本人確認のための複雑なシステムや、賭け金行動の自動モニタリング能力に加え、顧客の嗜好や賭けパターンや好みの特定化、通常では考えられない疑わしい取引の特定化等をシステム的に処理できる時代をもたらしつつある。
新たな技術やデータ収集方法も登場しつつあり、例えばブロックチェーン技術をプラットフォームに採用し、In-Gamingに際し、分散化された帳簿により仲介者を排除した支払いの即時性や安全性の強化、取引費用の縮減を図ることができる。
これら新しい技術の採用が、AML対策上効果的なツールとなることもありえる。

(美原 融)

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