National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 27.IR:インバウンドビジネスモデルは崩壊?

2020-09-25

27.IR:インバウンドビジネスモデルは崩壊?

日本のインバウンド観光戦略は、2000年代小泉政権の時代から本格的に検討され、2006年の観光立国推進基本法から胎動したといってもよい。
これにより観光庁が創設され、様々な観光振興施策が胎動した。
観光振興は少子高齢化時代における地域活性化の切り札、高い経済効果と地域活性化効果をもたらすということがその政策目的だ。
その後の民主党政権下でも同じ戦略・政策が継承され、政権が再び自民党に戻り、更なる推進策が実践された。
毎年アクションプログラムが策定され、観光ピザ不要国の増大や、観光客の利便性の向上施策、インバウンド観光客を誘致する様々な仕組みや仕掛け等が功を奏し、毎年インバウンド観光客数は増え、飛躍的な外国人観光客増をもたらしたことが事実となる。
長年に亘り、毎年上方あがりで、海外からのインバウンド客が確実に増大してきた以上、誰もがこの前提と将来への明るい予測を疑わず、様々な施策の展開や施設の整備、サービス等の拡充を実践してきた。
インバウンド観光施策が過去10年間に亘り、経済の活性化に貢献した側面は定量的にも、定性的にも評価できる疑いのない事実でもある。
観光振興とは、財政負担をあまり必要としない、経済効果の高い施策でもあり、政府としては積極的に推進しやすい政策目的であることは間違いない。

一方公衆衛生上のリスクともいえるコロナ感染症は、本年春以降、日本を含めた諸外国が、国家間の人の交流や移動を制限するに至り、世界レベルでの観光需要の蒸発、あるいは極度の減退をもたらした。
わが国におけるインバウンド観光客の数も、2020年上半期において実質的に蒸発してしまったに等しい実績に至っている。
この極めて究極ともいえる惨状を見て、インバウンド志向の観光ビジネスモデルは既に破綻したと断定する意見がある(例えば8月26日衆議院内閣委員会における野党議員の発言)。
インバウンド依存等既に破綻、ローカルな観光需要、国内旅行需要を活性化することこそ、観光業が生き残る道ということなのであろう。
一面の真理ではあるが、言うは易しく、行うは難しいという命題の典型例になる。
短期的に見た場合、他に選択肢が無い以上、国内旅行客に当面注目することは当然の戦略になる。
一方、インバウンド観光等依存すべきではない、もう中国人・韓国人観光客等不要と判断するのはあまりにも短期的な見方で極論すぎる。
短期的事象にのみ考えが集中し、中長期のあるべき姿が見えにくいためかかる意見もでてくるのであろう。
人間はどうしても目の前の事象にとらわれがちで、中長期的な将来を推測し、判断することには不慣れで、不安定な状況が続き、将来が見えない時、どうしても判断がぶれてしまうことが多い。

コロナ禍前迄の過去10年来のインバウンド観光客の伸びは、日本だけの現象ではなく、世界レベルにおける海外観光旅行客増の一事象になる。
中国・韓国・東南アジアにおける経済成長、これに伴う中間所得層の増大、アジアを中心とした世界レベルでの国際観光旅行ブームがその背景にある。
日本の過去の実績からすれば2010年代のインバウンド旅客の年々の増大は特筆すべきだが、他国におけるインバウンド観光旅行客数増と比較すると、左程大きな数値ではない。
本来もっとインバウンド観光客が来てもよかったのだが、左程でもない。
既に日本は成長の果実の取り込みに成功しているわけではないのだ。
日本がアジア観光客を惹きつけたのは、①アジア各国にとり、もっとも短距離で、時差も少なく、手軽に、安いコスト、早い時間で行ける先進国であること、②観光入国ビザが緩和され、誰もが手軽に行きやすくなったこと、③アジア各国にはない、歴史、文化、自然、食が存在すること、③安全、安心、清潔、あらゆる楽しさ、面白さを兼ね備えた先進国は日本以外、アジアには殆ど存在しないこと等がその主な理由になる。
日本は、日本人が想像する以上に、潜在的にアジアのインバウンド観光旅客を惹きつけることができる魅力や観光資源を持っている国でもあり、本来、数千万人を超えるレベルのインバウンド観光客がこの国に押し寄せても、おかしくない国でもあるのだ。
この日本が抱えるアジアにおける観光上の地政学メリットを最大限生かす政策や戦略を日本が取ることは何らおかしな考え方ではない。
インバウンド観光振興施策は、過去も、また現在も、将来も、その重要性が薄れることはありえない。
政府は、2030年訪日外国人客6000万人、消費総額15兆円という目標を現状変えてはいない。
勿論これを達成するために現行の施策をどう変えるのか、何をどうするのかに関しては、政府はまだ考えを纏めきれていない模様だ。
 
目の前の課題に対処する緊急性がある場合、中々冷静に将来を分析することはできにくい。
当面の日本の観光戦略をどう考え、実践するかは微妙な課題だ。
もし、短期的にコロナ禍が終息すると仮定するならば、既存の中長期観光戦略を変える必要性は何ら無い。
もし、この過渡的な状況があと1年、あるいは2年続くとした場合、この中間的な回復への過程で、何をどうするかに関しては極めて微妙な判断事項になる。
当面V字回復は期待できない。
但し、どこかの時点で確実にV字回復ができると想定できるわけで、当面何をすべきかという課題になる。
座して回復を待つという静態的なアプローチはまずありえない。
観光業が業として崩壊しないようあらゆる支援を供与しつつ、観光業の需要を底から引き上げるしか合理的な方策はあるまい。
インバウンド顧客は必ず戻る。
インバウンドの成長戦略・観光戦略は決して破綻したわけではない。
関連する既存または将来のビジネスも単純に崩壊することはない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top